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わたしの映画日記(2022年4月23日〜4月30日)

4/23

睡眠不足で映画館行きを断念。何かしら映画をみてないかツイートを振り返ったものの本当に何もみてませんでした。Eテレでレギュラー放送が始まった『ワルイコあつまれ』を視聴した形跡あり。

4/24

『愛しのダディー殺害計画』 イリエナナコ 2020年 日本(公式Vimeoで無料配信)

主人公のマリとエマは父親と家族三人で仲良く暮らしている。母親は14年前に恋人と出て行ったきり。父娘の険悪なムードは皆無。娘たちは父親を「ダディー」と呼んで慕っている。ある朝、父親は意を決して「再婚したいと思っている」と告白する。笑顔で受け答える娘たちに父親は安堵の表情を見せる。しかし心の内で娘たちは腸が煮えくり返っていた。幼なじみの男子を巻き込み父親殺害計画を立てる。父とフィアンセを海外旅行に送り出し、その隙に職場に辞表届を提出。友人たちにも入念な根回しをする。その過程で父の知られざる過去(セクシャリティに関わること)を知ってしまったり、予想外の訪問者に感情をかき乱されたり。そして遂に父親がホクホク顔で自宅に帰ってくる。果たしてマリとエマの殺害計画は実行されてしまうのか…

佐藤ミケーラ倭子&モトーラ世理奈が演じる姉妹の笑顔とは裏腹のポップな殺意が絶妙に怖い。雑誌『装苑』でも”装苑モデルのW主演映画!”と宣伝されているだけあって、ファッションやアート好きなら見逃せない短編映画だろう。

『眉村ちあきのすべて(仮)』 松浦本 2020年 日本(U-NEXT)

”おふざけ映画かと思ったらとんでもない傑作だった”という映画にごくまれに遭遇することがある。この映画もその部類です。

タイトルから想像できるのはアイドル・眉村ちあきへの密着ドキュメンタリー。周囲へのインタビューを挟みながら、大きな会場での単独ライブとか、ビッグプロジェクトに取り組むさまを追っているのだろうとたかをくくっていた。確かにそのような側面はある。タワーレコード社長や吉田豪の証言があればお墨付きのついたようなもの。「これからの眉村ちあきの活躍に乞うご期待!」みたいな判で押したコメントで締めくくられるはずだったのだが。

ドキュメンタリーパートが進んでいくと眉村ちあきの人並み外れた多動ぶりにフォーカスされる。予定がなにもないときでさえ、ファンに呼びかけて即席のイベント(のようなもの)を開催する姿には舌を巻く。恐らくこの”多動ぶり”にインスピレーションを得て、「クローン人間・眉村ちあき」のアイデアが生まれたのだろう。この作品は中盤から、東京地下に建設された秘密都市で暮らす眉村ちあきたちの物語へと移行する。単独ライブに向けて選抜オーディションに参加する複数の眉村ちあき。そこにどうしても参加したいオリジナルの眉村ちあき。厳しいレッスンを経て選考結果の日を迎える眉村ちあきたちは、さながら坂道グループの映像作品を見ているようだった。

もちろんSF設定の粗さが目につくのは当然だが、そこを支える徳永えりや小川紗良などの俳優陣の存在感でシリアスな緊張感が保たれている。全く予想していなかった傑作、きっと誰もが眉村ちあきが天才だと思い知る作品です。

『平成真須美 ラスト・ナイト・フィーバー』 二宮健 2019年 日本(U-NEXT)

主人公の真須美(伊藤沙莉)が紹介されたのは、ダンスで作曲家を励まして令和元年までに一曲完成させる謎のバイト。怪しいスタジオで上半身裸のミュージシャンを、レオタード姿の中年男が取り囲む。この踊りが前衛的といえばそうなのだろうが、私の素養がないのも相まってデタラメにしか見えない。そこに加わる主人公の慣れない踊りが完全に浮いてしまっている。プロデューサーらしき男がミュージシャンに督促するものの一向に曲ができる気配はなし。グダグダしていると今度は主人公の元カレらしき人物が登場。復縁するか否かを引っ張りながら令和元年へのカウントダウンが迫ってくる。

平成から令和に変わる瞬間を渋谷で迎えようと集まった人々をかき分け、伊藤沙莉が走る、走る、走る。ただそれだけで良いものを見た気分になる。そして男を捨てさっそうと立ち去る伊藤沙莉。物語なんてどうでもよくて、男に組み敷かれない伊藤沙莉を見せてくれればそれで良し。

4/25

『Salut les Cubains』 アニエス・ヴァルダ 1963年 フランス(MUBI)

フィデル・カストロが政権を握ってから4年後のキューバ。そこにカメラを抱えた若きアニエス・ヴァルダがやってくる。撮影された1800枚の写真とナレーションで構成された短編作品。現地で活動する芸術家・市井の人々、さらにはカストロからゲバラまで。(革命家たちの写真は本当にアニエスが撮ったのだろうか?)

