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消費者の購買行動を変える「全ページためしよみ」誕生秘話

子どもを連れて、本屋さんでゆっくり絵本選び・・・。
これってなかなか難しいですよね。
かといって、絵本は親がお話しを読まずに買うというわけにはいきません。

そこで、絵本の出版社・作家さんたちと絵本ナビで進めているのがサイト上で絵本を一冊丸ごと無料で1回だけ読める「全ページためしよみ」というサービスです。

無料のメンバー登録をすると、なんと2,300作品以上(※)の市販の絵本作品を、無料で閲覧することができます。(※2019.6.1現在。スマートフォン、タブレットからは専用アプリで利用出来ます)

試し読みして、気に入ったらそのまま購入できるということで、もはや絵本の世界では当たり前になった感がありますが、もともとは「実現不可能」と言われていたのでした。

構想は創業時から

絵本ナビが始まったのは2002年春ですが、このときから「絵本を試し読みできるサービス」という構想がありました。娘が生まれたばかりの新米パパだった僕にとって、自宅に居ながらにして絵本を探したり読んだりできるサービスがあったらどんなに嬉しいだろう、と考えたのです。(創業ストーリーはこちら

でもそもそもこの時代は「インターネットに本の表示画像を載せてよいかどうか」で議論が分かれていた頃で、まずは表紙画像掲載の許諾をとるところから苦労していましたので、「全部読める」なんて、夢のまた夢、でした。

その後、販売目的であれば表紙画像の掲載はOKといったコンセンサスができ、出版社によって、中面の見開き画像の掲載OK、数ページのためしよみはOK、となっていきました。それでも、絵本ナビをはじめネット書店はあくまで「もう買う作品が決まっている指名買い」の場でしかなかったのです。

インスピレーション

2010年は絵本ナビにとってエポックメイキングな年でした。新たな株主と役員を迎え、視座を高く上げて改めて自分達が目指す先について考え、「社会のインフラとなるサービスを提供する企業になろう」というビジョンを掲げました。(現在のビジョンにも繋がっています

ひとつのメディア、ひとつのネット書店、ではなく、消費者の購買行動にインパクトのある変化を生み出すこと、なくてはならないインフラになること。パイの奪い合いでなく、市場全体のパイを拡げるチャレンジを継続していくこと。そういった視点で、何が出来るかを考え続けていました。

そんな中、あるイベントでお会いした著名な方と数分間お話しした会話からビビッとインスピレーションを受け、翌日までに一気に「全ページためしよみ」の企画書を書き上げました。創業時に考えていたあのアイデアを、技術が進化し、すでに多くのユーザー、出版社、作家さんとのコネクションがある状況で再度世に問うタイミングが来た!と鳥肌が立ちました。

できるわけがない

ところが、ここからサービス実現までは簡単ではありませんでした。
まず社内で企画を説明したときには、スタッフは「全員反対」でした。(これはスタッフとして極めて正しい反応で、そもそも企画の最初は穴だらけでそのままなら大失敗したことでしょう。それぞれの担当がしっかり考えてなぜ反対なのかを伝えてくれるところがスタートだと考えています)

出版社や作家さんの立場に立つと、サイト上で全部読めることによって紙の絵本が売れなくなってしまうリスクがあるわけで、許諾が得られるはずがない、というのが主たる理由でした。
実際に出版社の方に意見を聞いてみても、書店店頭での立ち読みとネットでの試し読みは意味が違うのではないか、違法コピーで海賊版が出回ってしまうのではないか、といった声が聞かれました。
できるわけがない、ということです。

そうかもしれないし、そうでないかもしれません。
さて、どうするか・・・。

多くの方にお会いして、アドバイスを求めました。
そして、絵本ナビの顧問の方から「期間限定のトライアルをやるといいよ。それなら許諾しやすいし、そこで出てきた課題をクリアして本番のサービスに移行すればいいんじゃない?」とアドバイスをもらいました。

それだ!!!!!!
ということで、早速、期間限定トライアルの実施に向けて準備を進め、出版社に参加を呼びかけました。

全ページためしよみ誕生〜まずは31作品でトライアル実施

出版社の方の中にもこのサービスは面白そうだと感じてくれていた方々がいて、期間限定のトライアルなら社内を通せる、ということで、31作品が参加してくれることになり、1ヶ月間の「全ページためしよみ」トライアル企画が絵本ナビ上で開催されました。

はたしてどうなったでしょうか?

