ダメ人間、沖縄へ行くday.1
まず最初の関門は飛行機だ。
俺は重度の高所恐怖症である。
どれくらいかと言えば、遊園地に行ってもジェットコースターなんて乗らない。観覧車も怖いから乗らない。
それどころか高層のエレベーターすら怖い。
タワマンなんて死んでも住みたくない。
それくらい高いところが苦手なのだ。
「love地面!」とでも叫びたいくらいだ。
飛行機なんて、よほどの理由が無ければ乗らないように生きてきた。
遠出をするにしても出来るだけ陸路を選ぶようにしていた。
旅客機の方が安い時であっても、俺は安心を金で買うようにしてきた。
しかしながら、今回は沖縄である。
言わずもがな、離島だ。
どうしても飛行機でなければならないのだ。
実は沖縄に行くのは2度目である。
初回は高校時代の修学旅行であった。
あの時、俺は飛行機というのに生まれて初めて乗った。
怖さのあまり前日はノイローゼ寸前だった。
しかしながら、飛行機が怖いからと言って、高校時代の一大イベントは休めないではないか。
そして、当日。
修学旅行でワクワクした顔つきの同級生たちを尻目に、青ざめた俺がそこには居た。
意を決して飛行機に乗った。
離陸前、既に俺は緊張で体中に大汗をかいていた。
当時の友人(もちろん漢)が隣の座席に座っていたのだが、隣で子犬のようにぶるぶると震えている俺を見て、
「お前、死にそうな顔しているぞ」
と言った。
そして、離陸。
俺はあまりの怖さのために、その友人の手をギュッと握りしめてしまった。
例えるなら、戻る宛てのない旅路へ出る際に恋人が強く手を握り合う
あんな感じだったと思う。
そんな苦い記憶が蘇ってきた。
それくらいに飛行機が苦手なのである。
しかしながら、今回はプライベートな旅行。隣には彼女。
俺も漢だ。ドンと構えていたいじゃないか。
そして。
羽田空港には時間に余裕を持って到着した。
フライト時間までは煙草をくゆらせながら、ゆっくりと待った。
チェックインが済めば、出発の10分前に搭乗口へ行けばいいという。
なんだ、意外とギリギリでも大丈夫じゃないか。これはいけそうだぞ。
と思ってはいたが、身体は正直だ。しっかり胃が痛みだした。
堪らず用便。
そして…いざ搭乗!
約10年振りの飛行機。
(前回は学生時代の卒論のために仕方なく乗ったのだ。実に怖かった)
そこで気付く。
飛行機というのは、乗ってから飛ぶまでが長いのだ。
ましてや広大な羽田空港だ、滑走路をひたすらに飛行機が走り続ける。
こちらは離陸の恐怖と戦う心の準備をしっかりとしているのだ。
「コラ!飛行機、早く飛べ!」
とすら思ってしまうほどに、長い時間だった。
ようやく離陸。
ふわりと身体が浮く感覚があった。
これだ、俺が苦手な感じは。そして陸路には決してないタイプの揺れ、これがダメなのだ。
飛行機は、飛び始めてから、ある程度の高度に達するまではけっこう揺れる。
その間、俺は飛行機の恐怖と対峙した。
持っていたハンケチはびしょびしょだ。
今時の飛行機は、モニターで色々なテレビプログラムが観られるようで、その中にあった『アメトーーク!』でせめて気を紛らわそうと思った。
しかしながら、恐怖で1ミリも笑えなかった。
内容云々ではなく、こんなに笑えない『アメトーーク!』というものがあるのか、と初めての体験をした。
しかしながら、俺も段々と飛行機に慣れてきて、現地に着く頃には飛行機に搭載された外部カメラの映像を観られるほどになった。
いいぞ!
しかしながら、そんな俺の横であまりに安らかに眠っている彼女。
逆を向けば、親に連れられて旅行に来た子供が、駄菓子の包装紙を散らかしたままにスヤスヤと眠っている。
俺は何だか無性に情けなくなってきた。
そんな俺たちを乗せた飛行機は、沖縄の地へと、何事もなかったかのように降り立ったのであった。
俺は、こうして第一の関門を突破したわけである。
続いて、空港からモノレールでホテルへ向かう。
にしてもだ。
沖縄、寒いよ。
しかも雨だ。
iPhoneの天気アプリで20℃って、全然沖縄らしくないじゃないか。
上着はカーディガンしか持っていない俺はややナーバス。
ホテルへ到着。
意外に新しく、綺麗なホテルだった。
チェックインをして、部屋に入り、とりあえず壁に付けられた大型の液晶テレビを点けて、ザッピングしてみる。
チャンネル少な!
しかもニュースでは「沖縄は今年一番の冷え込み…」とか言っている。
通りで寒いわけだ。
しかし、
寒いとか言っている場合じゃない。
さぁ沖縄だ、繰り出すぞ!
と、彼女と二人で雨が吹き付ける夜の沖縄へ。
彼女が知り合いから紹介されたというおススメの飲み屋へ向けて、タクシーを捕まえ、国際通りをひた走った。
「夢屋」という店だった。
入ると赤ら顔の店主、常連さんがおひとり。
店主さんはお笑いコンビ・インポッシブルの「ひるちゃん」にクリソツだった。
早速、オリオンビールで乾杯。
これがやりたかったのよ。
やっと降り立った沖縄。酒も入って、ようやく緊張が解れてきた。
なんというか、あまり沖縄沖縄していない、いい意味で素朴なお店だった。
焼き物がウリとのことで、焼き鳥や豚串、気の利いた一品ものが並ぶメニュー。
せめて沖縄らしいものを、と頼んだ「ジーマーミ豆腐」もなかなかオツなものだった。
そして、この店で一番美味かったもの。
それは「レバー焼き」だ!
皿一杯に、タレを絡めて焼かれたレバーがゴロゴロと転がる一品。
これがね、口の中でホロリととろけるレバーの美味さと甘辛のタレが相俟って、
「ビール泥棒!」
とでも呼びたくなる一品だった。
これだけでも食いにくる価値がある一品でした。
入店時は人が少なかったが、時間と共に混んできて、帰る頃には地元の方々で満員になっていた。
普段使いできるようなアットホームな雰囲気、美味い肴、酒も充実。
実にいい店だった。
その後、「13トレセ」というバーへ。
ここでは泡盛のコーヒー割をガバガバと飲んだ。
とってもラフな雰囲気で、ここも良いお店でした。
まずは沖縄の酒をしっかりといただいた、そんな1日目。
ホテルに戻って、ぐっすりと眠った。
day.2へ続く
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