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『君と明日の約束を』 連載小説 第七十四話 檜垣涼

檜垣涼(ひがきりょう)と申します。
小説家を目指して小説を書いている京都の大学生。
よろしくお願いします🌷
一話分ずつ、長編恋愛小説の連載を投稿しています。
一つ前のお話はこちらから読めます↓

 咄嗟に何か言おうとした彼女だったが、僕の空気を察して黙ってくれる。それに甘えて僕は話を続けた。

「日織が病気だと知ってたはずなのに。だから無理させてはいけなかったのに無理させるようなこと言って。体に負担をかけさせて」

 あの時バイト先でジャンキーなものを勧めたせいで店長が彼女に作ったバーガーがずっと頭の中で引っかかっていた。ご飯を食べる時、彼女が毎回のように料理に入っているものを確認していたのも多分栄養を考えてのことだったのだろう。

「挙げ句の果てに、水族館まで誘うようなことをして」

 僕がそこまで言い切ると、彼女が違う、と声を張った。

「別にそんなんじゃない。私もミツ君のおかげで頑張れているって言い方したけど、それはミツ君がいなかったら楽しくやれてないって意味」
「だとしても一方的に怒鳴って約束を無視して」

 彼女は少し口を膨らまし、頷いた。

「確かにあれはひどいよね、信じられない。傷ついたよ」
「ごめんなさい」

 彼女はふふっと息を漏らした後、「でもね」と告げる。

「水族館も誘ってくれるのは有難かった。小説のためもだけど、普通に関係なく楽しみだった。だから、そう、手術が終わってから行けばいい。ちゃんと治ってから、行って、楽しんで、それで思う存分勉強して書けばいい。手術が失敗することはない。死ぬならまだしも、無理して水族館に行く必要ない。君が正しい」

 彼女は死なないと言っている。遺書まで用意した上でなお、そんなことを言う。

 彼女は僕が遺書を読んでいると思っていないのだろう。

「だから、君が私に無理させた、っていうのは違う。それはうぬぼれだよ。むしろ逆。ミツ君が手伝ってくれるようになってから、私は毎日が楽しくなったの。分からないかもしれないけど、私いつも苦しかったんだ」

 奇しくも、日織は慎一と同じ言葉を口にした。

「だから、大丈夫。手術が終わったら、一緒に行こうよ」

ーー第七十五話につづく

【2019】恋愛小説

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