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「助かった命」後悔今も 東松島市矢本・岩井光子さん(78)

 東松島市矢本の岩井光子さんは、東日本大震災の津波で夫の孝悦さん(享年69)を亡くした。最愛の人の死を受け入れられずふさぎ込んだが、それを見かねた周囲の勧めで、平成28年からカフェを経営。人と触れ合うことで次第に心の落ち着きを取り戻した。子どもたちは実家を離れ、今は孝悦さんが大切にしていた愛猫のミミと〝2人〟暮らし。「周囲の支えで前を向くことができているが、夫を失った悲しみは消えない」とし、復興を10段の階段に例えれば「2段目」と語った。

 岩井さん夫妻はかつて海に近い同市大曲浜に住んでいたが、震災前地震学に精通した大学教授らが発表した「数十年以内に大規模な宮城県沖地震が発生する」「大曲浜には約6メートルの津波が来る」といった予測を鑑み、内陸への移転を決意。建設業を営んでいた孝悦さんの工場を浜に残し、平成20年ごろ海から離れた矢本に移り住んだ。

復興の階段 矢本岩井さん (4)

孝悦さんが愛情を注ぎ育てていた愛猫のミミをなでる光子さん

 そしてあの日。夫婦は矢本の自宅で大きな揺れにあった。停電によるライフラインの遮断を懸念した孝悦さんは地震の直後、工場にあった自家発電機を取りに、車で出掛けた。「夫は誰からも慕われる心優しい人。あの日は雪が降って寒かったから、おそらく親族が避難してくることを見越して判断した行動だったと思う」と光子さん。

 どれだけ待っても孝悦さんは帰らず、翌朝になって工場付近に足を運んだ光子さんは変わり果てた浜の様子に絶句した。そこで木に引っかかった状態の孝悦さんの車を発見。車内に姿はなく「信じたくはなかったが、夫の死を直感した」と振り返った。

 1カ月後、遺体安置所の小野地区体育館で孝悦さんと無言の対面を遂げた。「すぐに見つけてあげられなくてごめんね」。心の中でつぶやき、悲嘆に暮れた。

 その日以来、ふさぎ込む日々が続いた。夫婦で愛情を注ぎ、わが子のように育てていた飼い猫のミミは窓辺から動かず、もう帰って来ない父を待ち続けた。その姿を見るとさらに寂しさが募っていった。

 「何か商売して人と関われば少しは心が楽になるのでは」。見かねた妹や友人たちが、カフェ経営を勧めてくれた。背中を押された光子さんはリビングを改装。28年に妹と自宅兼店舗の「カフェ&ファッションベル」を開店した。

 光子さんは「知人や夫の友人らが足を運び、元気づけてくれた。私も人と話すことで次第に心が楽になった。この9年半は周囲に支えられた日々」と感謝を口にした。

夫亡くし心の復興 2段目

 それでもあの日、夫を引き留めることができなかった後悔はいまも残る。「津波襲来は予測できていたのに、助かったはずの命なのに。もっと一緒に夫と生きていきたかった…」。ミミをなでながら、光子さんはぽつり、ぽつりと言葉をつないだ。

 震災から10年が近付く。大切な人を失った悲しみはどれだけ時間が経っても埋められるものではない。「夫は最期まで人のために生きた。私も人とのつながりや出会いを大切に生きたい。そうすれば天国の夫も喜んでくれると思うから」。柔和な笑みを見せた。【山口紘史】


※次回は10月後半に連載します。


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