【書籍】『致知』2023年11月号(特集「幸福の条件」)読後感
致知2023年11月号(特集「幸福の条件」)における自身の読後感を紹介します。なお、すべてを網羅するものでなく、今後の読み返し状況によって、追記・変更する可能性があります。
「幸福の条件」とは何かを考えてみる
「幸福の条件」とは何か、と問われるとき、それは哲学的な問いから日常の生活まで幅広い論点があるように思います。幸福の条件は一概には定義できないものの、基本的な生活条件や心の平和、人間関係、自己実現などの要素が関与しています。それぞれの人が自分自身の幸福の条件を見つけ、それを追求することが大切なように感じます。それを受けて読み進めると、自分なりの幸福が見えてくるように思います。以下、いくつかの論点を書き出してみました。
基本的な生活条件
まず、基本的な生活の質が確保されていることが幸福の前提となるでしょう。食事、住まい、安全、健康などの基本的な生活条件が整っていることは、幸福を感じるための基盤と言えます。
心の平安
人間は、生物学的に生きているだけでは幸福とはいえないでしょう。心の平和や精神的な安定が幸福感を生む重要な要素です。
人間関係
人は社会的な生き物です。愛情、友情、信頼、共感といった人間関係が充実していることは、幸福感を大きく高める要因となると思われます。
目的と意義
人は何のために生きるのか、自分の人生に意義や価値を見出すことができると、幸福感を感じやすくなるでしょう。
自己実現
いわゆる、マズローの「欲求五段階説」にもあるように、人は自分の能力を最大限に発揮したいという欲求があります。自分の才能や能力を生かすことができる環境や機会があると、幸福感を感じることができます。
適応能力
人生には予期せぬ変化や困難が訪れることがあります。『致知』に取り上げられる多くの事例は、そのような困難も多いように思います。そのような状況に柔軟に適応できる能力を持てば、幸福感を維持しやすいでしょう。
文化や環境
幸福の定義や条件は、文化や社会によっても異なることがあります。ある文化や環境での幸福の条件が、別の文化や環境で通用するとは限りません。
古代の哲学者が考える「幸福」
「幸福」について考える際、古代の哲学者の幸福論も押さえる必要があります。基本的な考え方を整理しておき、認識しておきます。
(小川仁志氏:「グローバルに活躍するためのリベラルアーツ哲学#4 幸福とは」株式会社Aoba-BBT番組よりのまとめ)
不撓不屈の楽観主義: アランの哲学
アラン(1868–1951)は、フランスの哲学者として知られています。彼の『幸福論』では、物事を逆説的に捉えることでポジティブな考え方を導き出すアプローチを採用しています。アランにとって、幸福は単なる感覚や状態ではなく、実現するための努力が必要なものと捉えられています。さらに、彼は幸福を他人との関係性、特に他人に対する義務としても考えていました。
客観的に生きる: バートランド・ラッセルの哲学
バートランド・ラッセル(1872-1970)はイギリスの哲学者として、多岐にわたる研究を行いました。彼の『幸福論』では、人は自己中心的な考えを捨て、より客観的な視点で世界を捉えることで真の幸福を得られると主張しています。彼によれば、自分の思考をコントロールすることや、趣味や仕事を通じて幸福を見つけることが重要だとされています。
禁欲による幸福: エピクテトスの哲学
エピクテトス(約50-135)は古代ギリシアの哲学者であり、彼の『語録』や『要録』には彼の思考が詳述されています。エピクテトスの哲学においては、欲望を即座に追求するのではなく、欲望を制御し距離を置くことが幸福への鍵とされています。彼は、外部の要因や自分のコントロールできない事柄を追求することは不幸を招くと警告しています。
諦めを通じての幸福: アルトゥール・ショーペンハウアーの哲学
アルトゥール・ショーペンハウアー(1788-1840)はドイツの哲学者であり、彼の『幸福について』では欲望の問題とそれをどのように扱うべきかについて詳述されています。彼の考え方では、人の欲望は際限がなく、それを追求し続けることは幸福を得られないと考えられています。そのため、意志の否定や諦めが幸福への道であると彼は説いています。
究極の幸福: アリストテレスの哲学
