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TAJIMA YOUTH THEATER vol.1『Q学』 感想レポート

2023年11月23日から24日にかけて、豊岡市民プラザ・ほっとステージにて、TAJIMA YOUTH THEATER vol.1『Q学』が上演された。この公演はダブルキャスト公演で、今回は23日Yellowチームを観劇した。
 TAJIMA YOUTH THEATER(通称:TYT)は、但馬地域の中高生を含むユース層が舞台芸術に触れる機会を創出するためのプロジェクトである。芸術文化観光専門職大学の学生が展開する、エネルギー溢れるフレッシュな舞台を但馬地域の各会場で上演する。第1回目は田上豊(田上パル)の作・演出による『Q学』だ。戯曲は作者である田上さんの体験をもとに書かれ、とある高校の「演劇」の授業が舞台となっている。


開演15分前に会場へ着くと、当日券を求めて多くの観客が列を作って並んでいた。急いでチケットを引き換え、当日パンフレットを片手にホール内へ丁寧に案内された。座席は後方まで埋まり、多くの人が開演の瞬間を待っていた。開演10分前から賑やかな学生が廊下で騒いでいる音が聞こえ、見に来たお客さんを快く出迎えていた。

客席の電気が消え幕が上がり、8人の高校生が横一列に登場。舞台は行進から始まった。最初の一声は「演劇!」から始まる。これぞ演劇!と言わんばかりの威勢の良いスタートで観客の目線をグッと惹きつけた。ストーリーは以下の通りである。

月曜日の午後、週に一度開講される表現の選択科目「演劇」。履修した高校生は素行が悪く、授業にきてもベラベラと喋っては何も学ぼうとしない。手鏡を片手におしゃれに勤しむ者、赤本を片手に受験勉強をする者、補習でそれどころではない者など、自分勝手が集まった癖のある集団。自称演劇人の担当教員も彼女らのことを手に負えず、出席をとっては台本ばかり書いている。一向に進む気配がなく、怠惰の日々を送っていた。しかし、そんな時間も長くは続かない。教育者が授業評価のために演劇の授業を見学に来るという。そのため、彼女らは急遽作品を発表をしなければならなくなった。収集がつかない混沌の中で、先生は成果発表を『走れメロス』に決める。
一方、波乱の教室にも顔を出さない生徒が一人。坂口はいつも終業ギリギリになっては出席だけしては帰宅、これをただ繰り返す。その事情を唯一知っているのは中学が同じの青木。坂口を心配する青木は、昔のように授業に戻ってきてくれないかと何度も説得を試みる。
そんなある日、クラスに一大ニュースが流れてくる…。

作品を見てまず感じたのは、彼氏もおらずこれといった取り柄もないと嘆く高校生の葛藤がキラキラと輝いた日常に乗って繊細に描かれている点だ。Q学に登場する高校生は一見悩みの一つもないような顔をして生きているが、将来への不安を抱えている一面が垣間見えた。今まで堕落した生活を送ってきた取り柄のない18歳が、明日から劇的に変わることなど普通はない。ただ、心のどこかでは有名大学を出て、将来はキャリアウーマンになったり、イケメン高身長な高所得の男性と世帯を持って幸せな家庭を持ち、そして死んでゆく、そんな理想や憧れを持っているのではなかろうか。にもかかわらず、それを叶える努力をする前に諦めて厭世的になってしまう。とはいえ彼女らが特別不幸な環境にあるわけではない。90分を通して、どこにでもいる女子高校生のありきたりな悩みが、忘れかけていた高校時代の青春を懐古させた。そして、今は目の前のことにただ全力で挑むべし!という若者へ向けたメッセージを強く発信していた。
Q学では、中高校生の誰もが思春期に経験するコンフリクトを以て但馬に住む若者の共感を誘っている。そのため、たとえ現状を変えようともがき掻く姿がどんなに醜いとしても、自分自身ではなく坂口のために『走れメロス』を上演する高校生の必死さには、胸の内から込み上げる感動があった。

最後に、筆者が印象に残ったセリフを紹介する。出席を報告に来た坂口が「演劇よりも家族でしょ、ふつう」と授業日誌を付ける先生に対してこぼした一言だ。最近子供が生まれた先生は家庭が忙しい一方で、採用試験の勉強もしなければならない。普通ならば、「演劇も家族もでしょ、ふつう」というはずだ。仮に実業家や神社の神主の傍らで、教師との両立を目指すのならば、どちらも応援する声がけをするだろう。しかし、家庭のために演劇か教師かの選択を迫られていることに日本の現状が見える。演劇は教育的に意味が薄く、演劇では生活ができないのだ。これは演劇に限らず、舞台芸術全般に通ずることである。しかし、全てがそうではない。劇中には、「何か言いたいことがあるのならば、それを芸術にぶつけてください!」と先生が喝を入れるシーンがある。それは何気ない一言だが、「たかが演劇」だった7人にとって、最終的には自分たちの思いを乗せる表現方法へと変わっていった。演劇はお金にならないが、人生を豊かにする貨幣以上の価値を人間にもたらす。

私たちは、舞台芸術関係者の創作環境を整えなければならない。そして創作過程に教育的価値があると普及する必要がある。そう考えさせる公演でもあった。

HIBOCO
Wakai Ayumu

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