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飛鳥がゆく・・・  Ⅱ

お姉ちゃんと語らう

その日、飛鳥と咲は、久しぶりに姉妹で同じ部屋で寝た。

 姉の咲の荷物は、あらかた新婚新居に運んでいったので、少し大きめなベッドだけが咲の部屋にあり、妹の飛鳥は自分の上掛けを抱えて、姉のベッドに潜り込んできたのだ。

「ねえ、お姉ちゃん。」
「・・ん?」
「一緒に寝よ・・・。」
「・・うん、いいよ。・・その方がいいよね」
「・・うん・・ありがとう。」

 咲は、隣に潜り込んできた飛鳥の頭を、十数年ぶりに撫でた。

「・・・懐かしいなぁ・・。安心する。」
「うふふ、子どもみたいだね。」
「あたしはまだ子どもだと思う。お姉が大人すぎるんだよ。」

 咲は小さく笑うと

「これからあたしもお母さんになるから、大人になんなきゃね。」
「あ~、それもそうか。・・・でも、やっぱり昔から大人だったよ。」

飛鳥はもう一度、咲の胸元に自分の顔を寄せた。

「お姉、なんか、胸が大きくなった感じがする。」
「あ・・、気づいた?」
「うん、太ってないくせに、不思議だなって思ったの。」

 咲はまだ目立ってもいない自分の腹に手を添えた。

「不思議だなって思うよ。でも、たぶんこの子のための準備なんだろうなぁ。」

飛鳥はそのまま、そっと姉の腹に手を添えた。そして、少しかなしげな顔をしながらつぶやいた。

「お姉ちゃん、もし、今、あたしもこうなったらどうしよう・・・。」
「・・・・・・。」

「まだ少し怖い、でも、たぶん大丈夫だと思う。・・純さんのおかげで・・。服を破かれただけで済んだよ。だからたぶん大丈夫。
 あたしだって、それくらいわかるけど。 だけど、生まれて初めてだよ。男の人の「あれ」って、あんな大きくて硬いものなんだって。おぼろげには聞いてたけど。・・・・ホントに怖かった。それがものすごくショック。」

「・・・うん・・・。その状況だとホントに怖かったね。きっと。」
「うん、すごく怖かった、・・・・お姉ちゃん・・・。ホントに怖かった。もうここだけの記憶にしておきたい、もう忘れたいよ。」

「お父さんやお母さんには、内緒にしておいた方がいいかな?」
「うん、そうしてほしい・・。」

 飛鳥は、咲の懐に触れて、だんだん気持ちが落ち着いてきたようだった。飛鳥にとって、姉の咲は、母親以上に包まれるような「何か」を持っていたのかも知れなかった。

 なぜなら、小さいときから何か深い「姉」の存在をいつも聖母のような気持ちで慕っていたからかも知れなかった。母は飛鳥のことをいつも「お姉ちゃんっ子」という呼び方をしていた。そして、ある意味一番心を開ける対象でもあった。それほど慕っていたのだ。

「ねえ、お姉の初めての人って、耕作センセーなの?」
「・・はじめてって、なにが?」
「・・あれ、・・」
「あれじゃわかんないよ。」
「・・せっくす・・・」

 咲は、少し動揺して、飛鳥の頭をとんっと小突いた。

「よくそんな恥ずかしいこと聞いてくるなぁ。」
「・・今だから、聞きたいんだよ。」
「・・・そうか、・・そうだね。」

    飛鳥は咲の胸に顔を埋めたままつぶやいていた。その声が、咲の身体を通じてその奥底から伝わってきた。飛鳥の心の声が伝わっているような、そんな感覚を咲は感じていた。

「・・・そうだよ・・・。」
「ふうん、で、いつなの?」
「そうだなぁ、たぶん、今の飛鳥と同じくらいの時。」
「・・・知らなかったなぁ・・。」
「・・・知らなくて良い・・あはは。」

「やっぱり、硬くて大きかった?」
「どうかなぁ・・でもそうだったと思う。結構怖かった感じはしたよ。」
「でもどうして、お姉は大丈夫だったの?」
「・・怖くならないように、彼が優しく囁いてくれたから・・かな。そうしたらね、何よりも、この人に愛されてるって心から思った。で、あたしは心からこの人がほしいと思った。だから全然スムーズに受け入れられたの。・・むしろ気持ちよく。」

 飛鳥は咲に寄り添いながら、ぽつんと言った

「・・してることは同じなのに、・・・心の問題なんだね。男の人はみんなそういう時は乱暴だ、というわけじゃじゃないんだ・・。」
「うん、そう、こっちもね、無条件に好きになった相手だから。だから怖くなかった。考えれば、不思議だね。同じ事なのに。」

 飛鳥は、また、しばらく黙りこくって、静かに言った。

「うらやましいな、そう考えると、あたしと同じ歳で、もうそういうことができた恋人がいたわけだよね。」
「・・あ、そうなるか・・・。」
「やっぱ、お姉はずるいな。」

 飛鳥はくすくすと笑った。

「ねえ、お姉。」
「なあに?」
「村野さんのこと、なんで嫌いなの?」

 咲は大笑いした。

「昔は嫌いだったよ。」
「へぇ、今は?」
「特に好きにはなれないひと。」
「なにそれ」
「うちのダンナのプロトタイプだからよ。未完成感があるの。」
「・・・なるほど・・・。じゃあ、根っこは同じって事か。」
「まぁ、そういうことにしておくか。」

 飛鳥はそこで、ふうっと深く息を吐いた。

「おねえちゃん」
「・・・うん・・・?」
「あたしね、村野純、好きになっちゃったと思うんだ。」
「・・・そうか・・・そうだよね。・・なんとなく、わかってたよ。」
「どうしたらいいかなぁ・・。」
「素直に想いを伝えたらいいと思うよ。結果とかそういうのを気にしないで、ありのままに、裸の心を伝えたらいいと思う。」

飛鳥は咲にそのまま抱きついた。

 なんの計らいもなく、ただ、心のあるがままにいる事は、こんなにも心地よいことなのだ。あの御前が言った「そのままで良いのだ」ということは、こういう事なのかも知れないと、咲は飛鳥のぬくもりを感じながら思っていた。

https://music.youtube.com/watch?v=hRix1pT4vGE&feature=share

「ねえお姉・・」
「・・うん・・?」
「お姉、匂い変わった。」
「・・え・・?」
「どこか、素敵な男の人の匂いが混じってる。」
「ば~か!」
「あたしもそんな匂いになれるかな。」
「・・あんた次第だね・・。」
「そか」

いつしか、二人は寝入っていた。

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