アリストテレス(前384-前322)は古代ギリシアを代表する哲学者の一人であり、彼の『ニコマコス倫理学』は倫理哲学の基礎テキストとして広く認識されています。アリストテレスにとって、短期的な快楽は真の幸福とは言えず、究極の幸福は「善く生きること」、すなわちエウダイモニアにあるとされています。彼は、このエウダイモニアとは生きがいやウェルビーイングに近いものであると述べています。
巻頭:數土文男さん「金を愛みて敵の情を知らざる者は、不仁の至りなり。人の将にあらず。主の佐にあらず。勝の主にあらず。」p10
『孫子』用間篇からの引用です。百金の報酬を惜しんで、相手の情報を十分に集められないのはばかげた話だということです。
新しい情報を収集し、リスキリングに積極的に取り組むことは、私たちが進んでいくための重要な要素です。努力と継続的な学びを通じて、新しい知識や技術を習得し、それを活かすことで、私たちはより豊かな未来を切り拓いていくことができるでしょう。
とはいえ、新しい知識や技術を習得するには、努力や時間が必要です。それには、百金を愛んではいけません。つまり、短期間で結果を求めるばかりでなく、着実に学びを深めることが大切です。新しい情報や技術は日々進化しているため、一度学んだだけでは追いつくことができません。継続的な学びと実践が必要といえるでしょう。ここは、時代が変われども変化があるところではありません。
一方、物質的な富だけを追い求めることも危険といえるでしょう。リスキリングも、ただの手段として捉えるのではなく、私たちの人生の質を向上させ、真の価値を見つけ出す道具として理解することが大切です。今の時代、新しい知識や技術を学ぶことはもちろん大切ですが、それをどのように生かすか、そして何のために生かすかを考え続けることが、私たちが未来を切り開く上での鍵となるでしょう。私も種々のリスキリングを実践していますが、まさに「人生の質を向上させる」ということに最も注力しています。
リード:藤尾秀昭さん 特集「幸福の条件」p8
今回のテーマである「幸福の条件」。ふだん私たちは、「幸福」ということをどれくらい意識しているでしょうか。また、その「条件」などということについて、どれくらい意識しているでしょうか。あまり意識していないのではないでしょうか。
藤尾さんは八木重吉さんの詩をを取り上げ、彼の幸福論として取り上げています。八木さんは、結核によりわずか29歳で亡くなっています。
この詩は、私たちに多くのことを問いかけるのではないでしょうか。ひたむきになることが幸福の一つのあり方であるとするならば、私たちもまだまだできることは多いのではないでしょうか。
一貫性・純粋さ
花が純粋で一貫した気持ちで存在しているため、その美しさが際立っているという考えを示唆していています。
全身全霊での没入
「本当にうつくしい姿/それはひとすじに流れたものだ」という部分は、全身全霊で何かに取り組む姿が真に美しいという考えを表現しています。ここから、人が何かに全力で取り組むとき、その姿が最も美しく輝くということでしょう。
没入による幸福
詩の最後の部分「人生はいつたのしい気持ちがひとつになり切った時だ」とは、人が何か一つのことに心からの楽しさや喜びを感じ、それに完全に没入するときが、真の幸福を感じる瞬間であるのでしょう。
脳科学が明らかにした「誰もが幸せになれる法則」 岩崎一郎さん p46
岩崎さんから、我々の脳の可能性は驚異的であり、その活用方法によって私たちの幸福感が変わることが示唆されています。ここでは「脳磨き」が私たちの幸福感をどのように影響させるのか、その条件について述べられています。「脳磨き」は私たちの心身の健康、人間関係、そして幸福感を高めるための鍵となる要素とのこと。毎日の生活に「脳磨き」を取り入れることで、私たちはその可能性を最大限に引き出し、より幸せな人生を手に入れることができるとのことです。
具体的には以下6つの実践が紹介されています。当たり前のようですが、なかなか実践するというのは難しいものです。
一、感謝の気持ちを持つ
二、前向きになる
三、仲間と心を一つにする
四、利他の心を持つ
五、マインドフルネスを実践する
六、Awe (オウ)体験をする
これを言い換えると、以下のようになるでしょうか。
相手の立場に立って考え、理解する
