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「ゴジラ−1.0」を見て「シン・ゴジラ」を振り返ってみた(もちろんネタバレあり)

山崎貴監督のゴジラ70周年記念最新作「ゴジラ-1.0」を見て、却ってというか必然的に「シン・ゴジラ」を思い出したので書いておきたい。

巷では「シン・ゴジラ超え確実!」とか「庵野真っ青!」などと騒がれているようで、たしかに「シン・ゴジラ」より非オタクの一般の人が感動できる内容で、VFXと人間ドラマのバランスも絶妙だったと思う。海外でも評価されるだろうという指摘も納得である。

個人的には「わだつみ作戦」の意外性が良かった。終戦直後の日本が舞台と聞いて、いったいどうやってゴジラと戦うんだ?と映画が始まる瞬間まで不思議に思っていたが、1947年当時の日本でも実行可能か?と思わせる、兵器がない中で使えるモノと人員をかき集めて、その当時に実際に沈没・破壊されていない艦船(高雄、雪風、響、夕風、欅)を登場させたのも上手いと思った。登場した艦船の名称や来歴などは以下の動画に詳しく解説されている↓

泡で包んだらゴジラって沈むの?と思ったが、沈むらしい(^o^)
空想科学研究所の動画で紹介されていた名古屋市科学館の動画↓

更には極めてマニアックな「震電」を切り札として登場させたのも唸らされた。史実では実戦に参加しておらず、そこまで完成に至らなかった幻の戦闘機を、映画では存分に飛翔させて「こういう可能性もあったかもしれない」という姿を見せてくれたのはオタク心を刺激してワクワクさせてくれるものであった。撮影のために制作した実寸大レプリカを撮影後に筑前町立大刀洗平和記念館へ寄贈した?(Wikipediaには寄贈と書かれているが、この記事では輸送費含めて2200万円で購入とある)というのも胸熱である。

震電に関してはマニアのみなさんがたくさん動画を作っているのでいくつか紹介しておきたい。

俳優の演技も(シン・ゴジラとは対照的に)感情豊かであり、個人的には浜辺美波も神木隆之介も良かったと思う。ヒロインが一番美しく撮られていたのはやはりこのシーンか。

公式サイトより

ということで確かに非オタクの一般映画ファンやゴジラファンにもおすすめだし、100億突破しそうだし、うまく噛み合った人には泣ける映画だし、満足できた。絶望的な状況で、あるものでなんとか犠牲を前提にせずに戦い、沈んでいくゴジラに海神(わだつみ)を見出して敬礼する人々の姿に感動し、本当に見てよかったと思う。日本人ならではの可能性を、この物語を通して信じることができたのだ。

             ◆◇◆◇◆

だがしかし!オタクである自分にとってはどうなのか、と「シン・ゴジラ」をAmazonPrimeで見直してみて、やっぱりこちらも良かったのだ。端的に言えば、シン・ゴジラは「オタクたちが日本を救う話」なのだから(^o^)

自分が特に好きなのは、自衛隊がゴジラを止められず、米軍がバンカーバスターを命中させて衝撃を受けたゴジラが火焔と熱線を放射するべく急速進化して都心を焼き払うパートから、ヤシオリ作戦の立案・準備と実行のクライマックスまでの部分だ。

国連軍が熱核攻撃を決定し、エネルギーを放出して固まっているゴジラの再始動までの猶予期間中にゴジラを凍結させるヤシオリ作戦は、特に牧元教授の解析表を巡る分子生物学的な謎解きの部分など、オタクではない一般の人にはわかりにくいものかもしれない。

しかし、初代ゴジラのオキシジェン・デストロイヤーから30作目のわだつみ作戦に至るまで、通常攻撃では倒せないゴジラを知恵と科学で倒すという伝統(正直に言うとその他のゴジラはちゃんと見ていないので、こういう伝統があるのかどうかは知らないm(_ _)m)の中では最先端?のキー・プロットと言っても良い。そして原発事故のメタファーとしてのゴジラを考える時、現実に原子炉の暴走を止めるために生命を賭して立ち向かった人々のことを思うと、特殊建機部隊のコンクリートポンプ車がブームを伸ばしてゴジラの口内に血液凝固剤を投入するシーンは何度見ても手に汗握ってしまうのである。ここは単なるフィクションには見えない、我々が何気なく日常生活が送れるのは、現実に未知の相手に立ち向かった人々が居たおかげなのだと思い出さずにいられないのだ。

ヤシオリ作戦の第4段階、米軍のトマホークに破壊された高層ビル群の倒壊に押し倒されるゴジラのVFXパートも、特殊建機部隊の活躍する第5段階の音楽(伊福部やエヴァの流用ではなく、鷺巣詩郎の新作!)も、そして凍結できたかと思った途端にゴジラが立ち上がって、一声吠えきった瞬間に固まるクライマックスまで、奇跡のような流れ、やはりこれが素晴らしい!

そして庵野総監督と同世代の自分たちにとっては、この「あらゆる分野に広く遍在する無名のオタクたちの底力」こそが日本の成長を支えてきたという自負があるのだ。やはりこういうところが自分の心に響いてしまうのだ。もちろん、作品の優劣の問題ではなく、個人的な好みの話だが、どうして自分はシン・ゴジラに心を打たれたのかを再確認するよい機会となった。

なので、山崎映画のファン、ゴジラファン、特にシン・ゴジラファンにも「ゴジラ-1.0」をお勧めしたい。シン・ゴジラのファンは見比べることで、改めてシン・ゴジラの傑作ぶりが身にしみてわかるだろう!

余談だが、ヤシオリ作戦に米軍が協力するときに「空軍も海兵隊からもサポート志願者が続出よ!?」とアン・パターソン役の石原さとみが言っていたが、現実の米軍も日本のアニメオタクが多いらしい?

もう一つおまけで、駐日米国大使と機内で対話する時の石原さとみのうつろう表情も良かった。見直してみて改めて実感したこの映画の良さで、シン・仮面ライダーにも浜辺美波の柔らかな表情を捉えたシーンがあったが、この石原さとみの演技に対するディレクションは庵野総監督だったのか樋口監督だったのか気になるところである。

さらに、総理補佐官赤坂役の竹野内豊が、里見臨時総理から国連軍の熱核攻撃を知らされ全権委任草案立案を指示された時の逡巡するような(珍しく目を泳がせている)表情、その後反発する矢口たち若手には「決定事項だ」と揺るぎない姿勢を見せるのも、シン・ゴジラの中で珍しく表情の演技が行われていることを、改めて味わうことができた。ストーリーを追っているだけではなかなかこういう演技にフォーカスできないよね(*^^*)


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