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コリアンダーから始まる僕のスパイスカレー道

飛騨スパイスカレー研究所は、一応研究所なのでちゃんと研究している感を出さないとイカンのです…というわけで、これからは定期的にスパイスについての記事をあげていこうと思いますので、いつも通りだらだらとした記事になりますが、良かったらお付き合いください。

コリアンダーといえば

コリアンダーってあのパクチーの種なんだよ…
「えっ!そうなんですかっ!」
というやり取りは日本全国津々浦々で少なくとも一度はある光景。
でも、それだけじゃ「知識」は得ても「味」や「感動」をインストールした形にはならないよね…というのが僕の考えで、やっぱり物事ってのは自分の体験とセットの方が、少なくとも僕の場合はですが、自分の中にしっかりと取り込まれる気がします。
この取り込まれる形は人それぞれだから、ここで個人の体験を話したところできっとアナタには「なんやそれ?」ってことになるかもしれないけれど、でも「なるほど、そういう風に自分の中に落とし込んでいることたくさんあるけどあまり言葉にしたことなかったな…」なんて一人でも思ってくれたら幸いです。

極楽カリーで僕らは深く愛しあった・・・

2019年当時の極楽カリー(今は移転しています)

極楽カリーに初めて会ったのは2019年の7月3日のこと。前職の時の出張で訪れた鎌倉由比ヶ浜通りにある怪しい店に僕は吸い込まれるようにしては入った。そんな投稿をInstagramに7月6日にアップしていて、mac bookのカレンダーをさかのぼると7月3日ー4日にかけて出張となっていたので日にちも確定です。SNSは定期的に上げておくと記憶を遡るときに役立ちますね…

当時…というかきっと今も由比ガ浜通りはカレーストリートで、取引先や自社の直営店があったおかげで定期的な鎌倉出張に恵まれ、片っ端からここのカレーを制覇しようと息巻いていた。
そんな由比ヶ浜通り制覇計画の第2回目で僕の計画は頓挫することになった。なぜなら「極楽カリーでGO TO HEAVENしてしまったから」。

上にある写真の通り、まさに異世界への入り口の用な店舗に吸い込まれた。
普通はちゃんとググって、どんなカレーを出すのかをリサーチしてから入るものだけれど、何しろこの通りを制覇しようと考えているのだからリサーチなんて不要。とりあえずどんなカレーがきても食べ尽くしてやる勢いも加わって、本当はちょっとドキドキしながら店の前を通ったんだけど、ドアからのびっくりするほどの引力で、気がつけば店に入って卓についていた。

「カリーセットでいいですね」と店主。
極楽浄土では汚れた僕に選択肢なんて残されちゃいないのか…なんて思っていたらメニューはこれだけ…
いいねぇ、この強気な感じとシンプルさ…

そして運ばれてきたカレーに僕は恋をした

数分してピクルスとカレーが順番に運ばれてくる。
昨今のスパイスカレーブームの中では地味に感じるシンプルな盛りつけの奥に、多くの無駄(オペレーションの手間)をそぎ落とした崇高さが感じられる。なるほど、ここは極楽を名乗るにふさわしい…

一口食べてみると、口の中に押し寄せるうま味の波状攻撃。辛さはないのにスパイシー、そしてとにかくうま味がすごい。どことなくオリエンタルな香りと相まってスプーンが止まらなくなる。
何口目かで何かを噛んだ。それまではあまりの美味しさとほろほろにほぐれた鶏肉の力であまり触感なんて意識しなかったけれど、間違いなく何かを噛んだんだ…

口の中に爽やかな柑橘系の香り

口の中で噛んだ瞬間からオリエンタルな香りがするカレーから爽やかな柑橘系の香りが吹き抜けた。
「なんだこれ?」と思ってスプーンでカレーをほじくり返してみると丸い種があった。「これかな?」と思ってもう一度噛んでみると、またあの香りが吹き抜ける。
これが何かなんて、今まで何度も目にしてきているから冷静に考えたらわかるんだろうけど、思わず隣のテーブルを拭いていた店主に問いかける。
「この丸い種なんですか?とても良い香りがする」

「あ、コリアンダーです」

ほほう…確かによく見たらコリアンダーですよ。今まで何度も見てきましたよ…でも、こんな香りがするなんて知らなかったなぁ…

スパイスカレーあるあるとスパイスカレーの壁

そう、これが世に言う?「スパイスカレーあるある」の一つ。
スパイスカレーは作るけれど、スパイスそれぞれの味や香りはあまり知らない…。まさに知識はあるけど味は知らないシリーズ。
実はこれが「スパイスカレーの壁」と呼ばれるものの一部だったりする…

