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アクティブ・リスニングの真髄を再び:コミュニケーションの新たな次元へー川上真史氏より

 川上真史ビジネス・ブレークスルー大学教授の「リスキリングに必要な10のスキル 5」は、再び「アクティブ・リスニング」です。「再び」というのは、「企業と心理学 トピックス #10 アクティブ・リスニング」にて最近取り上げられ、私も以下で考察しました。それだけ重要な、そして一部には誤解もされている面もあり、何度でも理解する必要があります。


「聞く(Hear)」と「聴く(Listen)」の違い

 今回はまず、「聞く(Hear)」と「聴く(Listen)」の違いについて詳細な説明がされていました。「聞く」という行為は、音が自然と耳に入ってくるような受動的な過程を指します。例えば、背景にある音楽や周囲の雑音を無意識に聞いているような状態です。
 一方、「聴く」という行為は、意識的かつ積極的に相手の言葉の意味を理解しようとする能動的な過程を指します。これは単に音を知覚するだけでなく、その内容を理解し、場合によっては解釈を加えるという高度な認知プロセスを含んでいます。

アクティブ・リスニングは「積極的傾聴」とは異なる

 アクティブ・リスニングは、しばしば「積極的傾聴」と訳されることがありますが、この訳語は概念の本質を十分に捉えきれていないという指摘がなされています。一般的に「積極的傾聴」というと、相手の話に熱心に耳を傾け、うなずきながら聞くというイメージがあります。
 しかし、アクティブ・リスニングの本質はそれだけにとどまりません。それは、聞き手が能動的に質問を投げかけ、相手の話を詳しく聞き取ろうとする姿勢を含んでいます。つまり、単に受動的に聞くのではなく、対話を通じて相手の真意を引き出そうとする積極的な態度が求められるのです。

 このプロセスには重要な副次的効果があります。アクティブ・リスニングを通じて、話し手自身も自分の本音や本心、真に望んでいることに気づくことがあるのです。日常生活において、私たちは必ずしも自分の真の感情や欲求を明確に認識しているわけではありません。しかし、適切な質問や反応によって、話し手は自己の内面をより深く探る機会を得ることができます。そして、この自己発見のプロセスを聞き手と共有することで、より深い相互理解と信頼関係を築くことができるのです。これこそが、アクティブ・リスニングの本質的な意義となります。

人間のコミュニケーションの特徴

 次に、人間のコミュニケーションの特徴についてです。人間のコミュニケーションは、単純な情報の送受信ではなく、複雑な記号化と解釈のプロセスを含んでいます。伝え手は自分の伝えたいことを言葉や表情、ジェスチャーなどの記号に変換します。これを「記号化」または「象徴化」と呼びます。例えば、「疲れた」という感情を表現するために、ため息をつくという行為を選択するかもしれません。

 一方、聞き手はこれらの記号を受け取り、それを解釈して意味を理解しようとします。しかし、この解釈のプロセスは個人の経験や文化的背景、その時の状況などによって大きく影響を受けます。例えば、同じため息でも、疲労の表現と捉える人もいれば、退屈や不満の表現と解釈する人もいるかもしれません。

 このように、人間のコミュニケーションは伝え手の意図と聞き手の解釈の間に常に「ずれ」が生じる可能性を含んでいます。これは動物のコミュニケーションとは大きく異なる点です。例えば、犬のしっぽを振る行為は通常「喜び」を表すという明確な意味を持ちますが、人間の場合、同じ行為(例えば笑顔)が文脈によって異なる意味を持つことがあります。この複雑さゆえに、人間のコミュニケーションでは誤解が生じやすいという特徴があるのです。

「受容的コミュニケーション」の重要性

 この人間コミュニケーションの特徴を踏まえ、「受容的コミュニケーション」の重要性が強調されます。受容的コミュニケーションとは、相手の伝えたいことをそのまま理解しようとする姿勢を指します。これは単に相手の言葉を聞くだけでなく、その背後にある感情や意図までも理解しようとする深い傾聴の姿勢です。