相手と対等な立場で、本音で語り合う
目標に向かって心を一つにする
継続的な、心温まる人間関係が良好な人間関係が築ける、そんな感がします。人間関係は、幸福感を高める重要な要素であり、信頼関係を深めることで心が一つになる経験は、私たちの幸福の条件の一つであるといえるでしょう。脳を活性化させることで、人とのコミュニケーションの質が向上し、より深い信頼関係を築くことができる、考えただけでも素晴らしいことではないですか。
「タイヨーの奇跡」はこうして実現した 清川照美さん p50
清川照美さんは、タイヨー副社長ですが、もともとは創業家二代目の嫁としての立場でしたが、途中から経営にも参加、その後一時は経営から離れておりました。しかし、戻ると会社は大変な状況に。当時上々企業であった会社は買収の危機にも立たされました。その中で、MBOを実施、しかし、借入金は膨れ上がるばかりです。そこからのチャレンジは壮絶なものだったことでしょう。
ここから、私たちが学べる「幸福の条件」とは何かを考えてみます。清川さんの言葉と行動には、勇気や覚悟、そして持続力という要素が見え隠れしているように思えます。そしてこれらの要素は、「幸福の条件」を考える上で、共通のキーワードとして捉えることができるのではないでしょうか。
勇気と覚悟の重要性
清川さんは、会社の危機に直面した際、MBOを実施して社内改革を推進し、借入金を完済するという壮絶なチャレンジを行っています。これには確かに数字やビジネスの戦略が必要ではありますが、それ以上に彼女の勇気と覚悟がなければ達成は不可能だったでしょう。この勇気と覚悟こそが、挫折せずに困難を乗り越える力の源泉となると思われます。
持続力
「当たり前のことを当たり前に、愚直にやり続ける」、これは、一見単純に思えますが、その背後には強い持続力・決意が必要です。長期間、逃げずに努力し続ければ流れは変わるという清川さんの信念は、持続力の表れと言えるでしょう。持続力の中で、目標を追求し続ける過程での小さな幸福の積み重ねに繋がるのでしょう。。
使命感と自己認識
清川さんが指摘する「自分の使命」というものは、困難を乗り越える過程で明らかになることが多いものと思います。その使命を自覚すると、困難な状況でも持続しやすくなります。そして、その使命に従って行動することで得られる達成感や充実感は、まさに「幸福の条件」の一つといえるのではないでしょうか。
感謝と足るを知る
「足るを知り、感謝ができれば、幸せは増す」という趣旨の言葉からも、幸福の条件としての満足感や感謝の大切さが伺えます。単なる成功や達成だけが幸福ではなく、日常の中で小さな幸せや感謝を見つけることも大切である。
清川さんのこの記事から、「幸福の条件」を考えると、勇気と覚悟を持ち、持続力をもって使命を追い求めること、そして日々の小さな幸せや感謝を大切にすることであると考えられます。それぞれの人が自らの「幸福の条件」を見つけ、それを実現する過程での努力や経験が、真の幸福をもたらすのといえるのでしょう。一見、幸福とは考えられない出来事の中にも、幸福に繋がるヒントが多くある、という意味では、大変学びの多い記事でした。
がん闘病が教えてくれた日本人の幸福論 池田雅之さん p56
池田氏は、私たちが直面している多くの社会的課題や人間関係の問題に対する答えを示唆しています。池田氏の思想の裏には、相互理解と共生・共存の重要性を核としています。そして、この思考の背後には、彼自身の人生経験と、とりわけ大病を患った際の体験が深く影響していることが伺えます。
がんとの闘病経験は、彼の人生観に影響を与えるとともに、生命の尊さや限りある時間の中での幸福の追求の重要性を彼に気づかせました。病気は私たちに、一瞬一瞬が貴重であること、そして日常の小さな幸せや周囲の人々との関係性の大切さを教えてくれます。それは、物質的な豊かさや社会的な地位よりも、健康や愛する人々との絆、そして互いに支え合うことの中に真の幸福があることを再認識させてくれるのです。
幸福は個人の内側から湧き上がる感情であり、外部の状況や他者の評価に依存するものではありません。しかし、私たちの幸福はしばしば、周囲の人々との関係性やコミュニティとの結びつきに大きく影響されます。池田氏が強調する相互理解と共生・共存は、人々が互いの違いを尊重し合い、争いを避けて協力し合うための鍵となります。このような関係性が築かれることで、一人一人の心の中にある幸福の種が芽吹き、成長していくのです。