長く食の世界にいてアタマデッカチになっていたのをガツーンと殴られる体験。僕は食ではないけれどこういう体験は何回かあって、今考えるとその時が僕の人生の転機になっていたりするから面白い。

そう、まさに僕のスパイスカレー道は、もっと前から始まっていたかのように思っていたけれど、実はココが本当の入り口でした。
コリアンダーから始まる僕のスパイスカレー道。

感動のあまりフワフワしながら、まさに天に昇るような気持ちで店を出て、我に返ったら即効あのカレーは何だったのか?とググる自分。

僕の由比ヶ浜通りカレー制覇計画は見事に極楽カリーに魅了され過ぎたことにより頓挫し、それからの鎌倉出張のランチは常にここのカレーになったのでした。

…というのが、コリアンダーが僕にインストールされた経緯の話。
スパイスがインストールされたのは決して初めてじゃないけれど(これからいろいろnoteに記事として上がってくる予定です)、ここからスパイスカレーに本格的にのめり込んでいった…ある意味この出会いがなければ飛騨スパイスカレー研究所は無かったといっても過言ではない話なので書きとめておきました。

ちなみにその「極楽カリー」。あの後移転されて、いろんなご縁があって店主の竹迫さんともお話しさせてもらったり、今スパ研が作っている「飛騨地鶏のご馳走無水カリー」が極楽カリーリスペクトの末に完成したことなども伝えてあります。最近では国産クミン栽培を竹迫さんのリーダーシップの下でチャンレジしていたりと縁を少しずつ深めている感じ。
その「極楽カリー」さんが、なんとこの記事を書いているまさに本日2月22日に開店から10周年を迎えられたそうです。
「おめでとうございます!」
そして「ありがとうございます!」

コリアンダーのお話

さて、ここからはコリアンダーについての話。
きっと調べれば諸説あるだろうし、前述のようなインストール体験なくしてはあまり入ってこないかもしれないけれど、研究所なんで、ちょっと見解も含めて書いておきます。

コリアンダーの歴史

歴史なんて「つまんねぇ」と思うでしょ。
でも不思議なんですよね。コリアンダー自体がインストールされていると「なるほど」ってなる。
「人」を好きになると「その人のことをもっとよく知りたくなる」感じと一緒です。

コリアンダーは世界最古のスパイスの1つと言われていて、イスラエルの遺跡で8000年前のコリアンダーが貯蔵スパイスとして発見されたり、古代エジプトの墓からも発見されているそうです。

商用作物としてのコリアンダーの期限は中近東にあると思われていて、おそらくイスラエルからペルシャ(イラン)を経由してインドに渡る東ルートと、エジプトを経由してモロッコからヨーロッパへ向かう西ルートへに別れたんじゃないかと思います。もしかすると西ルートはエジプト経由ではなくヨーロッパ経由でモロッコにおりてきたのかも…でもエジプトのミックススパイス「デュカ」にもコリアンダーは欠かせないスパイスだからエジプトは確実に通っていると思います。ちなみにデュカについての記述は西暦1900年のエジプトの学者が定義している論文があるそうです。
そんなコリアンダーですが、ヨーロッパへ広がったものの18世紀ごろまでに人気を失い、主にジンの蒸留とビールの醸造だけに使われるようになったとか…、ベルギーでは今でもビールの風味として好まれているとか…
僕はこんなん聞いただけで飲みたくなってしまいますよ。

コリアンダーの種類

インド種
モロッコ種

コリアンダーにはインド種とモロッコ種と2種類あるのはご存知ですか?
日本に出回っているものの多くはモロッコ種で、飛騨スパ研もモロッコ種のオーガニックコリアンダーを使用しています。
以前インド料理店でテーブルに飾ってあったスパイス入りのボトルにインド産が入っていて「なんだろう?」とこっそり齧ってみたらモロッコ種より柑橘系の香りが強くて爽やかな香りでした。

パクチーの向こう側

前述したようにコリアンダーとはパクチーの種。
僕は家の畑で育てるほどのパクチー&コリアンダー好きなのですが、飛騨ではパクチーのあの独特な香りが苦手な人が多く、ウチの奥さんもNGなのです。飛騨の人はパクチー=カメムシという認識が強く苦手な方が多い印象があります。カメムシの存在さえ知らなければ食べれる人は多かったんだろうか?なんて考えながら、先月大阪で開催されたカレー事情聴取ではトッピングにパクチーをそえたのですが、3割くらいのお客様から「パクチーなしで」とのリクエストがあったので、やはりこの香り自体に得手不得手があるんですね。

