蜩ひかり
まとめるほどでもないもの
~2000字前後の短編・掌編です。
MS業務やキャラクターについてのあれこれです。
kindleストアで販売中の電子書籍です。
現在Skebのリクエストを募集中です。 一次創作作品(PBWやTRPG等も含む)の二次創作小説が主な得意分野になります。 最低料金から受け付けておりますので、お気軽にお声かけください。 ▼個人ページ ▼発注者様向け公式ガイドライン ●テキストあらすじやお題などをいただき小説を作成 一次創作作品の二次創作小説、ノベライズ、感想など イラストやキャラクターにSSを付ける(発注者様ご本人が権利をお持ちのものに限ります) 過去に執筆した当方の創作作品や、登場キャラク
運命の輪の軸に選ばれる人間というのはたぶんあらかじめ神様が決めたもので、あなたは最初から断崖絶壁の淵に立たされてわたしを見下ろしていた。 あなたはこれを選んできた道だと言った、ほんとうにそうならせめて視線ぐらいは合ってもよかった。偶然でも一瞬でも救わせてほしかった。 あなたの眼はもう手が届きようのない暗闇を見据えていて、そのときわたしは生まれて初めて誰かのおそろしさに、強烈なうつくしさに心ふるえたのだ。 怖いものほど見つめたくなる、うつくしいから覗きたくなる、けれど
朝起きて、わたしの頭上に覆い被さるどんよりとした曇り空からふと光がさすのを見あげて、今日もあなたが太陽であることをなにより尊いと思う。 あなたが太陽であること、太陽であらなければいけないこと、それを他でもないあなた自身が一番に咀嚼しながら燃えている、だからあなたの振りまく輝きはこんなにも暖かく世界を包みこむ。 太陽が出ていても雨は降る。あなたがほんとうは泣いていることを知っている。けれども雲は晴れるから、わたしたちはあなたの天気雨で恵まれている。あなたが通るだけですべて
紫陽花が似合うあなたはいつでも冷たい雨に打たれている。濡れそぼった髪が額にはりつくのをどこか気だるげにかき上げる、その仕草がうつくしいと思う。 頬を伝う雨にどれだけの涙が隠れているのか、わたしたちが知ることはけして許されない。あなたはいつも曇り硝子の向こうにいる、雨はあなたの本当を洗い流す。足元には群青色の海がたまる、波は穏やかできれいだ、けれどいつもすこしだけ濁っている。 降りつづける雨がせめて暖かければいいのにと願う、けれど横殴りの雨が降る嵐の中で磨かれ続けた正し
小麦色の肌がよく似合うね、なんて言われてるあの子の肌が本当はひどく白いことを、いったい何人が知っているのだろう。 季節外れの真夏日がささやかれるたびにあの子を思いだす。あの子はいつもきれいだ、けれど半袖と素肌の境目にくっきりと引かれた線、あれだけはどうにも残酷で好きになれないよ。 太陽はいつもあの子にだけ厳しすぎる、あなたがそんなに頑張る必要はないんだよと、誰が言ってもあの子は困ったように微笑むだけだ。あなたには届かないから美しいんだ、そんなフレーズが頭を過る。 今
死後の世界には三途の川があると聞いていたけれど、あの話は嘘だったのだと今しがた思い知った。 視界いっぱいに霧のかかった原野が広がっていて、青々とした叢からはなぜか線香のにおいがする。その中央に、土をかるく慣らしただけの凸凹の一本道が通り、一面の緑を左右に分断していた。 行けども行けども道におれ以外の人影は見あたらず、いよいよ不安になってきたところ、道がYの字の形に分岐するのが見えた。 分岐点にはまるで山道のように、行き先を示す立て札が立っている。 片方には「天国」、
流れ星が願いを叶えてくれそうな気がするのは、きっとあのちいさな炎が燃え尽きて、もう消えてしまう寸前だからだろう。何億光年か先でわたしたちのために光るいのち。その上にほんとうは誰が立っているのかを知れるとき、わたしも跡形もなく消えている。 月はきれいだけれどなにも叶えてくれない気がするな。あそこは竹から生まれたわがままなお姫様が治めていて、兎が住んでいる不思議の国、昔からそういうことになっている。 勝手に満ちたり欠けたりするし、太陽を食べたりするし、月はいつだってわがま
わたしは雨である。 雨というものは表現手法においてまったく便利な代物で、いついかなる時も適当に降らせておけばよいのである、と思われている。 悲しみや希望やエモみを付与するために塩胡椒感覚で振られるこちらの身にもなってほしいものだ、と食品界隈にぼやいたら「それはどっちかというと僕みたいな感じだよ。なにと合わせてもなんとなく合ってしまうんだ」と卵に言われたし(卵のやつは食べられる側のくせに妙なドヤ顔を浮かべていた)、デジタル画材界隈からは「わかる、戦場塵ブラシみたいなもの
