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【書籍】『致知』2024年8月号(特集「さらに前進」)読後感

致知2024年8月号(特集「さらに前進」)における自身の読後感を紹介します。なお、すべてを網羅するものでなく、今後の読み返し状況によって、追記・変更する可能性があります。


君子、勇有りて義無ければ乱を為す。小人、勇有りて義無ければ盗を為す。JFEホールディングス名誉顧問 數土文夫さん p4

 台湾の元総統・李登輝氏と実業家・許文龍氏が、日本統治時代の台湾を肯定的に評価していることを紹介しています。李登輝氏は、自ら出版した著書で日本の精神文化を称賛し、日本統治時代に触れています。許文龍氏は、「私はかつて自分が日本人であったことを誇りに思っている」「台湾の基礎のほとんどは日本統治時代に完成したもの」と述べ、日本統治時代に台湾の発展に貢献した日本人10人の胸像を製作し、顕彰しています。

 また、ロシアによるウクライナ侵攻と台湾の現状を比較しています。2022年2月のロシア軍によるウクライナ侵攻は、当初は演習と思われていましたが、一転して侵攻となり、長期化しています。台湾でも、中国が軍事的な威圧を強めており、同様の悲劇が起こらないことを祈るばかりです。

 さらに、中国が設立した「孔子学院」への警戒感を示しています。孔子学院は、表向きは中国の伝統文化や中国語の教育機関ですが、実際には情報やプロパガンダ機関として機能している疑いがあり、カナダやアメリカなどでは閉鎖が進んでいます。日本にも13の大学に設置されていますが、同様の疑念や警戒感が出てきています。

 最後に、孔子の思想を引用し、権力者にとって「義」が重要であると説いています。孔子は、「上に立つ者にとっては、勇より義が大切だ。勇ましいことばかり重んじて義を蔑ろにすると、往々にして動乱、反乱、戦乱を招くことになる」と述べています。つまり、権力者は、力や権力よりも、正義や道徳を重んじなければならないということです。そうでなければ、社会は混乱し、人々は不幸になるからです。

世界の政治家やリーダーたちも、義を何よ重視すべきだと私は切に思います。 勇が先立つばかりに反乱動乱を招いてはならないし、ましてや盗人になってしまっては後世のもの笑いの種です。果たしてプーチン大統領、ネタニヤフ首相、習近平主席は、義の人になれるでしょうか。その行方を見守ると共に、私たち自身も義の人となるべく精進を重ねていきたいものです。

『致知』2024年8月号 p5より引用

 台湾と中国、そして日本をめぐる複雑な問題について、歴史的背景や思想的な観点から深く考察しています。台湾の二人の著名人が日本統治時代を肯定的に評価していることは、私も初めて知りましたが、意外な事実かもしれません。しかし、彼らの言葉は、歴史を多角的に捉え、未来を考える上で重要な示唆を与えてくれます。また、ロシアによるウクライナ侵攻と台湾の現状を比較することで、国際情勢の不安定さを改めて認識させられます。そして、孔子の思想は、現代社会においても普遍的な価値を持つことを教えてくれます。この記事を読むことで、私たちは、歴史、国際情勢、そして人間の生き方について、深く考えるきっかけとなるものでしょう。 

リード:藤尾秀昭さん 特集「さらに前進」p10

 2024年8月号の特集「さらに前進」は、「さらに参ぜよ三十年」という禅の言葉から始まり、生涯を通して自己修養を続け、社会に貢献することの重要性を説いています。

 特に、二宮尊徳の人生と教えを深く掘り下げ、私たちが学ぶべき点、そして現代社会においてどのように彼の教えを活かせるのかを考察しています。

さらに参ぜよ三十年- -禅の言葉である。悟ったからといっていい気にならず、悟った後もずっと修養を続けていけ、という戒めの言葉である。 人は何歳になっても、生涯、修養を続けていくことが大事だ、という教えでもある。「さらに前進」は「さらに参ぜよ三十年」と同義語である。「さらに前進」の言葉で強く心に浮かぶ人がいる。 二宮尊徳である。その人生はまさに最晩年まで前進し続けた人生であった。