対象作品について、全ページためしよみ実施前と実施後の冊数ベース比較で、なんと平均4倍の販売実績となったのです!

最も販売が伸びたのは、『いわたくんちのおばあちゃん』という絵本で、なんと13倍も売れました。(実施前1ヶ月実績3冊→実施後1ヶ月41冊)
これはぜひ実際に読んでみて欲しいのですが、戦争がテーマの作品でそもそもなかなか手にとってもらうのが難しいけれど、実際に最後まで読むと魅力が伝わる格好の例です。(僕も最後のページを開いたとき鳥肌が立ち、涙が込み上げてきました)
こういう、「読んでもらえれば作品の良さが伝わるけれど、なかなか手にとってもらえない作品」こそ、このサービスに参加するインパクトがあることがわかりました。

そして、ユーザーの皆さんにこの企画へのメッセージを求めたところ、なんと1,000通を超える熱いメッセージが寄せられました。

まさに、待ってました!!と言う企画です。我が家は2歳の息子がおり、殆ど本屋には行きません。現時点では図書館が頼りになっていて、とりあえず借りて内容を確認するという日々です。絵本ナビさんの投稿感想も役には立ってきるのですが、それを参考にして買った絵本。
正直、内容を見てガッカリする事もありました。内容が見れると、買うか買うまいか迷う事はなくなります。凄く助かる企画です。(ERICさん 30代/ママ 兵庫県川西市 男2歳)
作者と出版社の勇気ある英断に感謝と拍手を贈りたい気持ちでいっぱいです。絵本のすばらしさを確認から確信にしてくれるこの企画、今後も期待しています。(ローラママさん 50代/ママ 大阪府河内長野市 女24歳)
友人に勧められて“おこだでませんように”を全ページ立ち読みさせて頂いて、PCの前で泣いてしまいました
とてもステキな絵本だと思いました。
こうやって確かめてから購入できるのは、すごく良いと思います。どうぞまた企画してください!(森ちゃんさん 30代/ママ 大阪府豊中市 男2歳 )
実物を手にすることなく無料で全ページ立ち読みができるなんて、絶対にムリだろうとはなから諦めていました。ありえないことと思いすぎて、そんな企画が実現するなんて考えたこともなかったです。でも、実現すれば本当に夢のような企画!今回、体験することができて本当にうれしく思います。この企画によって、子どもに読んであげられる絵本のレパートリーもぐっと増えると思います。今まで知ることのなかった絵本に出会うこともできると思います。今回私は購入の予定はありませんが、大人の目線としても、この企画によって絵本に触れ合う、購入する機会が増えると思います。全力で応援しています!(サンサンひまわりさん 20代/その他の方 埼玉県入間市)

まったく予想を超える反響でした。
寄せられたメッセージを読んでいくと、全ページためしよみできるとなぜ売れるのか、ということについてわかってきました。

・絵本は中味を読まずに買わないもの(子どもに読むから)
・絵本は一度読んだら終わりではない(子どもと何度も読むから)

「全部読めちゃったら売れなくなる」ということはありませんでした。それどころか「とても売れる」という結果でした。

心配していた違法コピーもありませんでした。ビューアーにキャプチャ防止機能を組み込んだこともありますが、図書館で借りた絵本をスマホで撮影することもできますし、パソコンの画面をスマホで撮影することもできます。でもそれでは絵本を読んだことにはならず、やはり紙の絵本を親子で一緒に読むことが最上の体験なのです。

