見出し画像

「私には無理」を克服:部長職への道を切り開く企業の取り組みー日経ビジネス記事より

 日経ビジネス2024/6/7の記事に『2024年女性活躍度調査「私には無理」を解消し部長昇進の壁破る』が掲載されていました。

 日経WOMANなどが実施した「企業の女性活躍度調査2024」では、資生堂が3年連続で総合ランキング1位を獲得し、女性活躍推進のリーダーとしての地位を確固たるものにしています。資生堂は、2024年1月時点で国内グループの女性管理職比率が40.0%に達しており、これは業界でもトップクラスの水準です。
 一方、上位企業に共通する課題として、課長クラスより上位の管理職、特に部長職への女性の登用が進んでいないという現状が浮き彫りになりました。

 この「部長の壁」は、いくつかの要因によって生まれていると考えられます。

1.昇進意欲の欠如
 
多くの女性社員が、部長職に求められる責任や負担を考えると「私には無理」と感じてしまう傾向があります。資生堂では、従来のリーダーシップモデルにとらわれない研修を通じて、女性社員が自分らしいリーダーシップを追求できるようサポートしています。例えば、ロールモデルとなる女性リーダーとの交流会や、個々の強みを活かしたキャリアプランニングのワークショップなどを開催し、女性社員の自信と意欲を高めています。

2.経験不足
 
女性社員は、男性社員に比べて昇進に必要な経験を積む機会が限られている場合があります。りそなホールディングスでは、「女性支店長トレーニー制度」を導入し、女性支店長が中・大規模店舗で実地研修を受けられるようにしています。この制度では、トレーナーとなるベテラン支店長から直接指導を受けられるだけでなく、本部での研修も並行して行われるため、短期間で集中的に知識と経験を習得することができます。

3.業務格差
 
女性社員は、男性社員に比べて昇進に直結しにくい業務を任される傾向があります。東京海上日動火災保険では、出光興産と共同で「クロスメンタリング」プログラムを導入し、他社の女性管理職と交流する機会を設けています。異なる企業文化や価値観に触れることで、視野を広げ、新たな視点や発想を得ることができます。

 これらの取り組み以外にも、イオンは女性役員候補育成プログラムを新設し、NTT東日本は育休中の社員が参加できるオンラインコミュニティを企画するなど、各社が独自の施策を展開しています。

 東京大学名誉教授の佐藤博樹氏は、専門家の立場から、「役職ごとに求められるスキルが異なる」ことを指摘しています。部長職には、論理的思考力や問題解決能力といった概念化スキルが重要であり、それはOJTだけでは身に付きません。企業は、女性社員が主体的に学び、成長できる環境を提供することが求められます。

 女性活躍推進は、一朝一夕に達成できるものではありません。しかし、ロールモデルとなる女性管理職が増え、企業文化や制度が変わり、社会全体の意識が変わっていくことで、「部長の壁」は徐々に低くなっていくはずです。

企業人事としての視点


 企業人事の視点から考えてみます。確かに、女性活躍推進は企業の持続的な成長に不可欠な要素です。多様な人材が活躍することで、イノベーションが促進され、企業の競争力が高まります。一方、今回の「企業の女性活躍度調査2024」の結果が示すように、多くの企業で「部長の壁」が存在し、女性が上級管理職に昇進する上で障壁となっています。人事としても、この「部長の壁」を打破し、女性がその能力を最大限に発揮できる環境を整備することが、企業全体の活性化につながると認識しなければなりません。

 では、具体的にどのような施策を講じるべきでしょうか。まず、やはり意識改革が必要です。管理職層には、無意識の偏見(アンコンシャスバイアス)が存在する場合があります。女性だからリーダーシップは難しい、家庭を優先するはずだ、といった固定観念が、女性の昇進を阻害している可能性があります。そこで、アンコンシャスバイアス研修などを実施し、管理職層の意識改革を促すことが重要です。女性社員の能力を正当に評価できる環境を構築し、性別に関わらず、能力と実績に基づいた評価と登用が行われるようにしなければなりません。