『致知』2024年8月号 p10より引用

 二宮尊徳は、江戸時代後期の農政家・思想家であり、その生涯を通じて身分や年齢に関係なく、人として成長し続けることの大切さを説きました。彼の教えは、「至誠」「勤労」「分度」「推譲」の四つの徳目を基本としています。至誠とは、真心を尽くすこと、勤労とは、勤勉に働くこと、分度は、身の丈に合った生活をすること、推譲とは、他人や社会に利益を分け与えることを意味します。尊徳は、これらの徳目をバランス良く実践することで、人は社会に貢献し、自らの幸福も実現できると信じていました。

 尊徳の教えの中でも特に重要なのは、「太陽の徳は、広大なりといえども、芽を出さんとする、育たんとする気力なき物は仕方なし」という言葉です。この言葉は、自然の恵みは誰にでも平等に与えられるが、それを活かせるかどうかは、個人の努力と向上心にかかっていることを示しています。つまり、自分の運命は自分で切り開くものであり、他人のせいにしたり、環境に甘んじたりするべきではないという強いメッセージが込められています。

 また、「それわが道は人々の心の荒蕪を開くを本意とす。心の荒蕪一人開くる時は地の荒蕪は何万町あるも憂うるに足らざるが故なり」という言葉も、尊徳の思想を象徴するものです。これは、人々の心を豊かにすることが、社会全体の繁栄につながるという信念を表しています。尊徳は、物質的な豊かさだけでなく、精神的な豊かさも追求することの重要性を説き、そのために教育や道徳の普及に力を注ぎました。

 さらに、「一人の心はまことに僅々たるが如しといえども、その至誠に至りては、鬼神これがために感じ、天地の大なるも、これがために感動す」という言葉は、尊徳の深い信仰心を示しています。彼は、誠実な心で物事に取り組めば、必ずや天も味方してくれると信じていました。この言葉は、現代社会においても、倫理観や道徳心を大切にすることの重要性を教えてくれます。

 尊徳は、これらの教えを自らの行動で示し、多くの人々に感銘を与えました。彼は、貧しい農村を復興させ、人々の生活を向上させるために、生涯を通じて精力的に活動しました。その功績は、現代においても高く評価されており、彼の思想は、国内外で多くの人々に影響を与え続けています。

 最後には、詩人・坂村真民の「人間いつかは終わりがくる。前進しながら終わるのだ」という言葉が引用されています。これは、人生は有限であり、常に終わりに向かって進んでいくが、その過程で成長し続け、最後まで諦めずに努力することの大切さを教えてくれます。私たちもまた、二宮尊徳の教えと坂村真民の言葉を胸に刻み、自らの使命を全うするために、常に前進し続けるべきであり、私自身、改めてそれを認識したところです。

<「さらに前進」を人事の視点で応用する>
「さらに前進」という考え方は、社員一人ひとりが常に自己成長を追求し、現状に満足することなく、より高い目標に向かって努力し続けることの重要性を強調しています。これは、企業が競争力を維持し、発展していくためには不可欠な要素です。人事部門としては、社員が自己成長を促すような研修プログラムやキャリアパス制度を整備し、社員が常に挑戦できる環境を提供することが求められます。

 次に、尊徳の「至誠」「勤労」「分度」「推譲」の四つの徳目は、企業が求める人材像を考える上で参考になります。特に、「至誠」は、企業理念や価値観への共感、顧客や社会への貢献意欲など、社員の仕事に対する姿勢や倫理観に関わる重要な要素です。人事部門としても、採用活動においてこれらの徳目を重視し、企業文化に合った人材を採用することが重要です。また、入社後の研修や評価制度を通じて、社員がこれらの徳目を理解し、実践できるようサポートすることも必要です。

 さらに、二宮尊徳の「太陽の徳」という言葉は、社員のモチベーション管理にも応用できます。社員が自らの能力を最大限に発揮するためには、企業が適切な支援と機会を提供することが重要です。人事部門としては、社員の能力や適性を見極め、適切な業務を割り当てるだけでなく、成長を促すための研修やフィードバックを積極的に行う必要があります。

 また、「人の心の荒蕪を開く」という言葉は、社員間のコミュニケーションやチームワークの重要性を示唆しています。人事部門としては、社員間の信頼関係を築き、協力的な職場環境を醸成するための施策を講じることが求められます。例えば、チームビルディング研修や社内イベントなどを開催し、社員同士の交流を促進するのも有効な手段です。

