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『君と明日の約束を』 連載小説 第七十五話 檜垣涼

檜垣涼(ひがきりょう)と申します。
小説家を目指して小説を書いている京都の大学生。
よろしくお願いします💠
一話分ずつ、長編恋愛小説の連載を投稿しています。
一つ前のお話はこちらから読めます↓

 言うつもりはないらしい。考えてみればそうだ。僕と関わってから今日まで、ずっと彼女は嘘をつき通している。

 彼女が切望にも似た表情を浮かべているのを見て、僕は彼女の嘘に乗るべきか考えてしまった。もし乗らなかったら彼女はどうなるだろう。僕が彼女の遺書を鞄から取り出したら、彼女は動揺を隠してまだ嘘をつき通すだろうか。保険のためだと言い張って、会うたびに嘘の笑顔を作って僕と話すのだろうか。

 それとも、僕に本当のことを言って、彼女は申し訳なさそうな顔をするだろうか。嘘をついていたことへの罪悪感と、会うたびに自分の心配をされるだろうことを考えて、悲しい顔を見せるだろうか。

 ふっと、昔聞いた彼女の言葉を思い出した。

『明日も来てくれる?』

 無表情だった彼女が、初めて見せた笑顔。それを、思い出した。

 僕は、彼女の嘘を遺書と共に心の中にしまうことにした。彼女のためだけじゃない。彼女を手伝いたいと思った自分の気持ちと、自分の心を守るため。口に出さないことが、彼女が置かれている事実を再確認しないまま過ごす方が、いいように思えた。

「わかった」

 僕が言うと、彼女は抱えていた圧から解放されたように破顔した。

「ねえ、ミツ君、また――」
「また手伝うよ」

 彼女の見開かれた目の奥に、温かい光が灯った。

 それを見ているとなんだか恥ずかしくなってしまって、それを紛らわすように言葉をつなげる。

「大して何もすることないけど」

ーー第七十六話につづく

【2019】恋愛小説

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