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『君と明日の約束を』 連載小説 第七十七話 檜垣涼

檜垣涼(ひがきりょう)と申します。
小説家を目指して小説を書いている京都の大学生。
よろしくお願いします🌻
一話分ずつ、長編恋愛小説の連載を投稿しています。
一つ前のお話はこちらから読めます↓

「大丈夫だよ、私はそんな理不尽なことはしないって決めてるから」

 それは彼女の書いている小説の話を言っているのだろうか。
 それとも、彼女自身のことだろうか。

 彼女が僕に向かって小指を出す。

「約束。明日のこの時間もまた会おうよ」

 多分、どっちもだろう。

「わかってる。心配なんてしてない」

 言うと、彼女の表情に驚きが滲んだのがわかった。

 嘘だ。でも、心配なんかずっと掛けてくれれば良い。そう思った。

「もう最後まで手伝うって決めたから」

 彼女が光を込めた瞳でこちらを見据えている。

 僕が頷き指を絡めると、彼女は。どこまでも自然に、自分の体に潜んでいる病気なんて忘れてしまったかのような幸せな顔で、笑った。

 彼女の笑顔は、僕を心配させないため、自分も失敗するかもしれないという不安に押しつぶされないため。どっちでもいい。
 絶対なんてない。だから僕は、最後まで彼女を手伝うことを決めたのだ。

 面会時間の終わりが来て、僕は立ち上がる。

「また明日も来るから」

 病室を出てエレベーターホールに向かう途中、待合スペースに寄ると彼女の母親が座っていた。

 僕に気づいた母親が立ち上がり、疲れ切った顔に笑みを浮かべる。その表情の奥に以前のような葛藤はない。

「ありがとうね、小坂君」
「こちらこそ、ありがとうございます」

 僕がバイトの後に面会に来るのを知って、僕がいる間、病室の外で待っていてくれているのだ。一度、中にいてくださいと言ったのだけど、面会終了までの数時間以外はずっといるのだから、と食い下がられた。

「明日の手術、お昼ですよね?」
「そうね、十一時から。明日は朝から来てくれるの?」
「はい。十時ごろに一度。その後学校に行く用事があるので、また昼過ぎに来させてもらいます」

 面談の日だった。田内に言ってずらしてもらうことはできたのだけど、それをするとなんだか彼女の手術が失敗になるかもと考えてしまっているようで嫌だった。だから、朝に一度顔を出してから、面談を終え、すぐに病院に戻る予定にしていた。

ーー第七十八話につづく

【2019】恋愛小説

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