 最後に、「一人の心はまことに僅々たるが如しといえども、その至誠に至りては、鬼神これがために感じ、天地の大なるも、これがために感動す」という言葉は、社員一人ひとりの力は小さくても、誠実な心で仕事に取り組むことで、大きな成果を上げることができるというメッセージとして捉えることができます。人事部門としては、社員の小さな努力や成果を認め、評価する仕組みを構築することで、社員のモチベーションを高め、より大きな成果へとつなげることが重要です。

 このように、今回のテーマ「さらに前進」は、人事の視点から見ても多岐にわたる示唆を含んでおり、社員の育成やモチベーション向上、組織文化の醸成など、人事部門が取り組むべき課題解決に役立つ考え方やヒントを提供しているといえるでしょう。

さらに参ぜよ三十年 栗山英樹さん(北海道日本ハムファイターズ チーフ・ベースボール・オフィサー)横田南嶺さん(臨済宗円覚寺派管長)p12

WBC優勝後の栗山英樹監督は、周囲からの絶賛に浮かれることなく、謙虚さを保ち、さらなる高みを目指し続けています。新刊『信じ切る力』の中で、彼は「こうやって人はダメになるんだな」と痛感したと率直に語っています。

 これは、WBC優勝という輝かしい功績によって、周囲からの賞賛が集中し、自分が特別な存在になったかのような錯覚に陥りそうになった経験を指しています。しかし、彼は過去のメニエール病による挫折と、そこから這い上がった経験から、慢心することなく、常に自己成長を追い求めることの重要性を深く理解しています。彼は、「命までは取られない」という強い信念を胸に、逆境を乗り越え、WBC優勝という偉業を成し遂げました。

 栗山監督は、WBC優勝の要因を「無私」という言葉で表現しています。これは、選手たちが個人の成績や名誉よりも、チームの勝利を最優先に考え、それぞれの役割を全うしようとする姿勢を指しています。例えば、チームの要である源田壮亮選手は、右手小指を骨折しながらも痛みを隠し、チームのために出場し続けました。また、ラーズ・ヌートバー選手は、ボテボテのゴロでも一塁まで全力疾走するなど、献身的なプレーでチームに貢献しました。このような「全員がキャプテン」という意識が、チーム全体に一体感を生み出し、世界一という目標達成を可能にしたのです。

 さらに、栗山監督は、大谷翔平選手のような世界的な選手を育てるためには、幼少期から「自分で考えて行動し、失敗から学ぶ」経験を積ませることが重要だと考えています。大谷選手は、高校時代に「8球団ドラフト指名拒否」を宣言し、メジャーリーグに挑戦するという前代未聞の決断を下しました。彼は、常に自分の頭で考え、周囲の意見に流されることなく、自分の道を切り開いてきました。このような主体性と強い意志が、彼の類まれな才能を開花させ、世界を舞台に活躍する選手へと成長させたと言えるでしょう。

 栗山監督自身も、禅の教えや横田南嶺管長との対話から多くの学びを得ています。特に、「夢は正夢 歴史の華」という言葉は、彼の人生の指針となっています。これは、夢を現実のものにすることで、自分の人生が輝き始め、その姿を通じて周囲の人々にも良い影響を与えることができるという考え方です。栗山監督は、これからも様々な人との出会いを通じて学び続け、人間としての成長を目指しています。

 一方、横田南嶺管長は、禅の修行を通じて得た「無私・無我」の境地と野球の共通点について語っています。例えば、白隠禅師の教えにある「無我の一法」は、野球における「無私道」に通じるものがあります。これは、私心を捨て、チームのために尽くすことの重要性を示しており、WBCで侍ジャパンが見せた献身的なプレーにも通じる考え方です。また、横田管長は、栗山監督がチェコの選手たちと交流し、スポーツの原点や人間の生き方について語り合ったエピソードに感銘を受けたことを明かしています。さらに、栗山監督が若い修行僧に対しても丁寧な態度で接する姿を見て、彼の謙虚さと人間性の素晴らしさを感じ取ったと語っています。