アニエス・ヴァルダのキャリアの中でも初期の写真家としての活動はよく知られている。そのへんは2008年公開のドキュメンタリー『アニエスの浜辺』でも言及されている。確かキューバ以外に中国にも撮影旅行に出かけていたはず。個人的にはキューバよりも中国を写した作品に興味がある。残念ながら中国の写真は日本語ソースでほとんど出回っておらず、今世紀に入ってから中国で発行されているアート誌で特集されたものがかろうじて確認できるだけ。デジタルでもいいので出版してほしい。(この話はどこか別のところでも書いた記憶があります)

4/26

『トニー滝谷』 市川準 2004年 日本(U-NEXT)

若い頃から孤独に生きてきた男が中年を迎えて15歳年下の女性に結婚を申し込む。幸せな時間がしばらく続くが、洋服を美しく着こなす彼女は買い物依存症だった。それが間接的な原因となり命を落とす。村上春樹原作、ナレーション西島秀俊。イッセー尾形主演の見覚えのあるプロット。

冒頭から中盤までの独特なカメラワークが淡々とした時間の流れを表現している。ミニマルだが耳に残る音楽は坂本龍一と聞いて納得。イッセー尾形が結婚を決意するまでの心の動きが感動的。一方で妻を亡くした喪失感の処理の仕方がキモい。一人二役が宮沢りえでなければ崩れてしまいそうな絶妙なバランス。

孤独な男が美しい妻を迎えれば幸せの絶頂であることは間違いない。しかし結婚生活が始まるとその幸せを失うことを恐れ始める。そしてその予感が完全に的中してしまう。あまりにも悲しく、独身中年男には身を切られるような痛みが伴う映画だった。

色々と突っ込みどころはあるものの、今年観た配信映画の中では暫定1位としたい。

4/27

この日は諸々忙しく映画を観る時間が作れませんでした。その埋め合わせと言えば失礼になりますが、BSで再放送されていた『シリーズ横溝正史短編集』を視聴しました。『蝙蝠と蛞蝓』『女怪』どちらも2回目ですが本当に素晴らしい。特に『女怪』は90年代後半にCXで放送された片岡鶴太郎と古手川祐子のバージョンが印象に残っているだけに、全く新しいアプローチで斬新。

虹子が人を殺める方法が『TITANE』の主人公と全く同じであることに気づいてしまった。横溝正史とジュリア・デュクルノーが2022年につながるとは驚くばかり。

4/28

『Olla』 Ariane Labed 2019年 フランス(MUBI)

出会い系サイトで知り合った男と暮らすためにウクライナからフランスにやってきた女性が主人公。冴えない独身男と同居しながら老齢の母親を世話する日々。言葉も不自由なのに見知らぬ男と暮らしていることからすると、母の世話と性関係を条件に住み込みを許されたのだろうか。しかし彼女は男と寝ようとしない。相手はやる気満々なのに、理由をつけては身をかわす。その一方で彼女自身のリビドーも次第に抑制が効かなくなっていく。男が留守の間に自分を慰めたり、あまり上手ではないトゥワークダンス?を踊ったり。

彼女と同居人の関係が一変する出来事が起きる。家のソファーに座ったきり体を動かせない母親のために、彼女はメイクを施しきれいにオシャレさせる。しかし同居人の男が帰ってくると表情が固い。すぐさまビンタを食らわし全く喜ぶ素振りを見せない。この時を境に彼女は金と引き換えに街角の男の相手をするようになる。(恐らくフランスに来る前から稼業にしていたと思われる)そして別れも告げずにスーツケースを引いて街を去る。

面白い/面白くないの評価基準で語るのは簡単だが、フェミニズムの視点からするとどうなのだろう。東欧からやってくる女性のセックスワークなど背景を知らないでうかつなことは言えないので見当違いな感想は控えたい。

