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ぶったん箸休め

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物理探査のことを略して、物探(ぶったん)と呼びます。ここでは、物探とチョッとだけ関係ある話題を集めました。智の箸休めです。楽しんで下さい。
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#科学エッセイ

フーリエ変換とラプラス変換

 連続的に時間変化するデータを時系列データと呼びます。一般的にほとんどのデータはノイズなどを含み時間的に変化しますから、多くのデータは時系列データとみなすことができます。この時系列データから有意な成分を取り出すデータ処理に、フーリエ変換が使われます。フーリエ変換は、物理探査だけでなく、多くの物理現象の解析に使われるポピュラーな手法です。  フーリエ変換は、フーリエ(Fourier;タイトル図)が考案したデータ解析法で、複雑な周期関数をより簡単に記述することができるため、音や

こんな測定装置を作りたい!

 今回は、本気で本格的な研究のお話です。  10月から始まったプロジェクトでは、MT法(地磁気地電流法)の新しい測定装置の開発を目的としています。現状でも、高精度のMT探査機はあるのですが、高価(一式で高級外車が買えるくらい)ですし、磁気を測るセンサが重い(1本が10kg程度)などのため、1つの地域で多くの調査を実施することは、そう簡単ではありません。  そこで、このプロジェクトでは、小型・高精度のMT測定装置を開発し、ついでに探査コストも低減させようと目論んでいます。今

MT法の先駆者たち

 地磁気地電流法(magnetotelluric method; MT法)は、1950年にロシアの地球物理学者Andrey Nikolayevich Tikhonov、1953年にフランスの地球物理学者Louis Cagniardによって、それぞれ独自に研究されました。 当初は、探査理論や測定の難しさから実用化に時間がかかりましたが、測定装置、データ処理、数値モデリングの進歩などにより、MT法は地球深部の研究における最も重要なツールの1つとなっています。  Tikhonov

祝ノーベル物理学賞 真鍋淑郎さん

 今年もノーベル賞の季節がやって来ました。本日のホットニュースは、今年のノーベル物理学賞にアメリカ・プリンストン大学上席研究員の真鍋淑郎さん(90)が選ばれたことです。  真鍋さんは地球温暖化研究の先駆的存在で、1950年代末からアメリカにわたり、コンピュータを用いて気候の変動を分析する研究分野を開拓しました。また、二酸化炭素濃度の上昇が大気や海洋に及ぼす影響を世界に先駆けて研究し、現代の地球温暖化予測の枠組みを築きました。これらの業績に対して、ノーベル物理学賞が贈られまし

野球の打順で例えてみたら・・・

 この記事を書いている時期は、甲子園で夏の大会が行なわれています。そこで、物理探査の各手法を野球の守備位置と打順で例えてみたいと思います。野球にも物理探査にも興味ない人には、全く理解されないと思いますが、あえて挑戦してみました。ただし、これはあくまでも個人の感想です。私の考えた打順と守備位置は、以下の通りです。 1番 センター   重力探査 2番 レフト    磁気探査 3番 セカンド   屈折法(弾性波探査) 4番 ピッチャー  反射法(弾性波探査) 5番 サード    

重力計のキモ ゼロ長のバネ

 バネには様々な種類がありますが、一般的に思い浮かべるのはコイルばねだと思います。コイルばねとは、その名の通りぐるぐると巻かれた見た目のばねです。コイルばねには、圧縮して使う圧縮コイルばねや、引っ張って使う引張コイルばねがありますが、どちらも伸縮の長さに応じた(比例した)力が利用されます。  重力を測定する相対重力計にもバネが使われていますが、ちょっと特殊なバネが使われます。”ゼロ長のバネ”という言葉を聞いたことがありますか。バネには自然長と言って元々のバネの長さがあり、自

"分解能"と”可探深度”は二律背反

 物理探査の分解能とは、どこまで細かく探査対象が識別できるかを表わした言葉です。物理探査を選択する場合には、分解能は大変重要で、対象が埋蔵文化財のような数十cm程度のものなのか、大規模な金属鉱床のような数百m規模のものなのかを考えないと、正しい探査手法を選択できません。  また物理探査では、どこまで深く探査が可能なのかも探査手法を選択するうえで重要になります。これは可探深度と呼ばれています。可探深度を正確に計算することはできませんが、目安となる指標はいくつかあります。例えば

地球の大きさを測った男 エラトステネス

エラトステネス(Ερατοσθένης)は、ヘレニズム時代のエジプトで活躍したギリシャ人の学者であり、エジプトのアレクサンドリアにあったアレクサンドリア図書館の館長を務めていました。業績は文献学、地理学をはじめ多岐に渡りますが、特に数学と天文学の分野で後世に残る大きな業績を残しました。数学で有名なのは、”エラトステネスの篩”と呼ばれる素数判定の方法です。この方法は素数の一覧を得る手法として広く知られ、最古のアルゴリズムと考えられています。 またエラトステネスは、地球の大きさ

電気を食べる微生物

 人間は自ら栄養を作り出すことはできませんが、一部の生物は生命の維持に必要な栄養分を自ら合成します。しかし、栄養分を作るにはエネルギーが必要です。例えば植物は、太陽光をエネルギーとして二酸化炭素からデンプンを合成します。一方、太陽光が届かない環境には、化学合成生物と呼ばれる水素や硫黄などの化学物質のエネルギーを利用する生物が存在します。二酸化炭素から栄養分を作り出す生物は、これまで光合成か化学合成のどちらかを用いていると考えられてきました。しかし、どちらの方法も使わない微生物

キャパシタ電極を用いた比抵抗法

 従来の比抵抗法では、一対の金属棒電極を地面に刺して直流電流を流し、別の一対の金属棒電極で電位差を測定します。そして既知である電流値、測定電位差、各電極の位置関係から地盤の比抵抗分布を測定します。このとき、電流電極間のオフセット距離を大きくすると、探査できる深度が深くなります。しかし、この方法は土が露出している場所では有効ですが、アスファルトの舗装道路など電極を打ち込めないところでは使用できません。  そこで、キャパシタ電極と呼ばれる特殊な電極を使った比抵抗法が開発されまし

高温超電導

 一般に高温超伝導とは、ベドノルツとミュラーが1986年に発見したLa-Ba-Cu-O系の超伝導物質と、その後続々と発見された転移温度が液体窒素温度(−195.8 °C, 77 K)を越える一連の銅酸化物高温超伝導物質と、その超伝導現象のことを指します。この高温超伝導を示す物質のことを高温超伝導体といいます。高温超伝導における高温とは、従来の超伝導体と比較すると高温である−200〜−100°C程度の温度を意味しています。なお、ベドノルツとミュラーはこの研究業績により、1987