『君と明日の約束を』 連載小説 第七十八話 檜垣涼
檜垣涼(ひがきりょう)と申します。
小説家を目指して小説を書いている京都の大学生。
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一話分ずつ、長編恋愛小説の連載を投稿しています。
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夜、母親と進路の話をした。ちゃんと話すのは初めてだったのかもしれない。そして、風呂に入って寝た。朝起きてすぐに病室に行き、彼女と顔を合わせ、彼女を手術室に送り出し、そのまま朝食を食べず、学校に行き母親と合流、そして田内と面談をする。そんなことが、淡々と行われていた。というか、多分実感していなかっただけなのだろう。
電車に乗って、途中の駅で母と別れてから、急に得体の知れない不快感がこみ上げてきてしまい、長い間病院に足を向けられず駅のトイレにこもっていた。ポケットに入っているスマホが震えた気がして、画面を開く。メッセージなんて届いていない。
手術が終わったら日織のお母さんが連絡はしてくれると言っていたから、まだ手術は終わっていないらしい。
なんだかよく分からなかった。重圧、冷や汗。手の震え。目をつぶれば日織の表情が脳裏に映り、日織の声が耳の奥で響いている。なんだこれは。
胸の奥がムカムカして吐き気がする。朝何も食べなかったのは正解だった。えずいても何も出てこなくて済む。
このまま病院に行って手術が終わるのを待てる自信がなかった。こんな精神状態で病院にいたらおかしくなる。
僕は圧を振り払うように首を振り、気を紛らわせるために文庫本を開いた。ポケットの中の振動はずっとおさまらない。
文字を目で追って、また戻る。文字を追って、戻る。何度も同じ一行を繰り返し読んで、パタンと閉じる。
だめだ。気持ち悪くなってきた。
外に出ると、自然と足はフードコートに向かっていた。
とぼとぼと歩くと、少しだけ気分がましになった気がする。
「あ、小坂くんお疲れ様―」
その時、不意にかけられた声にぎょっとする。
派手な格好をした葵さんが「よっ」と手を挙げていた。
「今日バイトなかったよね――って、大丈夫? 顔色すごいよ?」
ーー第七十九話につづく
【2019】恋愛小説
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