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現役転職エージェントが思う、今の転職エージェント業界の問題点【3】希望に合わない求人をどんどん紹介される

転職エージェントを利用する求職者が持つ不満のひとつとして、

 希望に合わない求人をどんどん紹介される

があります。

例えば、「機械メーカーの設計職」「大阪勤務」「年収600万円希望」とエージェントに伝えたのにもかかわらず、送られてきた30件の案件の中に、

「技術系派遣会社の設計職」
「兵庫勤務」
「年収上限550万円」

のような求人が幾つも混ざっている。

ハードワークのない働きやすい会社を希望したのに、ハードワークで有名な会社を紹介される。
転勤がない会社を希望したのに、「転勤可能性あり」の案件が幾つもある。こうした話は、残念ながらよく聞かれる話です。

私自身、今から2年前に転職活動をした時、大手エージェントも利用。
面談で、

「人材紹介の両面型コンサルタント(求人開拓、求職者面談の両方を行う職種)が希望。以前に派遣営業もやっていましたが、派遣営業の案件は希望しません

そのようにエージェントに伝えたのですが、翌日、紹介された15件の案件のうち、人材派遣の営業職が4件含まれていました。
その他、人材業界とは違う異業種の案件も3件入っていました。

伝えた希望通りにやってくれればいいのに、なぜ希望に合わない案件を平然と紹介するのか?という疑問を感じる求職者の方は、少なくないと思います。

よく言われるのが、

「エージェントは企業から求められている人材を入社させて、企業から手数料をもらっている」
「エージェントは、自分たちの希望よりも企業の意向を優先している」
「エージェントは自分たちが希望する会社じゃなく、エージェントが入れたい会社に押し込もうとする」

など、求職者の意向ではなく、エージェント、企業の意向で進めようとしてくる、という趣旨の声です。

結論として言えば、希望に合わない求人をどんどん紹介される大元の理由はエージェント都合でやろうとする点にあると、私も感じています。
ただ、一言でエージェント都合を辞めよ!と簡単にはいかない様々な事情があるのも事実だと思っております。

この記事では、希望に合わない求人をどんどん紹介される事を引き起こしている、エージェント側の具体的な4つの要因について解説いたします。
その上で、あるべき求人紹介の在り方について取り上げていきます。


【要因①】求職者を囲い込もうとする心理

転職活動において、求職者は複数のエージェントに登録をしているケースが多くあります。

そのため、エージェントは他社よりも先んじて求職者と連絡を取り合い、先に求人を多く紹介し、速やかに複数の案件を進行させる
そのことで、ライバルのエージェントが手を付けられないよう、自分たちで求職者を囲い込みたい、と強く考えています。

実際、多くの求職者も複数のエージェントを利用している事実があり、且つエージェントも自社ビジネス成功を目指して仕事をしているため、この心理が無くなることはないでしょう。

■ 焦りが生む、合わない求人紹介

できるだけ他社エージェントからの”横やり”を避けるべく、エージェントはできるだけ自社から多くの求人を紹介することで、

  • 他社から先に提案させないようにする(先に自社から提案しておけば、他社から来たとしても、”あ、それはもう紹介されてますので”となる)

  • 他社に相談する気が無くなる(自社の転職支援だけで十分満足した状態になる)

こうした状態を作ろうとします。

勿論、その求職者が希望する案件を、その方の状況から応募可能な数を考慮し、できるだけ多くの求人を速やかに紹介することは、エージェントとしてすべき事であり、悪い事でもなんでもありません。

ただ問題は、冷静に考えればその方に合わない求人だと分かるのにもかかわらず、囲い込むことが目的となって希望に合わない求人をどんどん紹介する、という行為になることです。
これは、囲い込まねばと考えるエージェント側の一方的な焦りが引き起こしていると、私は考えております。

■ KPIの影

エージェントの中には、求人紹介からの書類選考通過率として30%という一つの目安があります。
▼書類選考の通過率については、下記の記事でも詳しく解説をしておりますので宜しければご覧ください▼

エージェントはビジネスとして、1か月ごとの成約目標(入社決定目標)があり、その目標数から逆算して、1次面接実施数、書類選考数(企業への推薦数)の目標(いわゆるKPI:Key Performance Indicator)を設定しています。

