組織と経営者を変える5つの課題:人事の視点で深掘りする成長戦略:いまのたかの組織ラジオ#207
今野誠一氏(GOOD and MORE)と高野慎一氏(aima)によるユニット『いまのたかの』。マネジメントと組織の現場についてカジュアルに語る、「組織ラジオ」です。
今回は、第207回目「経営者の成長を阻む5つの要因」でした。今回は、経営者の成長を阻む5つの要因について、今野さん、高野さんで深い議論が展開されました。これらの要因は、どの経営者にも共通する課題でありますが、組織、そして自分自身に当てて考えても多くの気づきを与えてくれる者でした。成長を続けるためには、それぞれの要因に対処し、意識的な取り組みが必要です。内容を振り返り、人事として、組織開発の観点からも考察してみます。
1. 全能感
経営者の成長を阻む最も大きな要因の一つが「全能感」です。特に、スタートアップやベンチャー企業の経営者において、この問題は顕著に現れます。経営者は、何もない状態から自らの力で事業を立ち上げ、徐々に事業が成長する中で、自分自身が全ての業務を理解し、コントロールできるという感覚を持つことがあります。最初の段階では、自分で全ての作業をこなし、様々な決断を下して事業を進めるため、この「全能感」はある意味で必要なものかもしれません。
しかし、事業が成長し、従業員やパートナーが増え、組織が大きくなるにつれて、すべてを自分で把握することは不可能になってきます。それにもかかわらず、経営者が「自分は全てを理解している」「自分の判断が常に正しい」という感覚を持ち続けると、他者の意見や新しい情報を受け入れることが難しくなります。このような状況では、経営者が他の人から提案された新しいアイデアや変化に対して「それはもう知っている」「自分のやり方が正しい」と考えてしまい、組織の柔軟性が失われる結果となります。
また、特に成長途中の企業では、任せた部下が新しいやり方や方法論を提示してきても、それを軽視したり、受け入れずに却下してしまうことで、結果的に組織全体の進化が停滞してしまいます。全能感を持ち続けることで、経営者自身が変化に適応できなくなり、結果的に自分自身の成長を妨げるだけでなく、組織全体の成長の妨げにもなってしまうのです。この「全能感」に対しては、自分が全てを理解しているわけではないと認識し、他者からの意見や提案を素直に受け入れる姿勢が重要です。
2. フィードバックを受け入れない姿勢
経営者が成長を続けるためには、他者からのフィードバックを積極的に受け入れる姿勢が不可欠です。スタートアップの初期段階では、経営者は多くの未知のことに直面し、そのために様々な意見やアドバイスを貪欲に吸収しようとするものです。
しかし、事業が順調に成長し、成功を収めるようになると、次第に「自分のやり方が正しい」「他者の意見は参考にならない」といった考えに陥りやすくなります。特に、企業の幹部や従業員が経営者の判断に従いすぎるようになると、フィードバックや異なる意見が出にくくなる環境が形成されます。これは、経営者にとって非常に危険な兆候です。フィードバックを受け入れない姿勢は、組織全体の柔軟性を失わせ、変化への対応が遅れ、結果的に企業の成長が停滞してしまう原因となります。
特に重要なのは、批判的な意見や異なる視点を積極的に求め、それを受け入れる姿勢です。経営者自身が自分のやり方に固執せず、他者からの意見やアドバイスを受け入れることができれば、組織全体が成長し、変化に対応する力を持つことができます。また、フィードバックを受け入れることで、経営者自身が自身の欠点や弱点を認識し、それを改善するための行動を取ることができるため、自己成長にもつながります。
3. マイクロマネジメント
経営者が細部にこだわりすぎて、全体を見失ってしまう「マイクロマネジメント」も、経営者の成長を阻む大きな要因です。特に、現場での管理職経験が豊富な経営者や、特定の分野に強みを持つ経営者は、この問題に陥りやすいと言われています。
