【ラノベ】a ラストティア ~荒野の楽園編~ 第二章 01セピア世界

第二章 セピア世界

01セピア世界

 遠のいていく意識の中、淡白い光の中で優理は不思議な夢を見ていた。
「君が、あの・・・」
「ティアに選ばれし者ってなんだか照れるねっ」
「精霊と力を共有することで・・・」
「みんなが安心して暮らすためには必要なんだ」
「これが僕らの王国」
「神の待つ楽園ってこの世界のどこにあるんだろう?」


「本当にこれが最後なんだな・・・」
「みんなで力を合わせれば奴もきっと倒せるよ!」
「そうしたら、やっと・・・」

「ねぇ!どうしてなの!?」
「辞めろ、やめてくれ!」
「その程度で世界を救う選ばれし者だなんて、笑わせてくれるわ!!」
「さ・・・ら・・・また・・・」
「こんなの誰も望んでなんか居ないよ!」
「・・・『・・・』・・・・・・」

「君を待っているよ」

君をまっているよ、その声の主につれられるようにして、この夢の出口らしきところにたどり着いたと同時に目を覚ます。
するとそこには2つの影があった。
2つの影は優理が目を開けると同時に飛び上がり叫ぶ。
「ああああ!やっと起きた!!」
「ほんとだ!生きてた!」
「俺じーじ呼んでくるからカオルは見張って」
カオルと呼ばれる人物が頷くと、もう一つの影が居なくなっていった。
だんだんと意識がはっきりしてきて、その影の顔が鮮明に見えてくる。
ぱっちりとした大きな目に小さな唇、色白な肌に肩まで伸びたとても綺麗で真っ白な髪が特徴的な幼女。
そんなぱっちりお目々が興味津々に優理の顔を覗いていたところ、さっき出て行ったもう一つの影と思われる人物と一緒に、年配の老人が部屋に入ってきた。
「カオル、連れてきたぞ」
もう一つの影の正体もカオルと同じくらいの身長で、真っ黒な髪と高い鼻が特徴の男の子、連れてこられた年配の老人はいかにもおじいちゃんって感じの髪の毛の薄さであった。
「ありがとうおにいちゃんっ」
 カオルが微笑む。
 その微笑みに心の声で天使か!っと叫びたくなるように、顔が緩む兄を見て、兄弟が居たらこんな感じなのかなと思っていたところに老人がゆっくりと語りかけてきた。
「もう体は大丈夫かな?」
「たぶん・・・」
 「そうか、それはよかった。もうかれこれ1週間くらいは目を覚まさなかったから、とても心配していたんだよ。無事で何よりだ」
 「1週間もですか?」
 「そうだよ、君が倒れているところを偶然見つけて、村の人に協力してもらいながらここまで運んできたんだよ。」
 「助けて頂いてありがとうございます。」
 デジャブかな、なんて心の中で思いながらも、とりあえず助けてもらったことへの感謝を告げる。
 「そういえば自己紹介がまだだったね、私はここの村で村長をやっている浩(ひろ)吉(きち)だ、よろしく」
「優理です、よろしくお願いします。」
「優理君か、よろしくね。」
そ言って浩吉は手をさしのべる。
差し出されたしわだらけの手を握ると同時に体ごと浩吉の方へと引き寄せられる。
「ところで優理君、君の持っているそれってもしかしてティアじゃないよね?」
さっきまでの柔らかい印象とはうって変わって怖々とした口調で、優理の胸元に視線を落とす。
何のことだろうと思いながらも、緊張した面持ちで胸元を触ってみると、そこにはなにか堅い物が首からかけられていた。
「あの、これがどうかしたんですか?」
村長は目を丸くして言う。
「え?もしかしてティアの存在を知らない?」
「そのティアっていうのはなんですか?」
「もしかして君は記憶が無いのかい?」
「すみません、そうみたいです・・・」
 記憶が無いのかどうかは分からないが知らないのは事実だったのでそう答える。
「そうか・・・なら少し長くなるけど話してあげよう、ティアとこの世界、セピア世界のことを」
 そういうと村長は近くにあった椅子を運んできて、優理の前に置いて座り語り始める。
 「天変地異が起き、全ての自然が世界から消えた後、元の世界とは全く違う大地が再構築されていったんだ。人類が築いた最高の文明の時代とは真逆のまるで太古、人類が存在する前のような寂しい荒野の世界。その色の無い世界を私たちはセピア世界と呼び始めた。セピア世界には自然というものが殆ど存在しない、ということは水も食料も何もかもが存在しない世界だった。だがそんな絶望な状況の中で我々は希望を手に入れた。それがティアだ。