そして、日本人が幸福な生き方を取り戻していく条件として、「三つの柱」を大切にしています。
「三つの柱」について、深掘りしてみますと、「真の幸福とは何か」というのが明らかになってきます。
日本の文化・伝統の見直しと復権
日本は近年、経済的な成果を上げることに成功しており、物質的には豊かな時代を迎えています。しかし、心の豊かさや幸福を感じるという面では、まだ足りない部分が多いと感じられています。ここで注目すべきは、日本固有の文化や伝統に目を向けること。古くから日本に根付く神道の考えや、すべてのものに仏性があると説く仏教の教義、そして「三方よし」の商習慣などは、現代の西洋中心的な考え方や二元論的思考を越え、より包括的な世界観を築くヒントを持っています。これらの伝統や文化を今一度見直し、現代に合わせて再評価・再生することで、心の豊かな社会や真の意味での幸福を追求する道を模索できるのではないでしょうか。
人間の生命観・自然観への反省
現代社会においては、「プラネタリヘルス」という考え方や、微生物との関わりなど、生命や自然との関連性を見直す動きが広がっています。しかし、その中で重要なのは、人間と自然は分離した存在ではなく、一体としての関係性を持っているという認識。地球との共生の視点をもっと深め、自分自身が地球や他の生命とどのように関わっているのかを意識することで、日常生活や社会のあり方にも変革がもたらされる可能性があります。
市民一人ひとりの精神的自立
近年、世界は多くの変動や不確実性を伴う大きな出来事に見舞われています。そんな中で、一人ひとりの市民がどうありたいか、何を信じて生きていくかという精神的自立がますます重要になってきています。メディアや他者の意見だけに流されることなく、自分の信念や価値観に基づいて考えること。そして、それに基づいて行動すること。これが、真の幸福を実現するための鍵となると考えられます。
自分の中にあるインクを出し切る 岩田 稔さん p60
不治の病(1型糖尿病)を抱えてプロ野球入りした岩田稔投手。
何度も幾度となく偏見、怪我泣かされながら継続してきました。ここにも「幸福の条件」のヒントがある思います。
消えそうで消えないマジック(ペン)のように、持続的な影響を持つ存在として私たちの心に残っています。阪神タイガースの「不屈の左腕」として、彼は16年間チームを離れずに勝負を投げ続けました。その姿勢は、ただのプロ野球選手としてだけでなく、多くの人々に深い感動や勇気をもたらしました。
岩田氏のストーリーから。「幸福の条件」は何か、ということを考えると、それは金や名誉、物理的な成功だけではなく、人の心の中に秘められた深い願いや信念を果たすことにあるといえるかもしれません。
「自分の目的や使命を見つけ、それを追い求めること」にあると。氏の場合、その使命は「1型糖尿病患者の希望の星になる」ことでした。この使命は、ただの自分のための目標ではありませんでした。岩田氏は、同じ病気で苦しむ人々に「何だってできる」という希望を与えるために、マウンドに立ち続ける決意をしています。
この姿勢は、幸福を追求する際の大切な要素を示しているのではないでしょうか。それは、自分のため(受け入れる)だけではなく、他者のために何かを達成(共有する)することが、真の幸福感をもたらすということです。家族、友人、そして彼を応援する多くのファンを思いながら、岩田氏は最後まで自分の信念を貫きました。
結果として、彼の選手としてのキャリアは成功したといえるでしょう。しかし、それ以上に、彼が達成した使命は、多くの人々にとっての「幸福の条件」を示してくれたのではないでしょうか。
「幸福の条件」は、自分の信念や目的を見つけ、それを追い求めることにあるといえます。そして、それが他者のためにもなる場合、その幸福感はさらに増幅されるでしょう。アランのいう幸福「他人との関係性、特に他人に対する義務」という考えに近いものがあるかも知れません。「幸福」が自分だけの独りよがりになっていないか、自分自身も継続して考えていきたいと思います。
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