 受容的コミュニケーションにおいて最も重要なのは、自分の意見や評価を一旦脇に置き、相手の真意を理解することに集中することです。多くの場合、私たちは相手の話を聞きながら、すでに自分の意見や反論を頭の中で準備していることがあります。しかし、このような態度は真の理解を妨げる可能性があります。受容的コミュニケーションでは、相手の言葉に対して即座に賛成や反対の意見を述べるのではなく、まずは相手の言葉をそのまま受け止め、十分に理解しようとする態度が求められます。

 これは特に、感情的になっている相手とコミュニケーションを取る際に重要です。例えば、怒りや不満を表明している相手に対して、すぐに反論や解決策を提示するのではなく、まずはその感情をしっかりと受け止め、理解しようとする姿勢が必要です。このような態度は、相手の感情を和らげ、より建設的な対話への道を開く可能性があります。

アクティブ・リスニングを実践するための具体的な3つのスキル

繰り返し
 これは相手の話をそのままオウム返しにする技術です。一見単純に見えるこの技術は、実は非常に効果的です。相手の言葉をそのまま繰り返すことで、聞き手は自分が正確に相手の言葉を聞いていることを示すことができます。同時に、話し手は自分の言葉を客観的に振り返る機会を得ることができます。これは特に感情的になっている相手に対して効果的で、自分の言葉を冷静に見つめ直すきっかけを提供します。

明確化
 
これは相手の話を整理・要約して返す技術です。長い話や複雑な説明を聞いた後、その要点を簡潔にまとめて相手に確認することで、理解の正確さを確認することができます。また、この過程で話し手自身も自分の考えをより明確に整理する機会を得ることができます。「つまり、あなたが言いたいのは〇〇ということですね?」というような形で使用することで、相手の真意を確認し、誤解を防ぐことができます。

質問
 
これはオープンかつ拡散的な質問を投げかける技術です。クローズドクエスチョン(はい・いいえで答えられる質問)ではなく、オープンクエスチョン(詳細な説明を要する質問)を用いることで、相手の考えをより深く引き出すことができます。また、一つの正解を求めるような質問ではなく、多様な回答の可能性を持つ拡散的な質問を用いることで、相手の思考を広げ、新たな気づきを促すことができます。

 さらに、実践的なアドバイスとして、質問をする際にはゆっくりと投げかけ、相手が十分に考える時間を与えることの重要性が述べられています。多くの場合、沈黙は不快なものと捉えられがちですが、アクティブ・リスニングにおいては、この沈黙の時間が重要な意味を持ちます。相手が自分の考えを整理し、より深い洞察に至るための貴重な時間となるのです。

アクティブリスニングの実践

 最後に、このスキルを実際に誰かに対して試してみることが強く推奨されています。具体的には、以下のような自己反省的な質問を投げかけることが提案されています。

  • 自分の周囲で、誰をより深く理解する必要があるだろうか?

  • その人について、現在理解できていないことは何だろうか?

  • その人により深い理解を得るために、どのような質問を投げかけてみるべきだろうか?

 これらの質問に答えることで、アクティブ・リスニングのスキルを具体的な人間関係の中で実践する準備が整います。

まとめ

 このようなアクティブ・リスニングのスキルを身につけ、日々の生活で実践することで、他者との理解を深め、より効果的なコミュニケーションを図ることができます。これは、急速に変化し、多様性が増す現代社会において、継続的に活躍し続けるために不可欠なスキルの一つとして位置付けられています。相手を深く理解する能力は、ビジネスにおける交渉や協力関係の構築、個人的な人間関係の改善、さらには自己理解の深化にも大きく貢献します。したがって、このスキルの習得と実践は、個人の成長と社会的成功の両面において極めて重要な意味を持つといえるでしょう。

多様な人々がプロフェッショナルな環境でディスカッションをしている様子が描かれています。一部の人は同意のうなずきを見せ、他の人は前のめりに積極的に聞いています。話し手は活発なジェスチャーで話を進めており、全体的な雰囲気は落ち着いて協力的です。

大きな窓から自然光が差し込み、背景にはソフトな室内植物とモダンなオフィスデザインが見えます。参加者たちの詳細な表情やボディランゲージが、彼らの注意深さと理解を表現しています。アクティブ・リスニングの重要性とその実践が強調されたシーンが見事に描かれています。


 アクティブ・リスニングは、私も時々取り上げている、リーダー・エフェクティブ・トレーニング(L.E.T.)においても核となる技術で、習得すると、あらゆる局面で使うことができます。

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