例えば、かつて営業部長として活躍していた経営者が、経営全体の戦略や方向性よりも、現場の進捗管理や個々の従業員の指導に過度に関わることがあります。このような場合、経営者が全体のビジョンを見失い、細部にばかり目を向けてしまうことで、組織全体の成長が妨げられます。経営者の役割は、全体の方向性を示し、組織全体が一つのビジョンに向かって進むことを支えることであり、細かい部分に過度に介入することではありません。
もし、経営者が細部にこだわりすぎると、従業員は自ら考え、行動する余地が奪われ、組織全体の自律性が失われてしまいます。また、経営者自身も全体の戦略を考える余裕がなくなり、結果的に組織全体の成長が遅れてしまいます。マイクロマネジメントを防ぐためには、経営者は部下に対して信頼を持ち、適切な権限委譲を行い、全体のビジョンに集中することが求められます。
4. テクノロジーへの抵抗感
現代のビジネス環境では、デジタル技術やテクノロジーの進化が急速に進んでいます。しかし、多くの経営者は、過去の成功体験に固執し、新しい技術やデジタル化に対して抵抗感を持つことがあります。これは、特に長年同じ業界で成功を収めてきた経営者に顕著に見られる問題です。
経営者は、自分の経験に基づいた判断を優先する傾向があり、新しい技術や変化に対して「自分のやり方が正しい」と思い込むことで、変化に対応できなくなります。特に、デジタル化の波が押し寄せる現代では、このような抵抗感は企業の競争力を大きく削ぎます。テクノロジーの導入やデジタル化は、企業の効率化や競争力向上に不可欠な要素であるにもかかわらず、経営者がその重要性を認識しつつも、実際に導入する際には無意識のうちに抵抗してしまうことがあります。これにより、企業は変化に対応できず、業界の競争から取り残されるリスクが高まります。
経営者は、自分自身の抵抗感を自覚し、それを乗り越えるための努力をする必要があります。特に、デジタル化やテクノロジーの導入が不可避である現代において、経営者がテクノロジーに対して柔軟な姿勢を持つことは、企業の成長にとって非常に重要です。
5. 親しい人だけとの付き合い
経営者が成長を続けるためには、常に新しい人との出会いや新しい情報を取り入れることが必要です。しかし、長く経営者として活動していると、次第に新しい人との付き合いを避け、既存の親しい人や同じメンバーとの関係に閉じこもる傾向が出てきます。これにより、外部からの新しい視点やアイデアを取り入れる機会が減り、企業としての成長が停滞する可能性があります。
特に、営業活動や新しいビジネスの開拓が他の部門に任されている場合、経営者自身が新しい人との交流を避け、既存の人間関係に頼ることが多くなります。しかし、経営者が新しい人との付き合いを避けることで、組織全体の変化への対応力が低下し、競争力が失われるリスクが高まります。
新しい情報や視点を得るためには、常に外部との交流を持ち、変化に対して柔軟に対応する姿勢が重要です。特に、同じメンバーや社員とばかり付き合っていると、情報が限られ、企業全体の成長が停滞する可能性があります。経営者は、外部からの新しい刺激を受け入れ、常に新しい人との付き合いを続けることで、自己成長を促進し、組織全体の成長を支えることが求められます。
これら5つの要因は、経営者の成長を阻害し、結果的に組織全体の成長をも妨げる可能性があります。しかし、これらの要因を意識的に認識し、自己反省を行い、他者からのフィードバックを積極的に受け入れる姿勢を持つことで、経営者は自らの限界を超え、さらなる成長を遂げることができます。最終的には、経営者自身の柔軟な姿勢と、常に学び続ける意識が、組織の成功を支える鍵となるでしょう。
人事の視点から考えること(経営者だけではなく組織においても同様である)
経営者の成長を阻む5つの要因は、経営者だけに限ったものではなく、組織全体に広がり、全ての階層に影響を及ぼす可能性があります。そのため、人事としても、これらの要因に対して全社的な視点で対応し、経営者のみならず、従業員や組織全体が成長できる環境を整えることが必要です。ここでは、5つの要因に基づき、組織全体に適用できる視点と人事の役割について、掘り下げて考察してみます。
1. 全能感とその影響を組織全体で考える
