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秋春シーズン制への移行について思うこと(後編)

INDEX
🔹本文書の位置付け
🔹賛成か反対か
🔹なぜ提案が今なされたのか
🔹提案の概要とそのメリットとは
(以上は前編)
🔹今後の検討で留意すべき事項について
🔹最後に

🔹今後の検討で留意すべき事項について

 今後引き続き前述したメリットの検証も含め、各クラブから出された課題の検討議論を行なっていきますが、その過程で留意しなければいけないと思われることについて記しておきます。

①ウインターブレークの長さについて

 開示日程案で一番気になる点は、いつからウィンターブレークが始まりいつ終わるかということです。示された日程案では、現行運用に対して12月で1〜2試合、2月で1〜2試合、計2〜4試合冬場の試合が増加します。ホームゲームにして1〜2試合相当です。
 降雪地帯のクラブにしてみれば試合数は少ないにこしたことはないでしょう。一方冬場の試合数が減り、シーズンオフを6月〜7月までとった場合、全体の試合開催期間が減少しますので、ルヴァンカップがうまくスケジューリングできず平日開催が増えるかもしれません。
 ここは様々な検討をしていく上で、ウインターブレーク期間は早めにフィックスした方が良いでしょう。加えてフィックスした段階で、実際の日程を現在使用しているシステムで出してみて現実的な検討をすることが肝要と思料します。

②検討に臨むスタンスについて

 お恥ずかしい話ですが、私は横浜マリノスや清水エスパルス時代、正直に申し上げて本件で降雪地帯のクラブが抱える問題の重さを自分ごとにしきれていませんでした。富山に来て初めてそのことを深く反省しています。
 本件に関する課題は、学卒新入団や選手のセカンドキャリア時期といった面での日本の社会制度とのズレ、日本のほとんどの企業が3月締めを採用している決算時期とのズレ問題といった全クラブ共通の課題もあります。しかし、降雪に関する対応や、ACL出場といった特定のクラブが直面する課題もあります。
 老婆心ながらで大変恐縮ですが、検討に参加されるクラブトップの方々は全ての課題を自分ごととして検討されることを、自戒の念を込めて記しておきたいと思います。

③ベンチマーキングについて

 検討の際、秋春制を運用しているヨーロッパ各国リーグの情報はベンチマークすべきでしょう。特に降雪地帯での冬場の練習環境や練習場所選定、試合運営方法、除雪運用や中止基準、お客様への配慮等々、またそうした対応に伴うコスト運用は、長い歴史の中から培われた実績があるでしょうからぜひとも参考にしたいところです。

④リーグ、クラブを取り巻く関係団体からの情報収集や情報のシェアリングについて

カターレ富山サポーターミーティング

 本件は日本の文化、教育、経済、気候と密接な関係があり、Jリーグ及びクラブ関係者だけで検討は終結しません。
 最もそれが顕著に現れるのが降雪地帯での試合運営でしょう。降雪時の試合開催判断基準や除雪対応、来場者の交通インフラ確保は、施設管理団体、交通各社との協議が必須です。また最も来場頻度の高いサポーターとの意見交換も行うべきです。また、冬季試合開催が増加することで、これまで以上に降雪地帯クラブのアウエーゲームが連続して続く場合は、チーム運営面のみならず、サポーターの負担にも配慮が必要になるでしょう。
 一方、営業面でスポンサー企業のほとんどが3月末決算となっており、一般的に翌年度予算は少なくとも前年度3月にはオーソライズされています。各クラブの決算時期を秋春制に合わせて7月末とした場合、かなり早い段階で各スポンサー企業と交渉して予算に組み入れてもらわなければなりません。昇降格や優勝といった契約額に影響する結果が出る前に契約交渉をどこまで真摯にしていただけるかは、親会社を含む各スポンサー企業からのご理解をいただく段取りを踏むべきです。
 新規加入選手も卒業後からシーズンインとなる7月までの間の取り扱いを学校当局と詰めることになりますので、クラブは予めその取り扱い方法を検討決定した上で、馴染みの深い教育法人に根回しをしておくことが賢明と思料します。またシーズン終了の5月に引退して社会人としての道を選択した選手は、中途採用という困難な状況に陥ります。クラブは日頃からセカンドキャリア先として実績のある親会社を含む企業との間で、予め就職ステップについて議論しておかなければなりません。

西部洋平選手引退セレモニー

⑤決議方法について

 「多数決制」だけは避けていただきたく思います。多数決は同一案件を決する際には適切な決議方法と言えますが、本件のようにクラブによって課題の重みが異なる場合はフェアとは言い難い方法です。
 特に降雪地帯のクラブでは、今後試合開催に伴う環境保全、練習環境や練習場の移動等、相応の投資が発生しかねません。これは一クラブの中で解決可能かどうか、あるいはリーグとしてのサポートが必須なのかというレベルの重い課題との認識に立てば、「全会一致制」をベースに決議されることがあるべき姿と言えるでしょう。

スタジアム隣接のドーム型屋内練習場

⑥降雪地帯固有の課題の検討方法について

 本件に関して、これまで各クラブ社長が集まって議論を行う実行委員会での発言量は降雪地帯のクラブ社長が多かったように思います。また、降雪地帯のクラブを応援するサポーターから、複数クラブで本件に関する横断幕が掲出されていました。メディアの取り扱う記事も降雪地帯でのシーズン移行の難しさに言及するものが多かったと思います。やはり冬季試合開催の困難度や、それに伴うサポーターの負担増、また除雪や練習場確保に伴う費用増と、降雪地帯ならではの課題が決して軽くはないということを物語っています。

 こうした固有の課題を全体で議論するよりは、降雪地帯のクラブだけに限定し、そこにリーグ関係者も加わったワーキングチームで検討をする方が効果的な議論に繋がると思料します。

⑦費用発生を伴う課題について

 最後になりましたが、私はクラブ経営に直結するとても大事な留意点と考えています。費用発生の可能性は降雪地帯のクラブを中心に精緻に検討されるべきでしょう。そしてその負担元をどうするかについても予めソリューションを出しておくべきと考えます。

 特に降雪対応のスタジアムでの試合開催、冬季練習、お客様の負担については漏れなく見積もりを出した上で、その規模が現実的なものか、どこがその負担元となるべきかについて、当然のことながら詳らかにしておくべきです。

🔹最後に

 長々と書き立ててきましたが、ここまで読み続けていただいた方の多くはおそらくサッカー関係者やサポーターの皆さんではないかと拝察しています。

 リーグ事務局関係者の皆さんには、まだ開示されていないことも含め、これまでクラブから出た様々な意見を丁寧に体系化して取りまとめてくれていること、そして検討の道筋をクリアにし、シーズン移行の可否是非をフェアかつ平らな姿勢で進めようとしてくれていることに感謝いたします。

 また各クラブトップの皆さんには、これからが本格的な検討に入ることになりますが、結果如何を問わず皆さんが納得した結末になることを望んで止みません。

2022シーズンホーム最終戦後ゴール裏サポーターへの挨拶

 最後に、クラブをサポートしてくれているファンサポーターの皆さんには「仲間」として胸襟を開いたコミュニケーションをしていきたいと思いますので、理解とリスペクトの心持ちで本件と接していただければ幸いです。

 最後までありがとうございました。

長い検討の道のりに入ります


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