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「小世界大戦」の【記録】 Season1-8

すべての会議や研修、そして準備作業が終わって、
退勤したときは、もうすでに7時をまわっていた。
それでも半数近い教師がまだ机に向かって、
何やら作業をしたり、打ち合わせを行っていた。

「さ、僕たちはそろそろ退勤しましょう。
酒巻先生、ちょっとやっていきましょう。満仲先生も一緒です。」

満仲の方を見ると、にやっと笑って、
手を口に持っていき、きゅっと上にひねった。

・・なあんだ、そういうことか・・。

 吾郎はたぶん財前先生が、この場から抜け出す
「口実」を作ろうとしていたのだと考えた。
たしかに「一人だけだと帰りにくい」

そんな同調圧力がそこはかとなく感じられていたのだ。

「あ!財前さん、帰るの?俺も帰るから待ってて!」
そう声をかけたのは、瀬野という教師だった。
技術科の担当だというが、
今年からなぜか社会科のコマを一つ担当していた。

 「行くの篤田台駅前の「吉楽きらく」でしょ?これ終わったら、行くから。」

なんだ、みんな「常連」だったんだ・
って言うことは、そこは「裏情報」のるつぼなんじゃないのか? 
そういう意味でこの職員集団の雰囲気を知る上では
興味深いかとも知れないと。
なんとなく前向きな気持ちでいた。

「お先に、失礼しまぁす!」
と口々にいいながら帰る吾郎たちを、
机に向かっている教員たちが、ちらっと一瞥して

「お疲れ様です~」

という輪唱が起こった。

私鉄の駅の本当の真ん前に、その「吉楽」はあった。
主に焼き物を提供する居酒屋で、
カウンターと小上がりが少しある、
大衆居酒屋というような感じの店だった。

「ここのね、川海老の唐揚げが絶品なんですよ。」
財前先生がそう言った。

やがて全員にジョッキにつがれた生ビールが行き渡った

「では、乾杯!」

ということで、早速うたげが始まった。

吾郎は、財前から今朝方の「卒業生」の顛末を聞き出したかった。

だが、なかなか、話題がそこに行かない。

話の中心は、あのお調子者の満仲が牛耳っていた。
ほとんどが今日の「作業」の話に終始していた。
吾郎もいささか食傷気味だったが、
思い切って話題を振ってみた。

「そうだ財前先生、今日バイク走らせてた卒業生と、
3年生の事、教えてくださいよ。」
「ああ、そうでしたね・・。」

財前先生はちょっと声を潜め、周りを気にしながら話し始めた。

「この事件を揉みつぶしたのは、羽田校長と、大川教頭なんです。」

「・・え・・?」

「基本的には、マスコミ対策ですけど・・。」
「でも、それって・・。」
「当然、示談にはなっています。ただし、労災扱いにしないということで、どこかからお金は動いたようなんです。」
「・・・・。」
「本間は守られた形になったんですが、これも訳ありで。」
「どういうことですか?」

「本間とつるんでいる3年生の馬鹿ボンズが、
有力者の縁者ひもつきだって事ですよ。」

なにやら、うさんくさい話になってきたと吾郎は感じていた。

TO BE CONTINUE

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