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『君と明日の約束を』 連載小説 第六十一話 檜垣涼

檜垣涼(ひがきりょう)と申します。
小説家を目指して小説を書いている京都の大学生。
よろしくお願いします
毎日一話分ずつ、長編恋愛小説の連載を投稿しています。
一つ前のお話はこちらから読めます↓

 その単調な音に体が押しつぶされるような気持ちになる。
 みんなが何かと向き合う音のない数秒間。どんな時でも僕から目を離さないお母さんが、僕のことなんか目に入っていないみたいにお父さんに話しかけている。

「お父さん」

 目の前にいる大好きなお父さんが自分の涙でぼやけていく中、こもったような一音が耳に届いていた。

 白衣を着た男の人が僕の父親の死亡を告げたあと、いつも温厚な母がその人にまくし立てていたことを、ふわふわした気持ちで見ていたことを覚えている。

 数週間前に父親と話した時、大丈夫だと笑っていた。だから大丈夫なんだと思った。
 治る、と言っていた。すぐに退院できる、と言っていた。だからもうすぐ一緒に遊べるものだと思っていた。
 終わりが分からない小説を嫌いになったのは、あれからだったと思う。

 *

 数日後の夜、慎一が家に来た。用件は、どうして電話に出ないんだということだった。
 ここ数日間スマホを開いていなかった。部屋に戻って確認すると、何十件も着信があった。慎一からの気づかなかったのではないけど、素直に言うこともできなかった。

「ごめん、充電するの忘れてた」

 塾の帰りに病院に寄ると言っていたから、慎一も病院でのことは日織から聞いているだろう。だから僕がお茶を濁したのは分かっているはずだ。
 それなのに彼は、頓着しない様子でつぶやいた。

「メッセージ見ろよー」

 彼の軽さのおかげで、僕も重い雰囲気にならずに済む。

「ああ、分かった」
「それと、明日、学校行ける?」
「え? なんで」

ーー第六十二話につづく

【2019年作】恋愛小説、青春小説

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