監督を務めたのはギリシャ系フランス人の俳優Ariane Labed。俳優としてのキャリアもある彼女が初めて手掛けた映像作品だそうだ。出演作品で有名なのは第67回ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞似ノミネートされた『Attenberg』。同映画祭で女優賞を受賞している。こっちも要チェックです。

4/29

『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』 キャリー・フクナガ 2021年  イギリス(U-NEXT)

言わずとしれたダニエル・クレイグによるジェームズ・ボンド最終作。上映を心待ちにしていたのに結局見逃して今更視聴。

結論から言えば最高でした。ただ残念なのは期待していたアナ・デ・アルマス出演シーンが本当に一瞬。衣装もアクションも最高なのに、あってもなくてもいい扱いで悲しい。その直後の盟友との死別・ボンドMI6復帰から始まる後半戦は完全に別の映画になっていた。

クライマックスに向けての戦闘シーンでは、007のテーマとビリー・アイリッシュによる主題歌の変奏が随所に散りばめられている。ダニエル・クレイグを送り出すために作られた舞台としてよくできている。レア・セドゥがクールな顔にひた隠す情熱や母としての愛、そして過去と未来への恐れが滲み出るようで味わい深かった。

文字通り畳に頭を擦り付けて許しを請うジェームズ・ボンドが見られるとは夢にも思わなかった。ラミ・マレックの纏うアジアンテイストにいささか胡散臭さを感じるものの、畳と中を舞う座布団が妙な雰囲気を醸し出していた。

4/30

『MEMORIA』 アピチャッポン・ウィーラセタクン 2021年 タイ・コロンビア他(シネモンドにて上映)

頭の中で鳴り響く轟音に悩まされる女性が主人公。その轟音が原因で不眠症にも悩まされている。ボゴタで入院する重篤な妹を見舞ったり、別の日には元気そうな妹夫婦と食事を楽しんだり。非常に奇妙なのは主人公が轟音に悩まされている一方で、サウンドエンジニアの男に頼んでその轟音を再現しようとしているところにある。既存のサンプル音源を組み合わせて完成した轟音を聞かされると、彼女は喜びの表情を見せる。

後半では現地で知り合った考古学者とトンネルの採掘現場を訪れ、その足でジャングルに近い村に足を運ぶ。そこで知り合った川魚をさばく男と親しくなる。「すべてのことを記憶できる/記憶している」と自称する男との交流をとおして、主人公の女性は幼い頃の記憶をさかのぼり、遂には轟音の源にたどり着く。

ここまであらすじを振り返ると、なんとなく時系列に物語が進んでいるように思えるが、実は劇中の各所に「辻褄が合ってない???」と感じるセリフが配置されている。時間軸・音源の源・ひいては映画の中で描かれている世界そのものが揺らいでいる。猛烈な眠気を催すロングショットに意識を失いかけていると、ジャングルの鳥のさえずりで目が覚めることしばしば。

パンフレットに引用されていた「映画ではなく瞑想」というインディワイヤーによるうたい文句がぴったりと言える映画だった。

上映も終盤になった頃に前列に座っている方がお手洗いへ行くために席を立たれた。そして「轟音の源」と思われるものが画面を去っていった直後に席に戻ってこられるという…難解な映画とはいえ一応の結論が示される最も肝心なシーンを見逃すとはもったいない。

2021年のニューヨーク映画祭で登壇したアピチャッポンとティルダ・スウィントンのQ&AがYouTubeで公開されている。その佇まいや会話のリズムから二人の信頼関係が伝わってくる。こんな田舎に住んでいていもワンクリックでこういう動画が見られるのはありがたいですね。

番外編①

『気狂いピエロ』初邦訳された原作を読みました。ぶっちゃけこの小説からあの映画を作ったゴダールこそが”気狂い”なのでは?と思ってしまうほどイメージと違っています。主人公のロリコン趣味が気になるのと、相方となるアンナ・カリーナが演じた役柄は小説ではもっと幼い印象を受けました。山田宏一氏による解説も必読ですね。

番外編②

MUBI(日本以外)でキム・ギヨン監督作『下女』の配信が始まりました。ワールドシネマプロジェクトはマーティン・スコセッシにより設立されたNPO法人で、世界中の名作映画のレストアを手掛けいます。『下女』も元々は粗さが気になる画質でしたが、修復を経て美しいモノクロ映画に生まれ変わっています。時間があるときに再見したいと思います。

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