そしてこのサービスが恒常的に求められていることは、ユーザーの反応・メッセージから明らかでした。

正式にサービスリリース

トライアルでの販売実績と、ユーザーからのメッセージ(1,000通以上を全部プリントして紙袋に入れて持って行きました)を携えて出版社に報告に行くと、ほとんどの出版社が理解してくれ、正式なサービス開始に伴って追加の作品参加を申し出てくれました。

また、大御所の絵本作家さんが応援してくれたことが大きな弾みになりました。

絵本作家の宮西達也は、試し読みのアイデアを聞いた当初から理解を示す1人だ。
 宮西も初めこそ、「デジタル化されることで、紙の絵本が蔑(ないがし)ろにされるのでは」と懸念を感じていた。だが、「ウェブでの試し読みはあくまでも入り口。最終的には紙の絵本を使って子どもに読み聞かせをすることが何より大切」という金柿の姿勢を見て、宮西は「信じて任せられる」とゴーサインを出した。
(日経ビジネス2013年5月13日号「旗手たちのアリア」より)

この後、全ページためし読み参加作品は順調に増え、1,000作品を超え、今では2,300作品となりました。この作品数は、毎日1冊ずつ読んだとして、6年間ずっと新たな絵本が読める、ということです。

例えばママたちが話しているときに絵本の話題になったとして、以前であれば「本屋さんか図書館に行ったときにみておくね」で話しが終わってしまったわけですが、今ではその場でスマホで一緒に全ページためしよみできて、さらに話しが盛り上がるのです。そんな風に、消費者の行動が変わってくるところまで来ています。

SNSで絵本の話題が出たときには、絵本ナビにためしよみに来る人が増えます。そしてためしよみした感想をまたSNSに書き込んで・・・と、絵本ナビはクチコミの増幅装置としても機能しています。話題が拡散すると、まとめサイトが取り上げ、テレビ番組が「ネットで話題」として取り上げ、テレビで放送されるとそれがまたSNSに書き込まれる・・・と、絵本のヒット作品が生まれる、まさにインフラとしての役割を果たしています。

ここ数年は、新刊発売時から絵本ナビの全ページためしよみに参加することが前提になっている出版社や作家さんが大勢います。(「絵本ナビしておいて」と作家さんが言ってくれるそうです)

なぜ真似されないのか?

最後に「なぜ真似されないのか?」を。
よいサービスなら、同じようなことをやる事業者が出てくるものですよね。
以下に真似されない理由をまとめました。

① 実は結構コストかかるし大変
② 総合書店の場合、絵本の占める割合は小さく、そのために特別なことをやるのは経済合理性がない

絵本ナビは、出版社や作家さんとの関係性を「長期的信頼関係」として捉えています。全ページためしよみは、実は短期的にはコストの方が大きいのです。それでも、絵本は時代を超えて愛されていくものですので、長期的に、そして本の販売だけではない関係性に基づいてコストも手間もかけています。

そして、「全ページためしよみ」が成り立つのは今のところ絵本だけ(コミックやビジネス書を全部無料で読めるようにして、さらに紙の本を買うかというと、買わないですよね)なのです。
例えば大手ネット書店からすると、全体の数パーセントでしかない絵本のために特殊な機能を開発したりするよりも他のジャンル(例えばコミック)の方が優先されますし、絵本に関しては絵本ナビと組んだほうが合理的です。

下記の記事にも書きましたが、絵本ナビには絵本児童書専門サイトとしてネットワーク外部性が働いていることが強みのひとつなのです。

最後に〜カナガキからユーザーへのメッセージ

長くなりましたが、サイトに載せている僕からのメッセージをこちらにも載せておきます。思いを感じていただけましたら嬉しく思います。(1000作品突破時に書いたものです)