 横田管長自身も、先代管長との厳しい修行の日々を振り返りながら、「信」の大切さを再認識しています。彼は、先代管長から「お前が合掌しても一つも有難くない」と叱責された経験を赤裸々に語っています。しかし、そのような厳しい指導の裏には、深い愛情と信頼があったことを、横田管長は後になって理解したのです。

 両者は、お互いの経験や考え方を共有し、さらなる前進に向けて互いに刺激を与え合う関係を築いています。栗山監督は、横田管長との対話を「人間修行の始まり」と捉え、さらなる成長を目指しています。一方、横田管長も、栗山監督の言葉や行動から多くの学びを得て、自らの禅の修行に活かしています。

 このように、栗山英樹監督と横田南嶺管長の対話は、野球と禅という一見異なる分野における共通点や、人間としての成長、そして「信」の大切さについて深く考えさせられる内容です。

<人事観点で考えてみる>
 栗山監督と横田管長の対談において、特に、栗山監督の言葉、行動は、組織運営や人材育成において多くの示唆を与えてくれます。何点か考察してみます。

組織運営

  • リーダーシップ
     栗山監督のWBC優勝に見られるリーダーシップは、社員を鼓舞し、目標達成へと導く上で非常に参考になります。特に、「全員がキャプテン」という考え方は、社員一人ひとりの主体性を引き出し、組織全体の力を最大限に発揮するために有効なアプローチといえるでしょう。

  • 組織文化
     栗山監督がファイターズで実践した「茶髪禁止」や「姿勢を正す」といったルールは、一見時代に逆行しているように見えますが、組織文化の醸成や規律の維持という観点から再評価できます。企業理念や価値観を共有し、社員の意識統一を図ることは、組織の結束力を高める上で重要です。

  • コミュニケーション
     栗山監督は、選手一人ひとりと真剣に向き合い、心から信じ切ることで、彼らの能力を最大限に引き出しました。同様に、企業においても、上司と部下の信頼関係を築き、互いに尊重し合うコミュニケーションが不可欠です。

人材育成

  • 自主性と成長
     大谷翔平選手の例に見られるように、社員の自主性を尊重し、失敗から学ぶ機会を提供することが、彼らの成長を促進します。企業は、社員が自発的に考え、行動できる環境を整える必要があります。

  • 目標設定とモチベーション
     栗山監督の「夢は正夢」という言葉は、社員のモチベーションを高める上で非常に効果的です。明確な目標を設定し、それを達成するための具体的なステップを提示することで、社員の意欲を引き出すことができます。

  • 多様な価値観の尊重
     栗山監督は、チェコの選手たちとの交流を通じて、異なる文化や価値観を持つ人々との相互理解の重要性を学びました。グローバル化が進む現代において、多様な価値観を受け入れ、尊重する姿勢は、企業の成長にとって不可欠です。

その他

  • メンタルヘルス
     栗山監督がメニエール病を乗り越えた経験は、社員のメンタルヘルス対策を考える上でも重要な教訓となります。企業は、社員が安心して働ける環境を整え、心の健康をサポートする必要があります。

  • 継続的な学習
     栗山監督は、「まだまだスタートラインに立ったばかり」と語り、常に学び続ける姿勢を示しています。社員一人ひとりが自己成長を続け、常に新しい知識やスキルを身につけることは、企業の競争力向上に繋がります。

 栗山監督と横田管長の対談は、企業経営者や人事担当者にとって、組織運営や人材育成における新たな視点やヒントを提供してくれる貴重な資料と言えるでしょう。

脳が求める生き方——さらに前進する人の思考はどこが違うのか
林 成之さん(スポーツ脳科学者)p34

 脳神経外科医として長年活躍し、数々のアスリートの潜在能力を引き出すサポートをしてきた林成之氏は、誰もが秘めている「潜在能力」について熱く語ります。彼によれば、潜在能力とは単なる才能ではなく、誰もが持ち合わせている能力であり、適切なアプローチによって最大限に引き出すことができるとのことです。林氏は、自身の豊富な経験と脳科学の知識を基に、脳の本能を生かし、限界を超えて前進するための秘訣を解き明かします。

