シカとクルマとワタシ。

私は高校を卒業するほんの少し前に自動車学校へ通い始めた。普通車(MT)とオートマ限定コースがあり、なんの拘りだったかはわからないが、MTコースを選択した。

10月生まれなので、本来ならば10月から自動車学校へ行けたはずなのだが、介護福祉士の国家試験を年明けに控えた私のクラスは筆記試験後ではないと自動車学校への入学は許可されず他の科の同級生は18の誕生日を迎える頃楽しそうに自動車学校へ通い始め、待遇の違いに大変不満だった事をを覚えている。

元々平均以下の運動神経故少し時間はかかったものの、7月に無事普通自動車免許証を手にした。

最初に購入したのは軽のMT車であった。

ヤンキーだった訳でも走り屋だった訳でもないが、MT車で免許を取った以上MT車に乗りたいと思ったのだ。

4ドアでMT車であれば車種は何でも良かった。

スバルが出していたプレオと言う軽自動車にした。

免許を取得して数日、山道で迷子になり、プレオに傷をつけてしまうも、運転する事が楽しくて楽しくて仕方がなかった。

職場へは自転車通勤であったが、仕事から帰りごはんを済ませると夜な夜な田舎街を意味もなく走っていた。ただただ楽しかった。

プレオ時代飛び出してきた鹿に当たったことがある。

つがいで出てきたのだが、メスとぶつかってしまった。

メスは地面に座り込み、無傷であるオスは最初メスの様子を離れたところから見ていたが、しばらくすると逃げていった。人間も鹿もオスはロクなのがいないとぶつかった衝撃に初めて腰を抜かすと言う経験をしながら思っていた。

ぶつかった時、女3人で乗車していたのだが、内1人の子が親に連絡をし迎えに来てくれる事になった。車はラジエーターが破裂していた為自宅まで戻るのは困難だった。その間メス鹿は動かずただこちらをジッと見ていた。

愛犬が世話になっている動物病院へ電話してもいいのか?こういう場合どうしたら良いのか?メス鹿にただ申し訳なく、迎えを待つ間オロオロしていたらメス鹿は立ち上がり、ビッコをひきながら去ってしまった。

迎えが到着し、友達の親が「鹿はどうしたのか?」と尋ねてきたので上記の旨を説明した。すると友達の親は「捕まえておいたら良かったのに。


鹿鍋は美味しいよ」

と言ったのでたまげてしまった。

ぶつかった当人は鹿が飛び出してきた事に驚きフリーズし、ブレーキを踏めなかった事、地面に座り込みジッと見つめる視線にただただショックと謝罪の気持ちしかなかったのに食べてしまおうとはなんたる事か。そもそもただ座り込んでいる鹿をどうやって捕まえておけと言うのだろうか。

ビッコをひきながら逃げて行った鹿に対し「あのオス鹿はまた仲間として見てくれるのか」などと心配したのだが、友達の親の言葉に「逃げてくれて良かった、どうか長生きするんだよ」と思った。

この一件以来、懺悔の意味を込めて鹿肉は食さないように努めている。この一件がなければ美味しくいただく機会も何度かあったであろうが、控えている。大好きなディズニーリゾートでバンビの姿を見ると胸が痛む。奈良市内は行くとドキドキが止まらない。どうかあの鹿が鹿なりの平均寿命まで全うしてくれていることを願うばかりだ。



話を戻すが、今私は車は所有していない。

大阪の街へ出てくる際に駐車場の月額賃料の高さに驚き、泣く泣く手放してきた。今はカーシェアリングとレンタカーを必要時に利用しているが、MT車を用意してくれているところは見当たらない。

時々軽トラだろうでも構わないからMT車を運転したくてたまらなくなる。オートマは便利な反面、運転の面白みもないし、便利な物を使う人類の脳は衰えていくのではないかと思ってしまう。たまにアクセルとブレーキを踏み間違えてとんでもない事故を高齢の方が起こした事がニュース番組で取り上げられたりするのを見るが、MT車であればそんな過ちは起きえないし、MT車は発進する度にギアを動かし、ただハンドルを握るだけの人間が、自分しっかり運転してるなぁと言う充足感を与えてくれる。こんなにMT車には良きところがあるのだから以前のように普及してくれないかと願うばかりである。

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