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無料塾が人をつくる|第2章-6|皐月秀起

あえて二兎を追う

結果が出るのには少し時間がかかりましたが、それでも夏前には市内にほぼ敵はいなくなりました。勝てるようになってくると、チームに自信が出てきて、保護者さんも喜んで応援に来てくれます。この保護者さんの支援が子どもにとってもチームにとってもものすごく大事です。でも、自分の子どもが出ない試合を観戦するのはつまらないものです。

試合に出るレギュラーを固定すると、「格差」ができます。私はこの「格差」をなくすのが、少年サッカーの指導者の「腕の見せ所」と思っていました。20人もいれば、選手の実力差はどうしてもあります。試合の勝敗を優先すると、どうしても「うまいやつ優先」になります。そうなると、子どもも保護者も残念な気持ちになります。できるだけそうならないように、例えば、「次、勝ったら決勝にいける大事な試合だけど、相手は言うほどたいしたことない」と見抜き、メンバー編成を考えます。あるいは、ちょっと力的に厳しいかなと思う子と地力のある子を並べて起用するなど、組み合わせを考えます。相手と自チームの力を冷静に分析する力と、あとは少しの度胸があれば、「勝敗」と「強化」は十分両立できます。

あと、子どもたちもプレーして楽しく、保護者も観戦していて楽しくなるよう、サッカーの「質」にもこだわりました。具体的には、ボールを蹴って走ってだけの単調なサッカーではなく、パスやドリブルを多用して全員でゴールに迫るサッカーです。「勝敗」と「美しいサッカー(おおげさですが)」も両立すると思います。

宝塚つばめ学習会でも「成績アップ」と「環境や自主性」、どちらを優先する?とよく議論になります。今は分かりやすくするために、どちらかというと「勉強する環境や自ら取り組む自主性」を重視すると言っていますが、理想は編集工学研究所所長の松岡正剛さんが提唱されている「デュアル思考」でいきたいところです。

サッカーも人をつくる

その後、この5年生チームですが、県大会のない5年生にとって、最大の目標にしていた秋に開催された大会で、予選リーグの初戦で0-1の黒星スタートでしたが、あとを連勝しグループ2位で通過し、2日目の決勝トーナメントも総力戦で勝ち進み優勝しました。この優勝で、来年の全国大会にこの子たちは正面から挑戦できると思いました。「市の大会でも勝てなかったのが嘘みたい」と子どもたちと話しながら、帰路についたのを今でも覚えています。

そして年が明け、3月に行われた姫路での大きな招待試合でも優勝し、これをもって5年生チームとしての活動は終了。私がコーチをするのは最後になりました。もう朝から子どもたちも私も何とも言えない変な雰囲気で、「今日で最後」感が充満していました。でも勝ち切るのがこの子たちの凄かったところです。

解散場所になっていた阪急西宮北口駅で、いよいよこれで最後ということで、構内の端のほうで子どもたちと付き添いのお母さん2人と円になって、最後の話をしました。何を話したのかは覚えていませんが、話をし始めるとすぐに誰かが我慢できなくなり(私ではなかったはず)、あとは堰を切ったようにみんなでわんわん泣きました。高校3年生のときと同じく、どばーっと出てきましたが、全く違う種類の涙でした。

その後、例の避難所で知り合った男の子が5年生になり、満を持して(?)彼をはじめとする新5年生チームを4月から担当することになりました。同じように1年間コーチをし、都合2年間にわたって5年生チームを率いました。

この2年間は、プライベートはほぼすべてサッカーコーチに捧げました。とても充実した2年間で、皐月秀起という人間をつくってくれました。

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