『君と明日の約束を』 連載小説 第六十二話 檜垣涼
檜垣涼(ひがきりょう)と申します。
小説家を目指して小説を書いている京都の大学生。
よろしくお願いします🌻
毎日一話分ずつ、長編恋愛小説の連載を投稿しています。
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「それをスマホで送ったんだけど」
慎一が目を眇める。
「ごめん」
慎一はふっと笑った後、わざとらしい怠そうな声で続ける。
「なんかまた七三が面倒な仕事押し付けたらしい。学校の職員室に印刷機あるだろ? その印刷機一斉に検査に出してるらしいんだけど、急に刷らないといけない書類できたらしくて、だったら印刷機を持ってる文化部に頼めばいいとか言い出したって」
「だからって」
「意味わかんねーだろ」
悪態をつく。
「新聞部とか生徒会執行部とかも頼まれたらしい。石井がぼやいてた」
石井というのは以前部活削減の話を教えてくれた執行部員だ。
「田内から連絡まわってきたんだけど、めっちゃ謝ってた。だから、頼む。俺明日から二日間テストで行けなくて」
慎一はここ最近いつも塾に遅くまで残って自習しているらしい。華さんからは、ミツくんのおかげで息抜きができたと言われていたが、別に何もしていない。
だから、これくらいはするべきだと思った。それに、朝起きて本を読み漁って、考える時間が多い生活を紛らわしたいという気持ちもあった。
日織からのメッセージは、慎一が帰って、寝る準備をしてから開けた。ある程度の準備がなければ見られないものだと思った。
通知が増えているメッセージを開く。一番上は慎一からだった。さっき言ってた内容。それを既読にしてから、彼女からのメッセージを開いたことを後悔する。
あろうことか、彼女は謝罪の文面を送っていた。
『心配させちゃってごめんね。水族館のことだけど、家で待ってるから、もし行けるってなったら連絡して』
もともと水族館に行く約束をしていた日。
彼女は行くつもりだったのだ。
彼女は何を思って待っていただろう。また、別れ際に見せた心を隠したような表情でこのメッセージを送ったのだろうか。
彼女の手術が終わったら、もう僕は彼女から離れるべきだと思っていた。だからといって彼女に負担をかけた責任は消えるわけがない。それも分かっている。
しばらく文面を見つめ、僕はそのメッセージに返信をせずにスマホを閉じた。
ーー第六十三話につづく
【2019】恋愛小説、青春小説
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