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わたしの映画日記(2022年5月1日〜5月6日)

5/1

『青葉家のテーブル』 松本壮史 2021年 日本(U-NEXT)

主人公の優子は美術予備校の夏期講習に通うため、母の旧友の家に居候を始める。この家では母の友人と10代の息子、飲み友達の女性とその恋人の4人で共同生活を送っている。

夢いっぱいで予備校に通い始めた優子は大きな挫折を経験する。教室では自分よりもはるかに高い画力のある若者、すでにデサイン会社でインターンとして働いている若者が肩を並べている。翻って自分の作品は講師から全く評価されない。そんな中でも同じクラスの地方出身の女子と意気投合して、一緒にZINEを作るほどの仲になる。

優子の周囲に対するコンプレックスは、元を正せば実の母親との関係にまで遡る。母親は”有名人”として知られテレビの密着番組でそのライフスタイルが紹介されるほど。センスの良い飲食店を切り盛りしながらデザインの仕事にも携わる。優子は親の七光りではなく自分の表現を世間に認められたいと思っている。しかし批評されることを恐れて一歩踏み出せずにいる。彼女の抱える葛藤がどのように克服されていくのか。それがこの物語の核となっていく。

思わず唸ったのはこの物語が若者の成長譚では終わらないことだ。優子の母(市川実和子)は娘を旧友(西田尚美)の家に居候させるが、この二人には確執がある。若かりし頃に同じ夢を見た二人があることをきっかけに喧嘩別れしている。そして和解のプロセスの中で発見される”かつての創作物”が、優子の現在の葛藤と直接つながってくる。

母世代と娘世代のそれぞれが自分の表現活動と素直に向き合ったときに生まれる美しい人間関係。アマチュア感満載でも手塩にかけた作品を世に出したときの喜び。そしてかつての自分の姿を思い出させてくれる爽やかな青春映画だった。

あとから調べてみると松本壮史監督は『サマーフィルムにのって』を手掛けた方だった。『青葉家のテーブル』とも共通するテーマを感じて改めて見返したくなった。


『ダンサー・イン・ザ・ダーク 4Kデジタルリマスター版』 ラース・フォン・トリアー 2000年 デンマーク(シネモンドにて上映)

”胸糞映画””鬱映画”のランキングをのぞけば必ず目にする2000年のカンヌ国際映画祭最高賞受賞作。(実は10年以上前にレンタル店で借りてリッピングまでしたのに観ていなかった…)

主人公は視覚障害のあるシングルマザー。温かな友人や家主の支えで貧しいながらもなんとか生活できている。生きがいのミュージカルとやっと見つけたプレス工場での仕事が視力の低下とともに危うくなっていく。そして息子の目のための手術費用を貯めていることが家主の警官にバレてしまったことで悲劇が始まる。

ビョーク演じる主人公が経験するあまりにも理不尽な扱いと、彼女の内側で繰り広げられる軽やかなミュージカルの世界があまりにも対照的。だからこそラストの悲惨さが引き立つのだろう。

撮影時にラース・フォン・トリアーのビョークに対する扱いが酷かったことはよく知られている。手放しで評価できるわけではないが、エンドロールの楽曲クレジットが見事なまでにビョーク作曲だったことに驚いた。こんな芸当をやってのけられるのはまさに彼女だけだろう。

※昨年からシネモンドさんには週1回のペースで足を運んでいるが、上映終了後に鼻を啜る音がそこかしこから聞こえてきたのは今回が初めてだった。


5/3

『ナイルの娘』 侯孝賢 1987年 台湾(U-NEXT)

舞台は1987年の台北。主人公の若い女性は昼間にケンタッキーでアルバイト、夜は夜間学校に通っている。母親と一番上の兄は他界し、父親は南方に単身赴任。それで二番目の兄と妹との三人で暮らしている。彼女は自分が日本の漫画『ナイルの娘』の主人公になったことを妄想するのを楽しみとしている。

二番目の兄は泥棒稼業で生計を立てていたが、仲間と組んで夜の街にレストランを出すことにする。レストランに出入りする仲間たちと兄、そして主人公は80年代台北のナイトライフを満喫する。しかし仲間のひとりがマフィアのボスの女に手を出したことから物語に暗雲がかかるようになる。マフィアによる襲撃、警察の取締、多額の借金。不運が重なった末に思ってもみなかった重々しい結末を迎える。

当時の台北を知らないにもかかわらず、80年代の懐かしい雰囲気が伝わってくる。主人公がバイトするケンタッキーで、中森明菜やさだまさしがBGMとして流れているのが印象的だった。

追記:火曜日からトレーニングを始めたので映画をほとんど観れていませんでした。この週の気になる映画トピックは、ニューヨークのリンカーンセンターでホン・サンス特集が始まったことです。

今回のホン・サンスレトロスペクティブは『The Hong Sangsoo Multiverse』と題して、キム・ミニ以前/キム・ミニ以後から厳選された作品が上映されました。特に注目すべきは1996年公開の第一作『豚が井戸に落ちた日』が上映されたことでしょう。男女のすれ違いは近年の作品に通じるものがありますが、ラストの凄惨な場面は今の作風からすれば想像もつきません。あれを劇場で観られるとは羨ましい。

さらに今回はホン・サンスがキム・ミニを伴ってイベントに参加。キム・ミニの熱心なファンアカウントがツーショットや現地のファンと写真を撮っている様子をツイートしていました。

日本でも『イントロダクション』『あなたの顔の前に』の6月公開を控えて盛り上がりを見せていくと思われます。とりわけ『あなたの顔の前に』ではキム・ミニが俳優としてではなく、プロダクション・マネージャーとして参加しています。いよいよホン・サンスの後継者として作り手としても関わるのか?と妄想が膨らみます。願わくば二人の来日が実現してほしいものです。

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