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「First Love 初恋」ビジュアル撮影について

この記事は、台湾のデザイン&ライフスタイルメディア「Shoppig Design」による「First Love 初恋」のビジュアル撮影についてのインタビューを翻訳(導入、質問部分を意訳)したものです。

写真を星のロマンスにする、時の光を追う者

2022/12/27
インタビュー・テキスト:Stephie Chiu/Aly Lin

最近は「『First Love 初恋』観た? 」が挨拶がわり。普段、最新のドラマを観る習慣はないのですが『First Love 初恋』のメインビジュアルが公開された時はその写真に目を奪われて公開されるとすぐにハマったほど。

息を呑むほどに美しいメインビジュアルを撮影したのが濱田英明さんだと知ったのは後のことで、Netflixの素晴らしい人選に驚きながらも納得。確かに! これは濱田さんの特独な雰囲気の写真だ、と。水色に染まった空、カメラの前に舞う雪の結晶と光、明るく透明感のある空気感。主人公たちの親密な姿やリラックスした表情が印象的です。

メインビジュアルは映画やドラマの最初の印象を決める、その世界への入り口となるものなのでとても重要です。今回、メインビジュアルの視点から『First Love 初恋』を解剖するため、撮影を担当した濱田英明さんにインタビューしました。この謙虚な写真の哲学者であり、時の光の追う者である濱田さんに、撮影のコンセプトや印象に残った台詞、広告展開についてのお話をうかがいました。また、最後には台湾のファンのみなさんへのメッセージもあります。

SD:Netflixドラマ『First Love 初恋』メインビジュアルの撮影はどのような経緯で決まったのでしょうか。

濱田:2021年末にプロダクションから撮影の打診がありました。Netflixのオリジナルドラマでは通常、海外のフォトグラファーがアサインされるそうなのですが、コロナ禍の入国制限があり国内のフォトグラファーである私が候補に挙がったと聞きました。また、Netflixとしても初めてのロケ撮影ということで、自然光を活かすスタイルの私が推薦されたそうです。

SD:濱田さんの写真の独特な雰囲気と澄みきるような空気感がとても素敵でした。撮影のコンセプト、イメージ、写真のトーンはどのようにして考えましたか?

濱田:プロダクションから送られてきた雪景色の中でたたずむ登場人物のイラストを見た瞬間、これは私がまさしくやるべき仕事だ、と直感しました。というのも、以前、まったく同じようなイメージを北海道の雪景色の中で撮影していたからです。すぐにその作品をレファレンスとしてプロダクションに送りました。実は、台本を読む機会は最後までなかったのですが、撮影の方向性はそのときに決まっていたようにも思います。ちなみに、私は岩井俊二監督の「Love Letter」という映画が大好きで影響を受けているのですが、ずいぶん後になって寒竹監督が岩井監督の弟子ということを知り、その不思議な偶然に驚きながらも腑に落ちました。


SD
:メインビジュアルの写真にある関連性や伝えたいことを教えてください。また、撮影中にご自身の初恋のことを思い出しましたか?

濱田:すべての写真に共通するのは、也英と晴道が最後に再会するその瞬間が写っているということです。つまり視聴者にとってこれらは、全エピソードを観て初めてその意味が分かる二人の幸せな姿なんです。その躍動や感情、なにより二人がそれまでにかけた長い時間を写したいと思いました。撮影中は雪原のなかで必死で撮っているので正直、自分のことを考える余裕はありませんでした。笑

SD:これまでに手がけけたドラマ(例えば、「おちょやん」や「この世界の片隅へ」)の撮影と比べて、制作環境に違いは感じられましたか?

濱田:「First Love 初恋」をはじめ、挙げていただいたドラマでは、どれもスチール撮影のためにたくさんの時間をいただくことができました。その時間のなかで、ロケハンをしたり役者とコミュニケーションをとることはとても重要なことなので、自分の役割や立場が最大限リスペクトされていたと感じています。素晴らしい経験をさせていただきました。

一方で、多くのドラマや映画の撮影において、宣伝用のスチールフォトグラファーたちは決してベストの環境に置かれているとは言えません。というのも、往々にして本編の撮影は限られた時間や厳しい状況のなかで行われており、宣伝用のスチールはさらにその隙間のとても短い時間を与えられて撮影することになります。自ずと、じっくりと作り込む暇もなく撮影することが当たり前になっています。皮肉なことに、メインビジュアルとなるその写真はほとんどの場合、一番最初に人目に触れるものになります。本来、同じ目標に向かっているはずの制作チームのなかで、スチールフォトグラファーが肩身の狭い環境に置かれているのは改善されるべき状況だと感じています。

SD:主演のお二人にどのような印象を持たれましたか?

濱田:お二人のことはそれまで映画やドラマで拝見していましたが、どちらもイメージ通りの人だと感じました。それは悪い意味ではありません。つまり、お二人とも自分のイメージの役をずっと実現してきているということだと思います。佐藤さんはスマートで真っ直ぐな印象でした。満島さんには、自由さと強い意志を感じました。お二人とも複雑な感情を言葉以外で表現できる人だと思います。現場では、あらかじめ決められたポーズやシチュエーションだけにこだわらず、私たち三人の呼吸が合うようにアドリブの発想も取り入れて撮影しました。

SD:雪の中での撮影でとくに苦心されたことはありましたか? 

