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「小世界大戦」の【記録】 Season1-14

「なぁ、涼美ちゃん。ちょっと訊いていいか。」

布団に二人でくるまりながら、吾郎は思いきって、
「気になる女生徒」の話を切り出した。
あらかた話したあと、涼美は一言だけ言った・

「保健室には、絶対来ない子だね、そういう子。」
「・・・って?。」
「自分で自分の心矛盾を、何らかの形で自己完結させてるんだよ。・・・先輩の受け売りなんだけどね、保健室に頻繁に来る子より、滅多に来ない本当に『良い子』」こそ、注意すべき生徒だって事。」

「そのこころは?」
「おもてだってアピールする子は、ちゃんと課題をくれる。だけど、そうでない子は、こっちから探っていかなくちゃいけないの。暴れる子は単純にアピールしてる。でも、良い子も同じ不満をじっと秘めてるんだよ・・・。。」

 さすがの回答だった。思わずメモしたいくらいの言葉だった。
吾郎は感心したが、涼美はふふんと笑って、
吾郎の額を指でちょんと突いた。

「今の吾郎ちゃんは、まだまだ修行が足らないけど、
気づいただけ合格かな。」

と、また先輩風を吹かせた。
「あの子は駅で降りて、どこに行ったのかなぁ・・。」

 吾郎は独り言のようにつぶやいた。
「気になる?」
「・・うん、ちょっとね。」
「その子のクラス、授業担当してる?」
「してないけど、生徒会役員だから、接点があるといえばあるかな。」

涼美はくすりと笑って、
「じゃあ、その伝手を使って、リレーションを深めることだね。」
「リレーションって?」

吾郎が不思議な顔をして涼美の方を見ると、
涼美はまた、吾郎の額をぺちんと小突いた。

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「あきれた・・そんなのもわからないで、よく生徒指導部つとまるわねぇ・・、関わりを多く持ちなさいって事だよ。」
「ああ、そうか、仲良くなれってこと?」
「それともちがうよ、つまり、信頼関係。
養護教諭にとってもっとも大事な要素だよ。」
「なるほど・・。」
「コツはね・・、協力関係になること。
そうだな、一緒に人間として育っていく。」

よく考えれば永山先生は、常に生徒に声がけをしていた。
生徒たちは彼を恐れてはいたが

「恐怖」というより「畏敬」に近いのではないのだろうか。
 
逆に恐怖に訴えても、かえって反発を招くだけなのだろう。
かといって、生徒になにかと阿る教師も確かにいたが、
その教員の授業や学級は、例外なく崩壊していた。

 吾郎は、自分のめざす方向性をおぼろげながらだが、
見えてきたような気がしていた。

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