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東京へ。60年ぶりの大優勝旗を【桜美林高校】

「一度でいいから甲子園で校歌を歌いたい」

当時の主将・片桐の言葉だ。
この言葉は当時全国的には無名であった高校に優勝をもたらす軌跡となる。

今から45年前の第58回全国甲子園大会。
「サッシー」こと海星高校(長崎)の酒井圭一や、後NPB中日のエースとなる星稜高校(石川)の小松辰雄、東海大相模(神奈川)の原辰徳など、この夏の甲子園には数多くのスター選手が勢揃いし話題を呼んだ。
だがこの大会は西東京大会を勝ち上がり、夏の甲子園大会初出場を掴み取った桜美林高校(西東京)の名と共に忘れられない夏となった。

この年の桜美林は春季大会を準優勝で飾ると、関東大会へ出場。
他県の強豪校を打ち破り、関東大会優勝を果たす。
この実績はチームに活気と自信を強くもたらすことになる。

「辛かった冬の練習が確信へ変わった」その瞬間だ。

【春季大会】
●春季東京都大会
 1回戦  12-0 駿台学園
 2回戦  10-0 日大豊山
 準々決勝 3-0 早稲田実
 準決勝  3-1 日大三
 決勝   2-9 日大二 ※準優勝
●春季関東大会
 1回戦  6-0 新城(神奈川)
 2回戦  2-1 佐野日大(栃木)
 準々決勝 4-1 鉾田一(茨城)
 準決勝  12-5 川口工(埼玉)
 決勝   5-4 上尾(埼玉)

自信を持ち迎えた夏季大会。関東大会を制した桜美林は前評判の高さと期待に答えるように大会を勝ち上がると、夏の甲子園大会「初出場」を掴み取る。

1967年・1973年と春の選抜甲子園に2度出場した同校の悲願達成の瞬間であった。

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●第58回全国高校野球選手権西東京大会
 3回戦  4-1 日大桜丘
 4回戦  10-1 都世田谷工
 準々決勝 8-0 都東大和
 準決勝  5-0 駒大高
 決勝   4-3 日大二

出場を果たした桜美林の目標は変わらず「全国制覇」であり、その目標は東京に60年振りの優勝を齎す希望でもあった。
そして「甲子園で1度で良いから校歌を歌いたい」と語った片桐の言葉を裏切るかのような快進撃を果たして行く。

初戦は山形県代表・日大山形。
本塁打2本飛び出す他、エース・松本の好投で4-0の完封勝利で夏の1勝を上げた。

続く3回戦の兵庫県代表・市神港では痺れる1点差ゲームを制すと、続く準々決勝では千葉県代表・銚子商業を下し全国ベスト4に進出した。

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迎えた準決勝の相手は高校級で後に中日でエースとなる当時2年生・小松擁する星稜高校。

星稜は初戦で東東京代表の「日体荏原」を相手に、制球こそ苦しんだが、しなりを利かした伸びのある速球が面白いように決まり、2安打完封・13奪三振の快投を見せた。
続く「天理(奈良)」でも序盤に制球が乱れ、苦しみながらも辛勝。準々決勝では好投手・赤嶺擁する「豊見城(沖縄)」では、天理戦と同じように自ら点を叩き出し、それを守り抜き完封勝利で準決勝まで進んでいた、

桜美林はここまで連戦で完投していた小松を叩く。
小松は元々課題であった「制球」に苦しんだ。桜美林ナインは安定感を欠いた小松相手に見事8安打を浴びせ4点を掴み取ると、エース・松本が1失点に抑える安定感を対し見せ見事勝利。いよいよ決勝まで駒を進めた。

1976年夏の第58回大会決勝。初出場の桜美林(西東京)とPL学園(大阪)との一戦は、どちらが勝っても初優勝。大きな注目を集めていた。

当時PL学園主将の松下は「日本一になるため日本一の練習をしてきた自負があった」と語り、一方桜美林・片桐は「東京のチームは『もやしっ子』と言われるのが嫌だった。負けない野球を目指した」と語る。

4連戦で迎えた決勝の先発はエース・松本。4連投で「疲れてヘロヘロだった」と語る。PLエース・中村との右腕同士の投げ合いは、一回に桜美林が先制する。四回に松本は3長短打などで3失点したが、桜美林の選手たちには自信があった。「4失点以内なら大丈夫。4点取れたら勝てる」
その言葉通り桜美林は7回に適時2塁打で同点に追いつく。

勝負は一進一退のまま延長戦へ突入。迎えた11回裏。走者を一塁に置き打席にはこの決勝戦7回に代打で初出場を果たした菊池。7回に2塁打を放ったが、8回にスクイズを失敗していた。初球の「送りバント」のサインをボールで見送ると、「打て」のサインへ変わった。
2球目高く浮いた直球を叩くと、打球は左翼ラッキーゾーンの金網に当たる。金網に衝突した左翼手が打球を見失う間に一塁走者が本塁へ飛び込んで生還し、試合が終わった。
「4番候補」として期待が高かったが、脊椎分離症に苦しんだ。誰よりも倍以上バットを振り、「打撃専門」として生きた菊池の決めた1撃であった。

サヨナラ勝ちに本塁で歓喜の輪をつくる桜美林の選手達が見事、第2回大会の慶応普通部以来、60年振りに東京勢が頂点に立った。

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エースの松本は当時、菊池の決勝打を見ていなかったという。4連投に加え200球近く投げていたが故、ベンチの冷水機にかぶりついていた。
「水を飲むな」と言われていた時代であったが「そんなことを言ってられない」。

「イエス、イエス、イエスと、イエス、イエス、イエスと叫ぼうよ」

話題を呼んだ「桜美林高校の校歌」が流れ、2時間43分の熱戦と大会の幕は閉じた。春の関東大会を制したとはいえ全国的には無名。
「林業高校と間違えられた」高校が、5度も校歌を歌い60年振りの東京勢優勝・初出場初優勝の快挙を果たしたのだ

桜美林の優勝で、東京は大騒ぎとなった。
祝勝パレードはビル群から紙吹雪が舞う中千代田区丸の内にあった都庁を出発。ビ校舎を置く町田市までの移動はオープンカーで、歓喜と万歳に包まれながらパトカーに先導され東名高速道路を西へ。桜美林の戦いぶりを曲にしたレコードも発売される程であった。

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その後監督・部長として甲子園に4度立った片桐監督は、現在同校の野球部監督へ再び就任した。「高校野球は何が起こるか分からない」その言葉を当時主将として優勝まで勝ち取ったからこそ説得力がある。

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2019年には夏の甲子園大会予選で久しぶりにベスト4まで勝ち進んだ。
古豪復活は決して遠くない。全国を制した風は未も吹き続けている。
練習に励む野球部を照りつける日差しはあの頃と変わらない。

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●第58回全国高校野球選手権大会
【2回戦】
日大山形 000 000 000=0
桜美林  201 010 00×=4
【3回戦】
市神港 020 000 000=2
桜美林 002 000 10×=3
【準々決勝】
桜美林 000 202 000=4
銚子商 001 000 100=2
【準決勝】
星稜  001 000 000=1
桜美林 011 002 00×=4
【決勝】
PL学園 000 300 000 00 =3
桜美林  100 000 200 01x=4
=延長11回サヨナラ=

記事参照:https://www.asahi.com/articles/ASL4K4J6VL4KUTIL013.html


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