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「ダージリン急行」の感想

面白かった。

寝台列車という小さく区切られた空間が、ウェスアンダーソンの映画の、細々した細部まで行き届いてる作風にめっちゃ合ってた。

話はあんま好きじゃなかった。

インドに行って人生観を変えよう!
とかいう3兄弟のしょうもない旅が、途中で破綻をきたすことによってリアルな体験になり、兄弟の後悔を成仏させ、3人をこの先の人生へ送り出す。

雑にまとめるとこんな感じなんだろう。だけど破綻した後の旅もしょうもないものにしか見えず、冷笑的に見ていた。

しょうもなさを感じた原因は彼らの無邪気さにある。
彼らはダージリン急行で働くリタや、村の子供の葬式をあまりに無邪気に自らの物語に取り込んで、その文脈で消費してしまう。

三男がリタとセックスしたのには結構ウゲゲとなってしまった。
まるで異国情緒の一環として彼女を体験してみたように思える。(補足1)何より彼女は職務中だった訳で、三男の行為はそれを軽んじている。毒蛇を車内に持ち込んだ長男といい、彼らはルールを軽んじている。
(終盤で明かされる、父親の葬式に遅刻した件なんかから、これはインドを舐めているが故の行為ではなく、この兄弟はそもそもルールを守ろうとする意志がないのだということが分かってほんの少しは好意的に見れるようになった)

補足1
こういう描写はどうしても「異文化間の性交渉の持つ暴力性」みたいな文脈で見てしまって居心地が悪い。

それ関連の本だと
「兵士とセックス――第二次世界大戦下のフランスで米兵は何をしたのか?」という本が面白かった。

村の子供の葬式に参列した際にも、兄弟達はそれを、後悔を残してしまった父親の葬式の代わりとして使っている。
息子を亡くした父親の気持ちなんて分かるはずないんだから、各々の文脈でもって目の前の出来事を読み取るしかないというのは、それはそれで誠実な態度のはずだ。でもこれまで散々好き勝手やってきた3兄弟なので、今度は他人の葬式を利用してセラピーを始めやがった。という意地悪な目線にはなってしまった。

こういう批判は映画内の物事を一方的に消費する僕自身にも跳ね返ってくるもので、そのカウンターをまともに食らうかどうかは「物語の登場人物に人権はあるのか」という問いの如何による。

ライフアクアティックで、ウェスアンダーソンが自らの映画のしょうもなさに自覚的であるということは分かっているので、この3人の旅のしょうもなさが意図的なものだというのも分かりはするんだけど、それでも無邪気に「3人仲良くなってよかったねえ」みたいな終わり方をされると非常に萎える。

最後、出発する列車に追いつこうと、荷物を置き捨てて走っていくシーンはいいと思った。

その他、細かな感想。

・もうすぐ父親になる次男だけが子供を救えないというのは可哀想だった。
ウェスアンダーソンの映画をいくつか見たけど、浮世離れした映像のなかで人死にが出るとすげー浮いて感じる。あと作風の割に結構容赦なく人が死ぬ。

・列車の窓から身を乗り出してタバコを吸っていたら、同じことをしていた彼女と目が合うシーンが好き。

これまでに見たウェスアンダーソンの映画の感想はここ

今のところライフアクアティックがダントツで面白くて、このダージリン急行が1番面白くなかった。(ウェスアンダーソンのオシャレさに慣れてきちゃったってのもあるかも)

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