ティアとティアに選ばれし所持者は特別な力を持っていて、彼らは自然の恵みを別世界から受け取ることができるらしい。実際にどうやるのかは知らないが事実この世界で、水や食料を確保することができた。しかし、それも永遠ではないことを彼らも私たちもなんとなく察していたんだ。そこで彼らが言った。『このセピア世界には楽園と呼ばれる場所があるらしい、そこで我々ティアに選ばれし者が聖杯に祈りを捧げることで、元の世界に戻ることができる。だからみんなでその楽園を探そう!』と。」
「なるほどそんなことが・・・。それで、楽園は見つかったんですか?」
「残念だが、そこまでは分からん。私はこの村の村長としてここでみんなを守らなきゃいけない。だから詳しくは知らないんだ。」
 村長は両手を力強く握りしめる。
「つまり、ティアの所持者はセピア世界で一番大事な存在、そして楽園を探さなくていけない、そういうことですね?」
村長は頷く。
「もし僕が持っているこれがティアなら、僕は選ばれし者で、この世界を救う存在・・・」
すると村長が急に立ち上がり優理の肩をがっしりとつかみながら大きな声で叫ぶ。
「そうなんだよ!お前はきっとそのティアの所持者とやらなんだ、だからはやく、はやく自然の恵みを!水を!食料を!この村によこしてくれ・・・。もう、限界なんだ・・・。再来した天変地異でせっかく持ちこたえていたこの村も、もう限界なんだ・・・。」
 村長は泣きながらその場に膝をついてうなだれてしまった。
 再来したという言葉が気になりはしたがそれより村長の様子に胸が苦しくなる。
 自分が意識を失い倒れている間にこんなにも悲しい事態になってしまっていたなんて・・・、するとその場で二人の話を聞いていたカオルが期待を込めたように言う。
「大丈夫だよね?だってお兄ちゃんが私たちを救ってくれる勇者だもんね」
 そう言いながら目には涙を浮かべる二人を見て優理は黙り込む。
 その姿を見て兄妹は悲しい表情をする。
 この世界で目覚めたばかりで記憶も曖昧、なのにいきなりこの村をそして世界を救う勇者だなんてそんなこと・・・。
 そんなこと言われても困ると思うのが普通である。しかしこの空気は気まずい。
悩んだ結果、深呼吸をしてから優理は顔をあげた。
「任せてくれ、お兄ちゃんがこの村を救ってあげる」
 その言葉を聞くと兄妹はパァッと笑顔を輝かせ優理に抱きついた。
 「「ありがとうおにいちゃん!!」」
 村長も顔をあげると、ありがとうありがとうと何度も頭を下げ泣いていた。
 ただ優理は困った表情をして口にする
「でもごめんなさい、まだ記憶が完全に戻っていなくて、ティアの使い方を思い出せないんです。だから記憶が戻るまでもう少し待ってもらえますか?」
 これが誰かを安心させるための嘘・・・そんなことよりなんとかしなければと強く拳を握りしめた。
「待ってる!頑張ってねおにいちゃん」
「じゃあさ、待っている間一緒に遊ぼう!」
優理は村長の顔を伺う。
「村の大人達は毎日大変で子供達の相手をあまりしてあげられないから、是非、子供達と遊んであげてくださいな。何か思い出すきっかけになるかもしれませんし」
はにかみながらそう言った後、頭を下げて部屋から出て行った。
村長がの影が無くなったのを確認してから兄妹の方を向く。
「分かった、じゃあお兄さんと遊ぼうか」
「やったー!何して遊ぶ?」
 カオルが両手を挙げてはしゃぐ。
「その前に、君の名前は?カオルのお兄ちゃんなのかな?」
 男の子は頷きながら
「ヒカルって言います、カオルとは双子で、僕が兄です。」
「そうか、ヒカル君っていうのか、よろしくね。じゃあ何して遊ぼうか?」
「鬼ごっこ!お兄ちゃんが鬼ね!鬼のお兄ちゃんだ」
そう言うと二人とも部屋を飛び出していった。
 鬼のお兄ちゃん、なんだか血を吸いそうな雰囲気がする、と優理は思いながら二人の後を追う。
 ~2時間後~
「ぜぇ、はぁはぁ・・・んんっ・・・はぁ・・・。」
カオルとヒカル以外の村の子ども達も加わり、合計12人の相手をしながら鬼の兄ちゃんをやった優理は完全にバテていた。恐るべし子供の体力。
 孤児院に居た頃から部活では剣道をやっていたが、ろくに体を動かすこと無く、本を読んでばかりいた優理は、同年代の男子を比べても体力のない方だった。
「おにちゃん次は何して遊ぶ?」