 同時に、女性社員自身の意識改革も必要ではあるでしょう。自信のなさや昇進への不安から、自ら「部長の壁」を作ってしまう女性もいます。そこで、女性社員向けのキャリア研修やメンタリングプログラムを実施し、自己肯定感を高め、リーダーシップスキルを磨く機会を提供することが重要です。ロールモデルとなる女性管理職との交流会や、キャリアプランニングのワークショップなどを開催し、女性社員が自分のキャリアパスを明確に描けるようにサポートすることも有効です。

 女性向けの施策だけを実施するだけでは不十分でしょう。男性社員の育児休業取得を推進することも重要です。男性が育児に参加することで、女性が仕事に専念できる環境が整い、キャリア形成を妨げることが少なくなります。育児休業取得を奨励するだけでなく、取得しやすい職場風土を醸成することも重要です。男性社員が育児休業を取得してもキャリアに影響がないことを明確にし、取得後のキャリア支援も充実させることで、より多くの男性社員が育児に参加できるようになるでしょう。

 意識改革に加えて、育成と登用の仕組みも整備しなければなりません。女性社員の能力開発に積極的に投資し、昇進に必要なスキルや経験を習得できる機会を提供することが重要です。例えば、リーダーシップ研修やマネジメント研修などを実施し、女性社員が管理職としての能力を高められるようにサポートします。また、社内公募制度やジョブローテーション制度などを活用し、女性社員が様々な業務に挑戦できる機会を設けることも有効です。

 さらに、女性社員の登用目標を設定することも重要です。目標を設定することで、管理職登用における透明性と公平性を確保し、女性社員のモチベーション向上にもつながります。目標達成に向けた具体的なアクションプランを策定し、定期的に進捗状況を確認することで、より効果的な施策を展開することができます。

 制度改革も不可欠です。柔軟な働き方を導入し、育児や介護と仕事の両立を支援することで、女性社員が安心してキャリアを継続できる環境を整備します。テレワークやフレックスタイム制などを導入し、時間や場所にとらわれない働き方を可能にすることで、仕事と家庭の両立を支援します。また、女性社員が働きやすい職場環境を整備することも重要です。ハラスメント対策を徹底し、相談窓口を設置するなど、女性社員が安心して働ける環境を整えることが、離職防止にもつながります。

 管理職評価制度の見直しも検討する必要があります。まだまだ、個人としての業績を評価する仕組みになっていないでしょうか。部下の育成や多様性推進の取り組みを評価項目に組み込むことで、管理職層の意識改革を促し、女性社員の育成と登用を促進することができます。また、管理職の多様性を高めるために、女性管理職のロールモデルを増やすことも重要です。女性管理職の活躍事例を社内外に発信することで、他の女性社員のモチベーション向上にもつながります。

 これらの施策を総合的に推進することで、女性社員が能力を最大限に発揮できる環境を整備し、企業全体の活性化につなげることが期待できます。

人事としての取り組みとまとめ

 人事部門としては、女性活躍推進の取り組みを継続的に評価し、改善していくことが重要です。定期的にアンケート調査や面談を実施し、女性社員の声を収集し、課題を把握することで、より効果的な施策を立案することができます。また、他社の成功事例を参考にしたり、専門家の意見を聞いたりすることで、自社の課題に合った施策を展開することができます。

 女性活躍推進は、人事部門だけの課題ではなく、経営層を含めた全社的な取り組みとして推進していく必要があります。経営層がリーダーシップを発揮し、女性活躍推進の重要性を社内に浸透させることで、より大きな成果を上げることが期待できます。経営層は、女性活躍推進の目標達成に向けたコミットメントを示し、必要な資源を投入する必要があります。また、定期的に進捗状況を確認し、課題があれば速やかに対応することで、取り組みを継続的に改善していくことができます。

 女性活躍推進は、企業の持続的な成長に不可欠な要素です。人事部門は、女性社員がその能力を最大限に発揮できる環境を整備し、企業全体の活性化に貢献していく必要があります。


企業の管理職に昇進する女性の活躍を描いています。中央に位置する女性が象徴的な「ガラスの天井」を破り、周囲のガラスの破片が飛び散るシーンは、彼女たちが直面する障壁を克服する姿を表現しています。背景には、都会的なオフィス環境と大きな窓から見える都市の景色があります。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?