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【書籍】フィードバックは贈り物ー企業文化としてのフィードバック戦略ー三村真宗氏『みんなのフィードバック大全』より

 三村真宗『みんなのフィードバック大全』(光文社、2023年)を取り上げます。本書は、コンカーの社長である三村真宗氏が、自社のフィードバック文化の構築と実践を通じて得られた経験とノウハウをまとめたものです。

 フィードバックとは、相手の長所や短所、改善点などを伝えるコミュニケーションであり、個人や組織の成長に不可欠なものです。本書では、フィードバックを「ギャップフィードバック」と「ポジティブフィードバック」の2種類に分け、それぞれの目的や効果、具体的な実践方法を解説しています。
 また、フィードバックを受ける側の「コーチャビリティ(coachability)」の重要性にも触れ、自己肯定感を高め、フィードバックを成長の糧にするための方法論も提示しています。さらに、企業文化としてフィードバックを根付かせるための経営戦略や具体的な施策・制度についても言及しており、組織のリーダー層にも役立つ内容となっています。
 全体を通して、フィードバックは単なる評価や批評ではなく、「Feedback is a Gift(フィードバックは贈り物)」という考え方が強調されています。相手を思いやり、成長を願う気持ちを持ってフィードバックを行うことの重要性が説かれており、読者はフィードバックに対する意識やスキルを向上させることができるでしょう。

ギャップフィードバック

 具体的には、ギャップフィードバックは「気づき(軽め)」と「改善要求(重め)」の2種類に分けられ、それぞれ適切なタイミングや伝え方があります。
 「気づき」の場合は、相手が自分で気づいていない問題点を指摘し、自主的な改善を促すことを目的とし、軽い調子で伝えることが重要です。たとえば、資料の誤字脱字やプレゼンテーションの際の癖などを指摘する場合がこれに当たります。相手が自分で気づいていないだけで、本人も問題意識を持っている可能性が高いため、軽く伝えるだけで十分な効果が期待できます。
 一方、「改善要求」は、重大な問題や課題に対して具体的な改善を求めるものであり、事前の準備や丁寧な伝え方が求められます。たとえば、顧客対応のミスやチームワークを乱すような行動などが「改善要求」の対象となります。この場合は、具体的な事実やデータに基づいて問題点を指摘し、改善策を提案するなど、より丁寧なコミュニケーションが必要です。
 どちらの場合も、相手の人格を尊重し、具体的な事実やデータに基づいて伝えることが大切です。「あなたはダメな人だ」というような人格攻撃は、相手を傷つけ、フィードバックの効果を損なう可能性があるため避けるべきです。

ポジティブフィードバック

 ポジティブフィードバックは、相手の長所や強み、成果や努力を認め、感謝の気持ちを伝えることで、相手のモチベーションを高め、成長を促進することができます。ポジティブフィードバックを行う際には、具体的に、タイムリーに、そして心から伝えることが重要です。
 「よくやった」「素晴らしい」といった抽象的な言葉ではなく、「〇〇の部分が特に良かった」「〇〇のおかげで助かった」など、具体的な行動や成果を挙げて感謝の気持ちを伝えることで、相手は自分の貢献を認められたと感じ、より一層努力する意欲が湧くでしょう。
 また、フィードバックはできるだけ早く伝えることが重要です。時間が経つと、感謝の気持ちも薄れてしまい、フィードバックの効果も弱まってしまいます。心からの感謝の気持ちを込めて、タイムリーに伝えることで、相手との信頼関係を築き、より良いコミュニケーションを促進することができます。
 さらに、相手を他人と比較するのではなく、過去の自分と比較することで、より効果的なフィードバックをすることができます。「以前よりも〇〇が上手になった」「〇〇に挑戦する姿勢が素晴らしい」など、過去の自分と比較して成長した点を認めることで、相手は自分の努力が報われたと感じ、さらに成長したいという意欲を持つことができるでしょう。

コーチャビリティ

 コーチャビリティとは、他者からのフィードバックを素直に受け止め、自己成長に繋げる能力のことです。
 コーチャビリティを高めるためには、自己肯定感を高め、フィードバックに対する恐怖心や拒絶反応を克服することが重要です。自己肯定感が低いと、フィードバックを個人的な攻撃だと捉えてしまい、素直に受け止めることができなくなります。自己肯定感を高めるためには、自分の長所や強みを認識し、過去の成功体験を振り返るなどの方法が有効です。
 また、フィードバックに対する恐怖心や拒絶反応は、過去のトラウマや失敗体験などが原因である場合があります。これらの感情を克服するためには、認知行動療法の考え方を応用し、自分の認知の歪みに気づき、それに反論することで、フィードバックを前向きに受け止められるようになるでしょう。たとえば、「自分はダメな人間だ」という認知の歪みを持っている場合、「自分は〇〇なところが優れている」「〇〇なことを達成できた」など、自分の長所や成功体験を思い出すことで、歪みを修正することができます。