わが家の畑で栽培しているパクチーから出てきた神様

そのパクチーですが、和名ではカメムシソウといいます。
実際にパクチーにはカメムシと共通するアルデヒドと総称されるにおい成分が含まれているのです。
だから飛騨の人が「カメムシっぽくてイヤだ」というのは納得なのですが、パクチーが種になって、いわゆるコリアンダーに姿を変えると…特に飛騨スパ研のカレーを食べてホールのコリアンダーを噛むと
「この柑橘のような、花のようなステキな香りは何ですか?」となるから面白い。
この流れから
「それはコリアンダーの香りですね。パクチーの種です」って言って
「えっ?」ってなると、きっとその方には無事にコリアンダーがインストールされたことになります。

でも、ウチの小さな畑で実際にパクチーを栽培していると、やっぱりカメムシの様な香りはするものの、市販のものよりも圧倒的にフレッシュな状態(そりゃそうです。畑にはえてるんだから)なので、このパクチーの向こう側にちゃんとあのコリアンダーの様な柑橘系の香りが見え隠れするのです。

パクチーの花
今まさにパクチーからコリアンダーへ

上の写真がまさにパクチーからコリアンダーへ移行しようとしている状態。この一つ一つを見るとまるで果実。小さなミカンのような雰囲気で、柑橘系の香りがすることにも納得なのですが、調べてみると「セリ科」の植物なんですね。セリ科のスパイスというとクミン、キャラウェイ、フェンネルなど似たような種の形かと思っていたら、コリアンダーもセリ科とは…
植物は不思議な世界ですね。

コリアンダーの効能

コリアンダーは強い抗酸化作用をもち、デトックス効果が高いので体内に溜まった有害金属(水銀・ヒ素・鉛・カドミウムなど)を体外に派出する「キレート作用」という働きがあるようです。いわゆる解毒作用です。
なので過剰摂取はキレート作用が強くなり下痢や腹痛をもたらすこともあったりするようです。「カレーは飲み物」として認識されている方はお気を付けて。
その他、老化・病気の原因になる活性酸素の発生抑制効果やビタミンCやカルシウム、鉄などの栄養素を豊富に含んでいるので、美肌効果も含めアンチエイジング的な効果もあるようですね。

発熱の緩和や食欲増進、血液の浄化などの効果があり、西洋では消化器系の家庭薬として使われているとのこと

またアーユルヴェーダなど伝統的な医学(予防医学)では、コリアンダーは痛みの緩和、抗不安、抗けいれん作用を期待して処方されているそうです。 現代の動物研究でも、コリアンダーの葉には神経保護効果や抗不安効果、抗けいれん効果があるという結果が出ており、アルツハイマー病の治療薬として利用できる可能性も示唆されているんだとか…

調和のスパイス

このコリアンダーはスパイスカレーの世界では「調和のスパイス」と呼ばれています。いわゆるカレー粉(カレーパウダー)の中では分量も多く配合されていて、飛騨スパ研の「基本のカレーパウダー」でも配合比は高く、ホール、粗びき、パウダーの3タイプにわけて入れてあります。
他のスパイスよりも分量を多く入れることでスパイス全体が馴染むという効果があって、これは実際にスパイスカレーを作っているとよくわかります。

コリアンダーはパウダーにするとカレーにとろみをもたらしてくれます。
日本人は小麦粉でとろみをつけた欧風カレーになじみがあって、さらっとしているスパイスカレーには一瞬違和感を覚えたり、作りながら自然ととろみをもとめたりしますが、そんな時は香りや味にそこまでの主張のないコリアンダーパウダーを多めに入れるという手もあります。(スパイスカレーにとろみをつけるにはいくつか方法があって、その中の一つとして覚えておくと良いでしょう。ただ調和のスパイスといえども入れ過ぎは禁物です。)

…というのがコリアンダーのお話です。
ほかのスパイスに関してもそうですが、今回ここで紹介したのはあくまでさわりの部分だけで、ここからそれぞれ探求していくともっとスパイスが活用できると思いますので、皆さんぜひ調べてみてくださいね。

終わりに

長々とおつき合いいただきありがとうございます…
これが僕とコリアンダーとの結びつきです。自分の体験、記憶と結びつくことによってコリアンダー情報を有機的にインストールできた記録のようなものです。
きっと皆さんにも、それぞれのスパイス、食材だったり、また音楽だったり、洋服だったり、本だったりで、実体験と合わせたインストールが行われているということがあるんだろうと思います。
「スパイスカレーの壁」という言葉が出てきましたが、このスパイスの種類や情報量の多さがまさに壁となって立ちはだかっているというのが最大の壁です。僕の場合はそんなに情報処理能力がないので、とりあえず、今回みたいに一つ一つのスパイスを自分の中に落とし込んで(インストールして)います。
この作業が実に楽しい。
こんなスタンスで今後も定期的にスパイスの紹介をしていきますので、
「おもしろそう、やってみよう!」なんて共感していただける方がいましたらぜひやってみてください。

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