潜在能力を引き出す鍵

  • チームメイトとの信頼関係
    チームスポーツにおいて、選手同士の信頼関係はパフォーマンスに大きく影響します。林氏は、「そうだね」という言葉が信頼関係を築く上で非常に有効だと指摘します。この言葉は、相手の意見を受け入れる姿勢を示し、安心感を与えます。例えば、サッカー日本女子代表「なでしこジャパン」は、試合中にお互いに「そうだね」と言い合うことで、強固な信頼関係を築き、見事ワールドカップ優勝を成し遂げました。

  • ポジティブな言葉
    言葉は、脳に直接働きかける力を持っています。「面白そうだね」「楽しそうだね」といったポジティブな言葉は、脳の報酬系を刺激し、ドーパミンなどの神経伝達物質を放出させます。これにより、意欲や創造性が高まり、潜在能力の発揮につながります。日常会話でも意識的にポジティブな言葉を使うことで、脳を活性化させ、より良い結果を生み出すことができるでしょう。

  • 同期発火
    人は、他人の行動や感情に影響を受けやすい生き物です。これは、脳内の神経細胞が相手の行動や感情に共鳴し、同じように活動する「同期発火」という現象によるものです。例えば、オリンピックで金メダルを獲得した競泳選手の北島康介氏は、林氏から「勝てる」と強く思うことで同期発火が起こり、パフォーマンスが向上するとアドバイスを受けました。彼はこのアドバイスを心に刻み、見事世界新記録を樹立しました。

  • 言葉の力
    言葉は、時に魔法のような力を持つことがあります。それは、言葉が脳に直接働きかけ、行動や感情に影響を与えるからです。例えば、「私はできる」と心の中で唱えるだけで、自信が湧き、行動に移せるようになることがあります。逆に、「どうせ無理だ」と考えてしまうと、脳はそれを現実のものとして受け止め、行動を抑制してしまいます。

  • 原点に従って全力投球
    潜在能力を最大限に引き出すためには、自分の原点を見つめ直すことが重要です。原点とは、自分が何のために生きているのか、何を成し遂げたいのかという根本的な問いにつながるものです。林氏は、自身の経験から「人のために生きる」という原点を大切にしてきました。この原点に従って全力投球することで、脳の様々な領域が活性化し、潜在能力が最大限に引き出されるのです。

潜在能力の弱点

  • ゴールを意識すると消えてしまう
    目標を達成することに意識が集中しすぎると、視野が狭くなり、本来持っている能力が発揮できなくなることがあります。これは、脳がゴール達成に意識を集中させるあまり、他の重要な情報を見落としてしまうためです。

  • 「悔しい」「勝ちたい」という言葉
    これらの言葉は、競争心や向上心を掻き立てる一方で、過度に意識すると、視野が狭くなり、冷静な判断ができなくなることがあります。仕事の世界でも思い当たることがあるのではないでしょうか。

同じ理由で、脳には「悔しい」「勝ちたい」のような言葉を使うことで潜在能力が消えていく、とい特徴があります。 これらの言葉の共通点は何だと思いますか?それは、相手を貶める意味が含まれている。そしていずれも負けを意識していることです。負けを少しでも意識すると、自己保存の法則から潜在能力は十分に発揮できなくなります。ですから、競争相手は打倒すべき存在ではなく自分を高めてくれる大事なツールと考える。負けた時は「悔しい!」ではなく「自分を負かしてくれてありがとう。これで「成長できる」と捉えることが潜在能力を消さずに成長するコツと言えます。これは仕事でも人生でも大切な心得でしょう。

『致知』2024年8月号 p37より引用
  • 否定語
    「できない」「無理だ」といった否定的な言葉は、自己肯定感を低下させ、行動を抑制する効果があります。脳は、これらの言葉を現実のものとして受け止め、行動を制限してしまうのです。

まとめ
 
潜在能力は、誰もが生まれながらにして持っている素晴らしい力です。しかし、その力は、様々な要因によって眠ったままになっていることがあります。林氏の提唱する「育脳」は、脳の仕組みを理解し、適切なアプローチをすることで、潜在能力を最大限に引き出すことを目指しています。

