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続・北極圏ひとりぼっち

初めて訪れたロフォーテン諸島にて、図らずもレンタカー屋の青年に目的地まで送ってもらえることになり、ありがたい反面、当然ながらちょっと不安な気持ちもあった。

ただ何となく安心できたのは、その青年の佇まいが素朴で自然体だったこと。

日本でもそうだけれど、交通網の乏しい地域では、移動する術の無い人を乗せてあげるのが普通のことなのかもしれない。

以前にも一度、沖縄の離島にて、友だちと2人で宿へ戻ろうと海沿いの道路を歩いていたところ、車で通りがかった地元の人に声をかけられ「そこまで歩くのは大変だ」と乗せてもらったことがあった。

だからといって今回、仮にレンタカー屋のカウンターに赤ら顔のオッサンが立っていたら、自分はどうしたのだろう?
にこやかにタクシーを呼んでもらったのだろうか。


北欧青年との最初のやりとりで、コイツは英語があまり喋れないと察知されたのか、車が走り出すと初心者向けの英会話教室のようなやりとりが始まった。

どこから来たの?
どこに泊まるの?
何日滞在するの?

ここは片言でクリア。青年は終始テンション低めで静かな口調だった。シャイな性格なのか、ここロフォーテンの人々の気質なのか。


青年からの「ドーハってどこ?」という質問には、うまく答えられなかった。

ドーハと言えば、ちょっとサッカーを観ている日本人なら試合会場としてときどき耳にするが、中東や石油を語る語彙力も無く、イランやイラクの近くとしか説明できなかった。

こんな時、もっと英語を話せるようになりたいと切実に思う。


しばらく車を走らせ、山道から見下ろす形で入り組んだ地形の島々が見えてくると、青年が前方を指差して言った。

「Reineにいいフィッシュストアがあるよ。おみやげも売ってる。」

そうそう、ロフォーテンと言えば鱈の干物が特産物。サーモンもあるだろうし、オススメが魚屋というのも素朴でいい。

▲島のあちこちに鱈が干されている


こうして、やさしい英会話をしているうちに、車はReineの宿泊先に到着した。

車を降りてお会計。確か100クローネ札1枚、千円ちょっと也。日本の初乗りより高いが、物価がバカ高いノルウェーでは許せるお値段。

青年にお礼を言うと、テンション低めながらも「よい旅を」と返してくれた。

束の間ながらも、旅の始まりとしては素敵な一期一会だった。


翌日、宿の近くでレンタサイクルを借りて、島から島へ橋を渡りながら散策した。

周囲にこれといってお店は無いが、周辺のワイルドな山々とそれが映り込む海、屋根に草がもっさり茂った家々や、可愛らしい絵の描かれた郵便ポストを眺めるだけでも楽しい。


何と言っても、日本から見ればヨーロッパ大陸の末端を自転車で走っているという爽快感!


途中の島に、ようやくちっちゃな食料品店らしきお店を見かけたので寄ってみる。入ってみて気づいた。ここはたぶん、昨日青年が話していたフィッシュストアだ。

長い冷蔵カウンターに、サーモンや鯨肉の大きなかたまり、その他魚介が並んでおり、周囲には野菜のほか、地元のチョコレートなどのお土産がきれいに並んでいる。

言ってみれば田舎の商店なのに、商品のディスプレイといい、お店の内装といい、そのセンスの良さと言ったら、さすがの北欧クオリティ。


感心しながら眺めていると、あれ?あれあれ?!

昨日の青年?と思われる人がカウンターの向こう側に現れ、店員のおばさんと談笑していた。

日本人からすると、下手したら北欧男児がみな同じ顔に見えたりもする。確かめるようにチラチラ見ていると、青年と目が合った。思わずニッコリすると、向こうもちょっと気恥ずかしそうにニコ。

な〜んだ、フィッシュストアの中の人だったのね!地味に宣伝していたのかと思うと、何とも微笑ましい。それにしてもここは彼の実家?店員のおばさんは彼のお母さん?

そんな想像を巡らしながら、おみやげを物色して購入。そこで何かまた会話をしたわけではないけれど、そんなサラッと英語を話せないけれど、彼のほうもおばさんに軽く報告したのか、微笑ましいお会計となった。


青年とのご縁はこの一期二会で終わったが、おかげで心もほっこり、長旅の緊張感が一気に溶けた。

この勢いで、その気になったら行こうかな…と決めかねていたトレッキングにも、無事挑戦できたのだった。

この話は、またそのうちに。

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