 既に鬼のお兄ちゃんからおにちゃんと呼ばれる優理に、キラキラとしたぱっちりお目々を向けるカオル。
「お、おにちゃんはちょっと休憩」
 「もっと遊ぼうよ」と駄々をこねるカオルをヒカルがなだめる。さすがお兄ちゃん・・・。
こんな元気な子供達を相手にするのは、体力も使うし疲れる。大人達は毎日、その日の生活で精一杯なのだから余計な体力消費は避けたいと考えて当然だよな。
「大変な役目を請け負ってしまったな・・・」
 そうつぶやきながらごろんと寝転がる優理にカオルが聞く
「ねぇおにちゃん」
「なに?」
「ポッケに何か居る・・・」
「え?」
そう言われて視線を自分の上着のおなか辺りにある、両手を突っ込めるタイプのポッケに落とすと、たしかに膨らみがあり、何かがごそごそと動いているではないか!?
「ええぇっ!な、なんだ、これ!」
 ひょうきんな声を上げて驚く優理。
 3人は視線を合わせ、息をのむ。そして、
 ヒカルは両手を逆手で組み、それを内回りでくるんと半回転させ、顔の前まで持って行き、指の間の隙間を見ながら・・・。
カオルは右手をグーにして高らかに掲げながら・・・。
優理は目をつむって深呼吸しながら・・・。
 3人は勢いよく叫ぶ!
「「「さいっしょはグー!じゃんけん・・・ぽん!!」」」
 3人の手はちょき、ちょき、ぱー。
「まけたーーー!」
 誰がこのポケットに手を突っ込むか選手権は、優理の一発負けで決まった。
 勝敗が決まり次第、3人の視線は優理のポッケへと移る。
恐る恐るゆっくり両手をポッケへと近づける優理。
 その手がポッケの入り口までいったところで、手を休めて深呼吸。
 スゥ~~~~~ハァ~。
 もう一度スゥ~~~はぁぁぁぁぁぁぁ。
「いくぞ!」
 そのかけ声と共に優理は両手をポッケへと突っ込む!
 二人もつばを飲んで凝視!
「いっっっっっっっでぇぇぇぇぇぇぇ!」
 何かが確実に手に刺さった!
 悲鳴と共に両手をポッケから取り出し、手をひらひらさせながら転がる優理。すると、
「可愛い!!」
 ん?
 優理は自分を心配する声よりも先に聞こえてきたカオルのその言葉を聞いて首をかしげる。
「ほんとだ!可愛い~」
 んん?
 続くヒカルの声にも首をかしげる。
「見て見ておにちゃん!ほらっ」
 そう言ってカオルが転がる優理の前に可愛いとよばれる何かを差し出す。
「こいつは・・・ハリネズミ??」
 それは、カオルに脇の下をつかまれ、おへそやらなんやらをまるっと全部さらけ出されている、大きさは優理の手のサイズくらいの、まん丸とした体と背中に虹色のとげとげがついているハリネズミだった。
「ね?可愛いでしょ?」
 カオルが未だに思考が追いついて無く、呆然としている優理に話しかける。
「なんで、俺のポッケにハリネズミが・・・?」
「兄さんの飼ってたハリネズミじゃ無いの?」
 ヒカルが唐突に言ったので優理も咄嗟に言い返す。
「そんあわけあるか!俺は動物なんて飼ったこと無いぞ!」
 するとハリネズミが怒ったような表情をして、カオルの手から飛び降りて優理の手をプスっと、虹色のとげとげで刺した。
「イテッ!なにすんだよ!」
 顔の中心がキュッとなるように、痛い顔をする優理を見て、ハリネズミは得意げな顔をする。そして優理の膝を登って、ポッケの中に戻っていった。
「もどっちゃった」
 カオルがつぶやく。
「なんで俺の手を刺してくるんだよ・・・」
 刺された手に息を吹きかける。
「やっぱり飼ってたんじゃない?記憶が無いだけで」
「そんなことは無いと思うけど」
「でも違うって言われて怒っていたような気もするけどね」
 ヒカルがからかうように言った。
「名前なんていうんですか?おにちゃん」
「名前?そんなの知らないよ」
「じゃあ今決めてあげましょうよ!」
 カオルはやけに張り切っている。
「まぁ、そうだな、よく分からないけど懐かれているみたいだし」
 優理もそれに納得すると、カオルはあごに手を当てながら、うーんっと考え始めた。
 待つこと3分・・・。
「ニュートンでどうですかおにちゃん!」
 カオルがお目々をパチパチさせながら優理に言った。
「ニュートン?なんでその名前に?」
「なんか可愛いからです!」
 かくして、ニュートンこと優理のポッケにいたハリネズミは、これから優理と共に旅をするわけなのだが、優理がこのハリネズミの正体を知るのは、もう少し先のことである。