経営者が持つ「全能感」は、特定の成功体験や高いスキルに依存して生じるものですが、この問題は経営者だけに限りません。組織内の他のリーダーや従業員においても、専門知識や経験に基づいて「自分だけが正しい」という感覚が強まると、チーム全体に悪影響を及ぼすことがあります。例えば、特定のプロジェクトを率いるリーダーやエキスパートが、自分の方法論に固執し、他者の意見を受け入れない場合、チームの協力が滞り、他のメンバーが貢献できる余地が少なくなります。これが続くと、チーム内の創造性や問題解決能力が低下し、組織全体の柔軟性が失われます。
人事部門の役割としては、全能感を持つリーダーや従業員に対して、他者の意見や知識を尊重し、多様な視点を受け入れることの重要性を教育することが求められます。これには、定期的なリーダーシップトレーニングや、メンタリングプログラムの導入が効果的です。特に、異なるバックグラウンドや視点を持つメンターとの交流を促進することで、リーダーが他者の意見を積極的に取り入れ、自らの判断に偏らないようにサポートできます。また、上司や同僚、部下からのフィードバックを広く収集し、自己評価に偏りがないかを確認することも重要です。これによって、全能感に陥ることなく、他者からの意見を柔軟に受け入れる姿勢を育むことが可能です。
さらに、組織全体においても、多様な視点を尊重する文化の醸成が重要です。部門横断的なプロジェクトや、異業種のパートナーとの協力を通じて、全員が多様な意見を尊重し、共有する機会を増やすことで、全能感の弊害を抑えることができます。組織全体で多様な視点を取り入れることが当たり前の文化を作ることで、各従業員が自己成長を遂げ、組織全体のイノベーションが促進されます。
2. フィードバックを受け入れない姿勢の改善
フィードバックを受け入れない姿勢は、経営者だけでなく、組織全体で見られることがあります。特に、上層部がフィードバックを軽視する場合、その姿勢が下位層に波及し、従業員が自分の意見を言えなくなることがあります。これは組織全体の成長機会を失うだけでなく、社内のコミュニケーションを閉鎖的にし、問題の早期発見や解決を困難にします。フィードバックの欠如は、従業員の士気やモチベーションの低下にもつながり、組織全体のパフォーマンスが悪化する原因となります。
これには、組織全体でオープンなコミュニケーションを推進し、フィードバックを受け入れる文化を築くことが重要です。まず、定期的なフィードバックセッションや1対1の面談を通じて、従業員が自由に意見を表明できる環境を整えることが求められます。また、フィードバックを行う際には、批判的な意見を避けず、建設的に伝えるスキルを全社員に教育することが重要です。これには、フィードバックの技術に関する研修を全社員に提供し、適切な方法で意見を共有する能力を育成することが含まれます。
経営者や上級管理職に対しては、リーダーシップ研修の一環として、フィードバックを成長の機会として受け入れる姿勢を育てるトレーニングが有効です。特に、フィードバックを恐れずに受け入れ、それを自分の行動改善や意思決定に活かす能力を養うことが、リーダーシップの向上に直結します。フィードバックを受け入れることができるリーダーは、従業員から信頼され、組織全体のコミュニケーションが円滑に進むようになります。
組織文化としてのフィードバックの受け入れを全社的に推進するためには、フィードバックを行うプロセスや手段を明確にし、透明性を持たせることが重要です。さらに、フィードバックの結果を組織全体で共有し、それに基づいて改善策を実行することで、組織全体が成長に向けた動きを取ることができます。
3. マイクロマネジメントを避けた自律的な働き方の推進
マイクロマネジメントは、経営者だけでなく、中間管理職やリーダーシップを持つ従業員にもよく見られる問題です。リーダーが細部に過度にこだわると、部下やチームメンバーの自主性が損なわれ、創造性や自発的な行動が制限されます。これが続くと、従業員は自分で考え行動する意欲を失い、組織全体のパフォーマンスが低下します。
人事としては、リーダーがマイクロマネジメントに陥らないようにするためのリーダーシップトレーニングや、権限委譲のスキル向上をサポートすることが必要です。リーダーシップトレーニングでは、従業員を信頼し、必要な指示を与えた後は、彼らが自律的に業務を遂行できるようにする方法を学ぶことが重要です。また、自己管理能力や意思決定スキルを高めるための従業員向け研修を提供し、個々の従業員が自分の仕事に責任を持ち、主体的に行動できる環境を整えることも大切です。
