つばめ理念

無料塾が人をつくる|第3章-2|皐月秀起

大学生協でのアルバイト

2012年の秋に、関学大の大学生協さんを訪問しました。私の管理物件の一つに、関学生さんが住んでいる「アザレア43」という学生マンションがあり、下宿を探しておられる新入生さんを大学生協の住宅部さんに毎年紹介してもらっていました。年末くらいからお部屋探しがスタートするというので、「アザレア43を今年もよろしくお願いします」という挨拶も兼ねて伺ったところ、「それはそうと、下宿探しのアルバイトをしない?」と誘われました。期間は、下宿探しのピークの12月から翌3月までの4か月間。「大学のOBで、近隣のこともよく分かっているし、何より大家さんの勉強にもなるでしょ?」と口説かれ、二つ返事で引き受けました。

どんな仕事かというと、ご家族と一緒に下宿探しに来た高校3年生に、希望や予算を聞き、実際に車などで物件を案内するというものです。この仕事が、私のこれからの方向性を決める、大きなきっかけの一つになりました。私が一番欲しかった、「不動産仲介の経験」を得ることができ、自分の管理物件を客観的に見ることにより、「数ある物件から、どうしたら選んでもらえるか?」ということが手に取るように分かりました。

だいたい、毎シーズン(4か月)で、約100組に紹介しました。1日で最高7組を案内したときは、もう最後の数組はフラフラで、何を喋ったか思い出せないくらいフラフラでした。1組当たり、だいたい3~5物件を案内しますが、選ぶのはもちろん一つだけ。なぜそこに決めたのか?それにはすべて理由がありました。これを目の当たりにできた経験は得難いものでした。

特に、私と同じく案内業務の仕事をしていた同僚から、たくさんのヒントが得ることができました。その同僚はみな女性で私と同世代。「いい物件を紹介する仲介の目」と「いい物件を選ぶお母さんとしての目」の両方を持っていました。世の中の「決定権」のかなりの部分を、今の時代は女性が持っていますが、子どもの住まいを選ぶ決定権のほとんどはお母さんが持っていました。お母さんを押しのけて、お父さんが決めるケースは本当に稀でした。男性の私がいいなと思うポイントと、女性がいいと思うポイントは微妙に違います。仕事をしながらいろいろ盗ませてもらいました(笑)。

今の大学生とは?

大学生協でのアルバイトの経験が大家業にプラスになったということ以上に、これからの自分を形づくるきっかけとなったことがあります。それは、「今の大学生を知ることができた」ということです。

このアルバイトを都合4シーズンしましたので、約400人の大学入学前の高校生に接したことになります。たった1人で下宿を探しに地方から出てくる子は1シーズンに2~3人くらいで、ほとんどは家族と一緒に来ます。一番多い組み合わせは、本人と両親の3人。逆に私が案内した中で一番多かったのは、本人+両親+妹2人+祖母の6人。セダンでは乗れず、それ以降ワンボックスカーを用意してもらいました(笑)。

案内ルーティーンとしては、お店(住宅部)に来店→希望や予算を聞く→見学・内覧する物件を決める→車で案内する→お店に戻る→申込・保留・再検討などという流れで、だいたい1組2~3時間ご一緒します。それなりに長い時間応対しますので、お部屋の話だけでなく、近隣のこと、大学のことなど、さまざまな話をします。サラリーマン時代にずっと営業をしていましたので、話をするのは苦になりません。息子・娘(あるいは孫)の下宿探しという「一大イベント」を楽しんでほしいなと思っていました。

約400人の大学予備軍の子どもやその家族と短くない時間一緒にいると、いろんな子どもや家族がいるんだなと改めて感じました。子どもだけがやけに明るい家族、みんな全く喋らない家族、親と子が冷戦状態の家族(結構いるんですよ)、本当にいろんな家族がいます。

ただ、何もかもが違うかというとそうでもなくて、共通点も結構あります。一番の共通点は、「下宿を決める選択権が子どもになく、ほとんど親(あるいはそれに準ずる人)が決める」ということです。全員が全員ではないですが、私の肌感覚では9割以上の家族がそうです。「実際に住むのはあなただから、自分で決めなさい」と口では言いながら、見学・内覧をしだすと「ここは収納が狭い」「西向きはダメ」、はたまた「何となく雰囲気が気に入らない」など。実際に住む本人よりも周りがヒートアップしてしまい、「自分が気に入ったところを...」という本人の思いは封印されてしまいます。

でもこの関係は分からないでもありません。実際に家賃などお金を出すのは親ですし、子どもには下宿探しや独り暮らしの経験はまずありませんから、「いろんな面で問題ないところを子どもに用意をして、安心して大学生活を送ってもらいたい」という親心は十分理解できます。

しかし、下宿を借りて独り暮らしをするということは、自立をするには格好の経験です。何でも1人でこなさないといけないですし、すぐに頼れる人が身近にいないなど、不便な面も多い中で、「1人で生きていく」という自主性を育むには格好の機会です。下宿探しは、自立に向けてのスタート地点ともいえます。

大学生になると自分でやらないといけないことが増えます。高校生のときはほとんどの時間割が決まっていますが、大学に入ると自分で履修科目を決めないといけません。どんな大学生活を送るのか、決めるのは自分自身です。さらに、社会人になると言わずもがな、1人でやることがほとんどになります。

そんな時代に突入してくのに、周りが抑え込み、自分を出せない子どもたち。こんなに自主性のない大学生ばかりで大丈夫だろうか?4年間で成長するんだろうか?社会人になってやっていけるんだろうか?このような子たちばかりが送り込まれる日本の企業や社会は大丈夫だろうか?などいろいろ考えました。何か自分にできることはないだろうか...、ぼんやりと考えを巡らせていました。

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