経営層のリーダーシップも重要

 企業文化としてフィードバックを根付かせるためには、経営層がリーダーシップを発揮し、フィードバックの重要性を明確に示す必要があります。トップダウンでフィードバックの重要性を伝え、積極的に実践することで、社員もフィードバックの価値を理解し、実践するようになるでしょう。
 また、フィードバック研修の実施や、フィードバックを促進するための制度や仕組みを導入することも有効です。研修を通じてフィードバックのスキルや知識を習得し、実践することで、社員はフィードバックに対する抵抗感を減らし、積極的にフィードバックを行うことができるようになります。
 三村氏のコンカーでは、全社員向けのフィードバック研修を実施し、コンストラクティブフィードバックやパルスチェックなどの制度を通じて、フィードバック文化の浸透を図っています。コンストラクティブフィードバックは、社員が会社や上司、他部門に対して匿名で改善点を提案できる制度であり、パルスチェックは、社員の仕事量や組織に対する満足度、心身の健康状態などを定期的に調査する制度です。これらの制度を通じて、社員の声を収集し、組織の課題を把握することで、フィードバック文化の改善に役立てています。

人事の視点から考えること

 人事の視点から考えると、フィードバックは人材育成と評価、そして組織文化の醸成に深く関わっており、組織の成長と持続的な成功のために不可欠な要素です。

人材育成

 フィードバックは、社員一人ひとりの成長を促進するための重要なツールです。社員の強みと弱みを明確にし、具体的な改善点を指摘することで、社員の能力開発を効果的に支援します。また、ポジティブフィードバックは、社員のモチベーションを高め、自信を育み、さらなる成長を促す効果があります。社員が自身の成長を実感できる環境を提供することで、組織全体の能力向上に繋がり、競争力の強化にも貢献します。

評価

 フィードバックは、社員の成果や行動を多角的に評価するための貴重な情報源となります。従来の評価制度では、上司からの評価が中心でしたが、フィードバックを活用することで、同僚や部下からの評価も取り入れ、より包括的な評価が可能になります。定期的なフィードバックを通じて、社員の強みと弱みを把握し、改善点を明確にすることで、より客観的で公正な評価を行うことができます。これにより、社員のモチベーション向上や適切な人事配置に繋がり、組織全体の生産性向上に貢献します。

組織文化の醸成

 フィードバックが活発に行われる組織では、社員同士が互いに協力し合い、高め合う文化が醸成されます。これは、社員のエンゲージメントを高め、組織全体の活性化に繋がります。社員が自分の意見やアイデアを安心して発言できる環境を作ることで、創造性や革新性が促進され、組織の成長に繋がります。また、フィードバックを通じて、企業の価値観やビジョンを共有し、組織の一体感を高めることも可能です。共通の価値観を持つことで、社員の帰属意識が高まり、組織への貢献意欲が向上します。

採用

 採用活動においても、フィードバックは重要な役割を果たします。応募者の「コーチャビリティ」を見極めることで、入社後の成長を期待できる人材を採用し、組織文化に適合する人材を採用することができます。面接でのフィードバックや、採用後のオンボーディングにおけるフィードバックは、新しい社員の早期適応を促し、組織への定着率を高める効果が期待できます。

組織課題の早期発見

 本書で紹介されている「パルスチェック」のような制度は、社員のエンゲージメントや心理的安全性を把握し、組織全体の課題を早期に発見するために活用できます。定期的な調査やフィードバックを通じて、社員の不満や不安を把握し、適切な対策を講じることで、より働きやすい環境を整備し、離職率の低下にも繋がります。

 人事としても、本書で紹介されているフィードバックの概念や実践方法を参考に、自社のフィードバック文化を構築し、組織の成長と社員の幸福を促進していくことが求められるでしょう。

社員がポジティブおよび建設的なフィードバックセッションに参加している様子が描かれています。左側のシーンでは、マネージャーがプレゼンテーションを指差しながら笑顔で社員にポジティブなフィードバックを与えています。右側のシーンでは、別のマネージャーが丁寧な態度で建設的なフィードバックを提供している様子が見られます。これらのインタラクションは、サポートと協力の環境を強調しています。背景には、デスクやコンピュータ、モチベーションを高めるポスターなど、現代的なオフィス要素が含まれています。全体的なスタイルは柔らかく、フィードバックは贈り物であるというテーマが強調されています。

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