組織全体で自律的な働き方を推進するためには、上司やリーダーが成果に焦点を当てる評価制度を導入し、細部に過度に介入しないようにすることが求められます。これにより、従業員は自分の方法で成果を出すための自由度が高まり、結果として組織全体のパフォーマンスが向上します。また、自律的に働く従業員を奨励し、その成功例を共有することで、他の従業員も自律的な行動を取るようになります。
4. テクノロジーへの対応力を全体的に高める
テクノロジーの急速な進化に適応することは、経営者のみならず、全従業員にとって重要な課題です。テクノロジーに対する抵抗感があると、デジタル化の波に乗り遅れ、組織全体の競争力が低下するリスクがあります。特に、デジタルリテラシーが欠如していると、業務の効率化や新しい技術の導入に対する抵抗感が高まり、結果として組織全体の成長が阻害されます。
人事部門としては、全社員がテクノロジーに対応できるスキルを持つよう、デジタルリテラシー教育を推進することも一手でしょう。これは、単にIT部門だけでなく、全ての部署でデジタル技術を理解し、業務に活かすことができるようにするためです。
例えば、定期的なテクノロジーに関する研修やワークショップを開催し、最新の技術トレンドやツールの使用方法を学ぶ場を提供します。また、デジタル技術を導入する際には、各部門に専門の担当者を配置し、サポート体制を整えることで、従業員が技術を活用しやすい環境を作ることが重要です。
経営者やリーダーに対しても、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進チームを設置し、テクノロジーの重要性とその活用方法を理解させることが求められます。全員がデジタル技術を積極的に活用できる環境を整えることで、組織全体の効率性が向上し、競争力が強化されます。
5. 親しい人とのみ付き合う傾向の改善
親しい人とだけ付き合い、新しい人との交流を避ける傾向は、経営者に限らず、全ての従業員に見られる問題です。閉鎖的な人間関係に依存することで、外部からの新しい視点や情報を取り入れる機会が減り、結果として組織全体の成長が阻害されます。この問題に対処するためには、組織全体で新しい人々と交流し、外部からの情報を積極的に取り入れる機会を増やすことが必要です。
人事としても、従業員全体に対して多様なネットワーキングの機会を提供し、異なる業界や専門分野の人々との交流を促進することが重要です。例えば、異業種交流イベントの開催や、社外研修プログラムへの参加を奨励することで、従業員が新しいアイデアや知識を取り入れる場を提供します。また、社内でも異なる部署やバックグラウンドを持つメンバーとのコラボレーションを推進し、部門間での交流を活発化させることが効果的です。こうした取り組みにより、従業員一人ひとりが自己成長を遂げ、組織全体が活性化され、新たなイノベーションが生まれる土壌を作ることができます。
まとめ
全能感やフィードバックの欠如、マイクロマネジメント、テクノロジーへの抵抗感、そして閉鎖的な人間関係は、組織のあらゆる階層で発生する可能性があり、これらに対処するためには、組織全体の文化や運営方針を見直す必要があります。人事部門は、経営者やリーダー、そして従業員全体が成長を続けられる環境を提供し、組織全体の競争力を高めるための施策を推進することが求められます。これにより、企業全体が持続的に成長し、変化に対応できる強固な基盤を築くことができるでしょう。
経営者が成長を阻む5つの要因を克服し、前進する様子です。全能感を象徴する壊れた盾や、フィードバックの受け入れを示す開かれた吹き出し、マイクロマネジメントの解消を表すほどけた糸、テクノロジーを受け入れた修復された回路板、新しい人間関係を表す多様なグループが背景にあり、経営者は自信を持って進んでいます。明るい背景が未来への希望と成長を象徴しています。
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