濱田:現実的な答えになってしまいますが、雪の中だったので身動きがとても取りにくかったことですね。見渡す限りなにもない雪原で、ダウンジャケットとスノーシューズを着込んでの撮影だったからです。ただ、お二人がそこにいればどんな写真でも正解になるだろうと思っていました。その意味では心配はまったくありませんでした。

photo by Kana Bundo

SD:メインビジュアルの撮影は北海道の紋別だったそうですが、劇中の通りアイスランドに行く予定はありましたか?

濱田:さまざまな事情で紋別に決まったのだと思います。詳しくは分からないので想像になりますが、その時はまだ本編の撮影が国内で続いていたこと、コロナ禍で海外に渡航することができなかったからではないでしょうか? ただ紋別は本編のロケ地のひとつであり無関係な場所ではないので、少なくとも物語のイメージに寄り添えているのでは、と思っています。

SD:本編には印象的なシーンや台詞がたくさんありました。主人公たちが歳を重ねて成長するラブストーリーでしたが、印象に残ったシーンや台詞はありますか?

濱田:エピソード4の也英の台詞に「星の光って長い年月をかけて地球に届いたものでしょう? 遠くの星を見ることってもう存在しない過去を見るってことになります」というものがあります。それを観たときとても驚きました。というのも以前、私もまったく同じ話を書いたことがあったからです。それは存在しない過去を見るというのは「写真」自体のことである、という話(「遠い記憶のあつまり」)です。そのとき脚本も担当する寒竹監督の考え方にとても共感を覚えました。私たちが住む世界は複雑で、たくさんの混乱や困難があります。その現実を理解するにはどうしても時間がかかってしまうものです。そういうとき、也英が言うような例え話はパズルを解く鍵のように役に立つときがある気がしています。

photo by Naoyuki Obayashi

SD:SNSで「間違いなく過去最大の展開規模、というか世界、で震えます」とおっしゃっていましたが、アジアだけではなく世界中でもヒットしていることについてどんな気持ちですか?

濱田:みなさんご存知かもしれませんが、私の生まれて初めての写真展は2012年に台湾の高雄でおこなわれました。その時はまだ写真とは別の仕事してしました。台湾やアジアのみなさんに写真をたくさん観ていただけたことは、そのあと写真を仕事に変えたことはもちろん、確実に今の私の人生や活動に影響を与えています。今回「First Love 初恋」がアジアでもヒットしたことで、私の写真もたくさんの方に見ていただけたと思います。もしそれで喜んでくれたなら、なんだか恩返しができたみたいで嬉しく思います。まるで本作のストーリーのように人生が美しい円環を描いたような気がして心がいっぱいになります。

photo by Takamori Hamagami

また、私は写真の仕事を始める前からずっと、そして今も大阪に住んでいます。一方で、日本では映画やドラマの制作のほとんどは東京を中心にして行われています。スタッフは東京に住むことが当たり前になっており、遠くの人が関わることがとても難しいです。そのせいで夢を諦める人もいるかもしれません。今回、国内のさまざまな場所で大きな看板にもなりましたが、産業の中心地にいない人でも作品に大きく関わっていける可能性はきっとあります。私のような異質な存在が誰かを勇気づけるきっかけになるなら、とてもいいなと思います。

SD:この3年間、コロナ禍でいろんな人の生活に影響がありましたが、濱田さんの生活や仕事にはどのような変化が起こりましたか?

濱田:実は私自身の考え方にはそれほど変化はありません。むしろずっと思っていたことがより強く確かなものになりました。それは言葉の大切さです。コロナ禍で誰かと離れ離れになるなかで言葉の微かなニュアンスを伝えることが難しくなりました。喜んだり、悲しんだり、目の前にいれば伝わっていたかもしれない小さな想いが置き去りにされたような気がしています。人と人が100パーセント分かり合うことはできませんが、それでも諦めずに言葉を尽くそうとする誠実さが私たちには必要で、それがいつかきっと自分や誰かを救う力を持つと思っています。

SD:最後に、写真の見どころや台湾のファンへのメッセージをお願いします。

濱田:何よりも全9話、約10時間の本編がすべてです。まずそれをご覧いただきたいですが、私の写真がきっかけで観たいと思ってくれる人が一人でもいたら、それほど嬉しいことはありません。台湾は私にとって第二の故郷とも思える場所です。コロナ禍が始まってまだ行くことができていませんが、いつか必ずまたみなさんに会いたいと思っています。その時をとても楽しみにしています。ありがとうございました。

photo by Kana Bundo

濱田英明
1977年、兵庫県淡路島生まれ。大阪在住。2012年、35歳でデザイナーからフォトグラファーに転身。同年12月、写真集『Haru and Mina』を台湾で出版。2015年の『風の歌を聴け』や、2019年の『DISTANT DRUMS』など、台湾で写真展を多数開催している。

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