書類選考数の目標を立てると、必然的に何件くらい求人を紹介しないといけないかを、各自で考える事になります。

エージェントの転職支援は、長い業界の歴史の中で、一定の確率が業界内で出来上がっており、ビジネスを進めていくという観点では、この確率(KPI)を達成していけば売上が上がるという側面もあります。

求職者の意向とは関係なく、時にKPIに基づいて無理やり紹介する案件を抽出。それを求職者に紹介するという事が、ここで起こってくるのです。

【要因②】エージェントが求人案件に詳しくない

エージェントが紹介する求人が10件あったとしても、そのエージェントがその10件すべてを熟知しているとは限りません。

■ 分業型のエージェントで起こりうること

例えば、求人企業担当(通称リクルーティングアドバイザー。以下RA)と面談担当(通称キャリアアドバイザー。以下CA)が別々になっている、いわゆる分業型のエージェントであれば、面談担当は当然、基本、求人企業と直接接点はありません(例外有)。

接点がない分、RAよりCAの方が案件内容に関する知識、理解度は当然低くなる傾向があります。

しかも、CAは面談に特化している立場のため、数多くの求人応募を獲得するため、大量に求人を紹介することを求められることも後押しし、求職者から見て合わない求人にもかかわらず、どんどん紹介してくるという事が起こります。

CAの中には経験豊富な方も一定数いて、RAよりも求人内容に詳しく、RAからの情報が薄いと、逆にもっと詳しく内容を教えるよう厳しく求めてくる意識の高いCAもいます。
そのため、”起こりうること”として理解して頂ければと思います。

■ 両面型のエージェントで起こりうること

RAとCAの両方を一人が担当している両面型(又は両手型)エージェントの場合、自分の求人を、自分が直接求職者に紹介するため、当然分業型CAよりも内容は詳しくなる傾向があります。

また両面型は、そもそも求人企業も求職者も自分で担当して、それぞれにきめ細かな対応をしたいという志向性の人も多いため、詳しい紹介を後押ししています。

但し両面型の場合、紹介する案件が全て自分が担当している案件とは限りらず、時には社内の別担当が持っている求人を紹介することもあります。

そうなると、当然その担当者よりは詳しくないため、説明が薄くなる可能性があります。

また、社内の別担当から、その求人を進めるよう強く依頼されていることもあり、そうなると社内的な忖度も働き、求職者に合わない求人でも紹介だけはする、という事も起こります。

■ 安易な「求職者に決めてもらおう」精神

エージェント内では、まず案件を紹介して、求職者に決めてもらおう、という考え方があります。

エージェントはプロの視点で、その求職者に合っていると思える求人を選び、紹介します。
とはいえ、いくらプロの視点で良い案件と思っていても、どこかで求職者の意向とズレている可能性はあります。

そのため、プロの視点できちんと選定した上で、最終的には求職者の意向を確認して決めてもらう、という考えを持っています。

しかしこの前提は、あくまでエージェントが「プロの視点できちんと選定した」にあります。

中にはその点をはき違えて、決めるのは求職者だし、求職者が好きな案件を選べばいいのだからと考え、乱暴に言えば適当に数だけピックアップして送り込めばいい、と考えているエージェントも中にはいます。

以前、私が在籍していた会社では、

「その職種の仕事内容は求職者の方が良く知っているんだし、(自分たちは詳しくないのだから)選んでもらえばいい。質問とか出たら企業側に確認します、と答えて対応すればいい」

と豪語する人間も、残念ながらいました。

エージェントが求人に詳しくないことを横において、求職者の意向を尊重するという名目で「求職者に決めてもらおう」という安易な考えが、希望に合わない求人を送る一因にもなっています。

【要因③】はき違えた”提案”

エージェントは転職のプロとして、その求職者がどういう会社・仕事の選択をすればキャリアアップできるか、求める生活ができるのか、幸せになれるのか、を真剣に考え求職者に求人を提案します。

エージェントの強みは、何より様々な企業、求人案件、転職者と接する中で、様々な転職事例を見てきており、その実態を基に根拠ある提案ができることだと思います。

例えば、エンジニアの方がエンジニア目線で見た時、○○社の案件は自分には無理じゃないか、と思っていても、エージェント目線ではこれまでの採用実績、他社での似たような事例から、○○社でこの方は活躍できると判断できたりします。そうした引き出しを、エージェントは数多く持っています。