 チームメイトとの信頼関係を築き、ポジティブな言葉を使用し、原点に従って全力投球することで、誰もが自分の潜在能力を最大限に引き出し、輝かしい未来を築くことができるでしょう。そして、それは、個人だけでなく、社会全体の発展にもつながっていくはずです。会社の人事施策として、社員もモチベーションをいかに上げていくか、という観点でも重要な示唆があります。

人生の真価は晩節に宿る——先達に学ぶ〝晩晴学 前坂俊之さん(静岡県立大学名誉教授)p40

 「晩晴学」を研究する前坂俊之さんの記事です。

 この記事では、老いてもなお輝きを増すためにはどうすればよいかについて、3人の人物を例に挙げて論じています。松永安左エ門、尾崎行雄、鈴木大拙の3人の人物の生き様は、現代の人事戦略を考える上で、多岐にわたる示唆を与えてくれます。

折しもこの七月に新一万円札の顔となる渋沢栄一翁が、晩年についてこう言い遺しています。「人の生涯をして重からしむると軽からしむるとは、一に其の晩年にある。随分若いうちは、欠点の多かった人でも、其晩年が正しく美はしければ、其の人の価値は頗る昂って見えるものである」人生の軽重を決めるのは晩年、晩年が立派でありさえすればその人の価値は上がる。では晩節に輝ける人はどんな人か。 私は「晩晴「学」と題して研究していますが、いまこそ真剣に考えるべきテーマではないでしょうか。

『致知』2024年8月号p40より引用

松永安左エ門
 
生涯は、年齢や経験にとらわれず、常に新しいことに挑戦し続けることの重要性を示しています。彼は75歳という高齢で、戦後の混乱期に電力事業の再編という難題に挑み、見事に成功を収めました。これは、現代のビジネス界においても重要な教訓です。技術革新や社会の変化が激しく、企業も個人も常に新しい知識やスキルを身につける必要があります。松永のように、年齢に関係なく、変化を恐れずに新しいことに挑戦できる人材こそが、企業の成長を牽引する存在となるでしょう。

 人事の視点から見ると、このような人材を育成するためには、年齢や経験にとらわれない評価制度や、新しいスキルを習得するための研修制度を整備することが重要です。例えば、社内公募制度を導入し、年齢や役職に関係なく、意欲と能力のある社員に新たな挑戦の機会を提供することができます。また、社外の研修やセミナーへの参加を奨励し、社員のスキルアップを支援することも有効です。

尾崎行雄
 不屈の精神は、逆境に直面した際のリーダーシップのあり方を示しています。彼は、不当な扱いを受けながらも信念を曲げず、最終的には無罪を勝ち取りました。現代のビジネス界でも、予期せぬ困難や不確実性に直面することは避けられません。そのような状況下で、尾崎のように冷静に状況を分析し、粘り強く目標を追求できるリーダーシップは、組織を危機から救う原動力となります。

 人事の視点から見ると、このようなリーダーシップを育成するためには、社員の主体性を尊重し、困難な状況にも立ち向かう力を養うことが重要です。例えば、プロジェクト型の業務を導入し、社員が主体的に課題解決に取り組む機会を増やすことができます。また、失敗を恐れずに挑戦できるような組織文化を醸成することも重要です。

鈴木大拙
 
生涯学習の重要性を改めて認識させてくれます。彼は、90歳を超えても精力的に活動し、東西の思想の架け橋となりました。現代社会では、変化のスピードが速く、一度習得した知識やスキルはすぐに陳腐化してしまいます。そのため、鈴木のように、生涯を通じて学び続ける姿勢を持つことが、変化に対応し、新たな価値を生み出すために不可欠です。

 人事視点で考えると、このような学習意欲を喚起するためには、社員が自発的に学びたくなるような環境を整備することが重要です。例えば、社内図書館やオンライン学習プラットフォームなどを活用し、社員がいつでもどこでも学習できる環境を提供することができます。また、社内勉強会やワークショップなどを開催し、社員同士が知識や経験を共有する機会を設けることも有効です。

 これらの3人の人物の生き様は、企業が求める人材像にも通じるものがあります。年齢や経験にとらわれず、常に新しいことに挑戦し、逆境に立ち向かい、生涯を通じて学び続ける人材こそが、これからの時代を生き抜き、企業を成長させる原動力となるでしょう。人事担当者は、このような人材を発掘し、育成するための施策を積極的に展開していく必要があります。