私たち現代の子育て世代は、常に時間に追われています。
絵本が子どもによいのはわかっています。
親子で絵本を読む「幸せな時間」は、とても大切だということも。
でも、子どもにどんな絵本を選べばよいのでしょうか。
子育てに忙しい毎日の中で、絵本選びにかけられる時間は十分ではありません。
小さな子を連れて、本屋さんでゆっくり絵本を選ぶことは簡単ではありません。
そんな子育て世代の絵本選びが、苦労から楽しみに変わるようにと、絵本ナビは2002年に誕生しました。
絵本の情報をワンストップで見ることができ、プロの紹介文や読者の「生の声」、中面画像、数ページの試し読みと、少しでも作品について判断ができるように、情報を増やしてきました。
それでも、それでもやっぱり、ネットで購入するということは、「エイヤ」で買うことに他なりません。
そう、親にとっては、我が子に読む絵本は、きちんと全部読んでから与えたいのです。
おもしろがって聞いてくれるだろうか。
今の我が子の発達段階にあっているだろうか。
怖いシーンはないだろうか。
自分の育児方針と違うメッセージが入っていないだろうか。
心に残る作品だろうか。
お気に入りの一冊になるだろうか。
購入して本棚に加えておきたい作品だろうか。
・・・興味を持った作品について、街の本屋さんのように全ページ試し読みができたら・・・
これが正直な気持ちだと思います。
一方、本の作り手からすれば、「家のパソコンから全部読めてしまったら、本を買ってもらえなくなってしまう」ということになります。
本が売れなければ、書き手も作り手もいなくなり、優れた作品は生まれなくなってしまいます。これは実に当たり前のことです。
でも絵本は、絵本に限っては「全部読めるようにした方が、本を買ってもらえるのではないでしょうか」という仮説を私は立てました。
子育て中の親の一人として、10年間にわたり全国の子ども達に絵本を読んで来た者として、年に500万人を超える皆さんにご利用いただいているサイトの代表として、たどり着いた一つの結論です。
もちろん、試し読みができればその絵本を買うわけではありませんが、試し読みできなければ買いにくいのは事実でしょう。
そして、その仮説を証明するように、「全ページためしよみ」対象作品は、大勢の方にご購入いただくことになりました。
正式サービスとしてスタートした当初は作品数も少なく、ヨチヨチ歩きのサービスでしたが、著者さん出版社さんのご協力をいただき、対象作品が1000作品を超えました。
どれだけ多くの方に利用していただけるか、どれだけ購入していただけるかで、このサービスの運命は決まります。
1000作品はひとつの通過点に過ぎませんが、私たちの願いがしっかり成果として現れていくならば、対象作品はどんどん増えていき、絵本は「全ページためしよみ」で選ぶ時代が来ることでしょう。
絵本ナビは、そのために全力で努力をします。
そこで皆さんにお願いです。もし、この企画の主旨に共感するところがありましたら、ぜひお友達にも「絵本ナビで全ページためしよみできるよ」と伝えてください。
そして、もしお気に入りの作品に出会って購入されることになりましたら、ぜひ絵本ナビからお買い求めください。
絵本ナビはすべての子どもと親を応援します。

<絵本ナビでは一緒に働いてくれる仲間を求めています>

・現在の採用情報については下記のコーポレートサイトをご覧下さい。
・幹部・事業責任者については採用情報に載せていませんが、常に求めています。興味を持たれた方は、今すぐどうこうでなくて構いませんので、まず僕とランチかモーニングしましょう!


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絵本ナビのCEO(年間利用者1000万人超絵本児童書総合情報クチコミ通販サイト) 銀行系シンクタンク(SE→経営企画)を愛娘の誕生にあわせて退職し起業した子煩悩な“モーレツ”社長。パパ’s絵本プロジェクト/ NPO法人ファザーリング・ジャパン初代理事。著書『幸せの絵本』シリーズ他
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