また、時に求職者の希望が、転職市場の相場、状況とは明らかにかけ離れていることがエージェントからは見えており、そのままの希望条件だとどこにも決まらず、求職者本人が苦しむことが容易に想像できたりします。

こうしたエージェントが持つ引き出しからの求人提案が、そのエンジニアの方の枠を良い意味で壊し、可能性を広げ、キャリアアップを実現する転職に結びついたりします。

ただ忘れてはならないのは、エージェントの提案は、あくまでエージェント目線であること。

時にエージェント目線での提案内容が飛躍しすぎたものであったり、知識不足から明らかに適切ではない提案があったりします。
また、エージェントの提案自体が本当は適切であったとしても、今、求職者にとってその提案を受けるタイミングではない、という事もあります。

それにもかかわらず、エージェント側の提案が、結果としてエージェント側が考える”正しい”の押し付けになってしまい、求職者からは希望に合わない求人を強引に押し付けてきている、と思われることが出てきます。

【要因④】機械的なマッチング

特に大手エージェントになってくると様々な部分で自動化が進み、求職者にとっても求人検索や応募管理、進捗管理など非常に使いやすくなっています。

求人紹介についても、求職者が面談で伝えた希望内容に基づき、かなりの部分で自動化が進み、自動マッチングがなされています。

しかし、自動化の精度は年々高まっているものの、まだまだ精度には課題があります。
特に経営者のカラー、職場の雰囲気、細かな仕事の進め方など、いわゆる「アナログ」な部分はまだまだ自動マッチングで反映されにい部分となっていながら、「アナログ」な部分を求める求職者が一定数います。

求職者側では、エージェント側が”精度の高い”機械的なマッチングをしているとは当然考えてなく(感づく人は何人もいらっしゃいますが)、人が目で見て選んで紹介してくれている、と考えています。

その中で、機械的にマッチングされた、希望に合わない求人が自動的に配信されることで、希望に合わない求人をどんどん紹介される、という事が起こるのです。


まとめ ~あるべき求人紹介の在り方~

私自身、直近では2年前に転職活動を行いました。
最終的に、当時は自分で見つけた今の会社に決まりましたが、決め手となったのは、会社側も当時の私も、経営者のカラー、社風といった会社の考え方という、アナログな部分が一致してのものでした。

これまで、転職エージェントとして様々な人と仕事をした経験や、自信の転職経験も踏まえて、私自身が求人紹介をする上で心掛けていることを、いくつか紹介させていただきます(ちなみに、今、私は両面型の人材紹介をしております)。

  • 求人紹介は、職種・勤務地・年収などの希望は考慮した上で、「自分で手を動かしてプロダクトを作りたい」「転勤の心配がなく長く働きたい」「家庭の時間を取りたい」等、希望される働き方、ライフスタイルに合う企業を選定してご紹介をする。

  • そのために、求人紹介においては社風、一緒に働く人のコト、仕事の進め方、どんな働き方ができそうなのか、も含めて説明をする。

  • 職種の知識取得に妥協しない(当たり前のことですが)

  • 紹介した求人への応募を求職者が受けなくても、それ以上無理な応募を進めない

  • その代わり、求人紹介に当たっては、求職者が納得して決断できるだけの情報提供をする

私が求人を紹介する際は、内容の説明に手間と時間をかけますし、情報提供を惜しみません。

その分、必然的にエージェント業界的には、紹介する求人数、仕事の効率などの面で逆行するやり方になります。
時に、エージェントのビジネス的にはリスクを伴うことも実際ありますし、たくさんの求人をとにかく紹介して欲しい、という方にとっては御満足いただけない事もあります。

ただ私は、

  • 求職者の希望に合う求人をすなおに紹介している。

  • 最終的に、求職者の希望を叶える求人をすなおに紹介している。

そんなシンプルな転職支援の世界を作りたい、という思いでいるだけです。

勿論、ただ言われたものだけを横流しするのはプロではありません。
一見すると、単なる横流しの紹介は、実はプロの専門知識と引き出しに支えられてできたもの、という状態が作れていれば、良いご支援ができると考えています。

最後までお読みいただきまして有難うございました。



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