見出し画像

#ロンドンのウソつき 「キッカケ」 No.12

小説 #ロンドンのウソつき 「キッカケ」 無料連載中です。

最初から読んで頂ける方はマガジンにまとめていますのでNo.1からどうぞ。


#ロンドンのウソつき 「キッカケ」 No.12





即席のテーブルとして用意した小さな台。
いつもは高いところにある物を取る際に踏み台にしている木製の台。

停電の復帰を待っている間、事務所の外に椅子を出して座りながら、その踏み台をテーブル代わりにしていた。
台の上のお皿に乗っている残り2枚のビスケットの中から1枚をつまんで松下は自分の口に持っていった。
もう片方の手を顎あたりに添えて、ビスケットのカケラが落ちないように。
少し食べにくそうだ。

「このビスケット美味しい!さすがマークス&スペンサー」

そう独り言のような声は僕に同意を求めているようだった。
僕もお皿に残った最後の1枚に手を伸ばした。

「もう後30分くらい待ってもまだ停電していたら、諦めて帰ろっか!」

僕は停電で仕事が中断になり、すでにもうやる気を無くしていた。
外に椅子を出してインターンの松下と座りながら停電を待っている。
2杯目のコーヒーを飲みながら、これを飲み干したら家に帰ろうと考えていた。

「そういえば谷山さんはイギリス留学を決めた後、何かプランはあったんですか?ブランドのデザインアシスタントとして働いてらっしゃったんでしたっけ?」

と、松下が前から気になっていたことを思い出したかのように質問して来た。

松下はロンドンの大学に通っておりデザインを専攻している。
インターンの面接に松下が来た時は「ブランドのアトリエなどで働いたほうが良いのでは?」と進めたが “ メディア関係の仕事も気になるので。デザインは大学で学び、実社会ではまずメディアの仕事をしてみたい ” という答えだった。
なので僕が経験したブランドのアトリエでの仕事の話も気になるようだった。

ビスケットが無くなったお皿にはビスケットの小さなカケラや表面についていた砂糖だけ残っている。

「そう言えば当時、実は出発の1週間前まで特にイギリスでやる事など決めてなかったんだよね。バイトが忙しくて、イギリスに行く用意もしてなかったから。。」

と言いながら僕が当時の記憶を呼び戻した。
コーヒーはまだ少し暖かくて、苦い濃いめのブラックコーヒーは甘いビスケットとのコントラストがあって口の中に一気に広がった。





「お疲れ様でしたー!」

専門学校を卒業した後は、ほぼ毎日吉野家でバイトをしていた。
いつも通り深夜までアルバイトをして、朝に朝番のシフトの人と交代する。

今日も朝の出勤ラッシュの時間にバイトを終えて店を出た。

店の脇に止めていた自転車にまたがり、僕は自宅がある北方向とは逆の南方向へと自転車を走らせた。
専門学校に通いながらずっと続けていた吉野家のアルバイトも、後最後の1回だけ働いたら辞めることになっていた。

お世話になったバイト先のみんなのために、お礼を込めて最後は何かお菓子の差し入れをしたい。
なので近くのイオンなどたくさんのお店が並ぶショッピングモールへと向かっていた。
そこでテキトーに3,000円くらいする箱に入ったスイーツを買おうという考えだ。

自転車で15分くらいの距離だったので意外とすぐに到着した。
昨日のバイト出勤前に調べた通り、朝の早い時間でもイオンなど1階の食品売り場はすでにオープンしていた。


朝のオープンした直後の店内は、人がポツポツといるぐらいで店員さんのほうが多いぐらいだ。

僕はギフトやスイーツなどいろいろなお店が集まっているコーナーへ向かった。
何でも良いとは思ったが、いざ選ぶとなると優柔不断になってしまう。
シュークリームやワッフル、どら焼きなどいろいろなメーカーのお菓子が並ぶ通路を2〜3往復している。

幸いどこのお店も開店直後の準備で慌ただしく、僕に気を止める店員さんは誰もいなかった。

「もうワッフルでいいかな」

と、第一印象で良い感じだったワッフルを買うことにした。
柔かい生地の間にいろいろな味のクリームが挟まっており、今すぐ食べたいと思うスイーツだった。

「すいません、この20個入りのセットください。」

「ハイ、ありがとうございます。3,250円です。」

僕は自分より1回りくらい年の離れた女性にワッフルの詰め合わせを注文をして、慣れた手つきで包装された商品を受け取った。

冷蔵して保存することなどいくつか注意事項を伝えられたが、深夜のバイト疲れでほとんど聞き流してしまった。

僕は買い物の目的を終え、イオンを後にしようと思った。
ただ、フと上を見渡すと2階以上のお店もすでにオープンしている時間になっていた。
そして何も考えず、僕は吸い込まれるように2階にある本屋さんに向かった。

いや、何か大切な物が見つかると第六感が働いたのかもしれない。。。

続く

最後までお読み頂きありがとうございます。
「スキ」や「コメント」など頂けますと執筆の励みになります。

フォローをして頂けますと、更新時に見逃さずに読んで頂けます。ぜひフォローをよろしくお願いいたします。

またツイッターのフォローもよろしくお願いします。


この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

「お礼を言うこと」しかできませんが、サポートもぜひよろしくお願い致します! 今後の執筆時のリサーチ予算として利用させて頂きます。