 さらに、この記事では、松永と池田勇人の関係性についても触れられています。松永は、池田との出会いを通じて、自らの信念を貫きながらも、他者との協力関係を築くことの重要性を学んだと考えられます。現代のビジネス界においても、多様なバックグラウンドを持つ人々と協力し、共に目標を達成していくことが求められます。人事担当者は、社員同士が互いに協力し合えるような環境を整備し、チームワークを促進するための施策を検討する必要があります。

 3人の人物の生き様は、現代の人事戦略において、多岐にわたる示唆を与えてくれます。彼らの生き様を参考に、企業は自社の人材育成戦略を見直し、より良い組織作りを目指していくことができるでしょう。

自分がコントロールできる目の前のことに全力を尽くす 斎藤佑樹さん(元プロ野球選手/株式会社斎藤佑樹代表)p104

 斎藤佑樹氏は、幼少期から野球を始め、高校時代には「ハンカチ王子」として甲子園で優勝し、国民的スターとなりました。私もその場面はよく覚えています。その後、早稲田大学に進学し、プロ野球選手としての道を歩み始めます。

 しかし、プロ野球の世界は厳しく、怪我にも悩まされる日々が続きました。それでも斎藤氏は、持ち前の負けん気の強さと努力で乗り越えようとします。彼は、日々の練習はもちろんのこと、自主的にトレーニングジムに通い、肉体改造にも励みました。また、チームメイトとのコミュニケーションを大切にし、チーム全体の士気を高めることにも貢献しました。

 特に、栗山英樹監督との出会いは彼にとって大きな転機となりました。栗山監督は、選手との対話を重視し、一人ひとりを思いやることでチーム全体の士気を高めるリーダーでした。斎藤氏は、栗山監督から手紙で開幕投手を任されたことをきっかけに、プレッシャーをはねのけ、プロ入り後初の完投勝利を収めます。

 しかし、その後も怪我との闘いは続き、思うような結果が残せない日々が続きました。それでも斎藤氏は、諦めずに努力を続け、ファンの応援を力に変えて、2017年には623日ぶりの勝利を手にします。

 そして2021年、斎藤氏は引退を決意します。最後の試合となったオリックス戦では、ファンからの温かい拍手を受けながら、プロ野球人生最後のマウンドに立ちました。試合後、栗山監督から「これが、佑樹が頑張り続けてきた結果だ」という言葉をかけてもらい、斎藤氏は涙を流しました。

 斎藤氏は、自身の野球人生を振り返り、「諦めて辞めるのは簡単だ。どんなに苦しくても、がむしゃらに泥だらけになって最後までやり切れ」という栗山監督の言葉を胸に、常に前を向いて努力してきたことを語っています。そして、その経験を通じて、「目の前のやるべきことに全力を尽くす」ことの大切さを学びました。

自分でコントロールできないことに翻弄されるのではなく、目の前のやるべきことに全力を尽くす。そうすれば、応援してくださる方必ず現れ、自ずと前に進める。これが、もがき苦しみながらも野球一筋に歩んできた僕の実感です。

『致知』2024年8月号p106より引用

 斎藤氏は、怪我に悩まされながらも最後まで諦めずに野球を続けた20代を、「出逢いに恵まれた10年間」と振り返ります。彼は、多くの素晴らしい人々との出会いに感謝し、そして、もしも今の自分に戻れるなら、「もっと頑張れるぞ」と声をかけたいと言います。それは、人と出会い、コミュニケーションを重ね、学ぶことの大切さを、引退後に会社を立ち上げ、様々なプロジェクトに携わる中で強く実感しているからです。

 斎藤氏は、これからも日々学び、「野球未来づくり」に向かって挑戦を続けていくことを誓っています。それは、彼にとって、野球界への恩返しであり、新たな挑戦の始まりでもあるのです。

 斎藤氏は、引退後も新たな挑戦を続け、日々学び続けています。この姿勢は、社員が常に新しい知識やスキルを習得し、成長し続けることの重要性を示しています。企業は、社員が継続的に学習し、成長できるような機会や環境を提供する必要があるとも感じたところです。



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