別れの挨拶は祈りなのだ、と唱えたひとがいる。 もう二度と会わないことを願ってさようならと、また会えることを願ってまた明日と、口が滑るその一瞬だけ誰もが無邪気な魔法使いになる。 さようならの呪文は滅多に効かないし、また明日に裏切られた日は世界が凍る。それでも勝手にやってくる明日へほんのすこしだけ反抗するために、はじまりの魔法を使ったひとがいる。 すべてのさようならが優しくならない今日だから。 わたしは顔も知らないあなたたちに、また明日、と唱えることにする。
都会を歩くひとたちはみんな透明だ。情報の洪水でわたしたちの色温度は希釈され、水びたしの街には水面に反射された空と高層ビルだけが取り残された絵画のように映っている。 コンクリートで舗装された歩道の合間で、さみしさを埋めるために咲かされた紫陽花は、すこし汗ばむような初夏の空気に囚われている。あのちいさな花々を囲む川辺の散歩道の上で、子どもたちが川に向かって石を投げているのを見た。 通りすがりの透明人間は、石がぽちゃんと川に落ちる音が聞こえないことに気づいてふり返る。そのと
あなたがあなたの思いどおりのあなたじゃなくても私はあなたが好きなことに変わりはないし、あなたがあなたを否定しても私はあなたのことが好きだよ。たったそれだけを許せないひと、あなたが求める私はきっと初めから宇宙のどこにも居ません。 煩い流星群が流れている、自己肯定自己肯定自己肯定自己肯定自己肯定自己肯定、自己肯定の行列はやがてゲシュタルト崩壊する、だから列に並ぶのをそっと抜け出すひとがいる。 足下ばかり見ていないと石が転がっていることにも気づけない、一寸先の闇へ飛び込むつも
遡ることができるなら変えたいのは私の未来なんかじゃなくて、ただ貴方に会いに行きたいな。これからを見つめつづけることならできるけれど、これまでは知ることしかできないし、貴方のすべてが記された図書館には幾重にも鉄条網が張られていて、永遠に通行許可が下りない。 貴方の心を覆っている棘は硝子のように透き通って綺麗だけれど、其処にはあまりに明確な拒絶と断絶が立ちふさがって、私達の目を遠ざけようとする。頑強な城壁にはなにものも近寄れず、触れることができない花が咲く、いつまでも散らない
未来のことなんて誰にもわからないけれど白か黒かなら白がいい。なんて、あたりまえのことを言うひとには誰かを刺す気なんてないのだろうし、だからきっと息をするように人を刺している。 刺された傷口がひらくのは明日かもしれないし、一年後かもしれないし、ずっと気づかずに、或いは気づかないようにして、ただほほ笑みながら白い未来を歩いているひともいる。真っ赤な足跡がみえるのは後から来た私達だけだ、来た道をふり返らない人の脚はいつも傷だらけだ。 太陽がまぶしくて背を向ければいつも黒し
貴方の眼のなかに深海を見るのは私が貴方をなにも知らずにいられるからだ。塵芥の雄弁が埋まる水の底では沈黙だけが宝石だよ、その光だけが世界を照らしていることだけは知っている。貴方のうつくしさだけが正しいから太陽はいつも東の海に寄り添いたがるんだ、深海に居る貴方だけがそれを知らない。 なにかを思うことも許されないと勘違いするのは私の勝手で、本当は許さないとさえ思ってもみなかったのでしょう。驢馬の耳には名前さえ明かさなくていいから貴方がいい、秘密は海底に穴を開けてしまうから、打
船に乗るということは、つまり漂流するということだから、それは百歩譲って仕方がないことだ。ただでさえ憂鬱なのに、この船の航海士ときたら、まるで他人の気持ちなどに思いを巡らせたことがないような真っ青な顔をしていて、わたしはあの亡霊めいた男のつめたいまなざしが目に入ると、朝晩生きた心地がしないのだった。 ああ、あの男は嫌いだ。ああ厭だ厭だ。 水平線から知らぬ顔の朝日がやってくる。もうすぐ朝食の時間が来てしまう。いまさら胃にも残らない呪詛を吐いたってなにもかも手遅れ。わたしたち
「大丈夫」って君は言うけど、何が? 僕からしたら大体なにもかも同じ。だから今、君に言うべき言葉を頭の中で考えている。 心は裏腹でも身体は動くし、今日も夜が来る。大丈夫だよ、僕は君がしきりに繰り返すその言葉を、信じることができない。本当はどうでもいいから、いつもそんなことしか言えないんだろう。 誰も彼も気持ち悪いから、いいかげん傷つけてやりたかった。君のことなんか嫌いだと、はっきり突きつけてやるつもりだったんだ。けれど口から飛び出したのはまったく違う言葉だったから、僕が一