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おにぎり日報6みちおがいない世界に捧ぐ

2021年8月25日の朝早く、一匹の猫が虹の橋を渡り旅に出た。
名を、みちおという。
楕円形の大きな頭に、遠い星の瞬きのように小さな目。艶の良くない黒い毛皮。トトロのような短いしっぽに、高い声がキュートなおじいちゃん猫、みちお。

みちおの猫生について、私達が知っていることは多くはない。いつの間にか姉の職場近くをウロウロするようになった野良様だということ、近隣ではボスだったということ、英雄色を好むということと、出会った時点で8〜9歳くらいの年齢だったということ。
みちおが生き抜いた野良生活の過酷さは、彼の一本抜け落ちた犬歯、腎不全に肝機能不全、猫エイズに猫白血病と、そのあちこち傷みきった小さな身体から推測する他にない。
そして初対面でも平気で膝に乗ってきてしまう人懐こさは、彼が一度はどこかで別の誰かと暮らしたことがあることを物語っていた。

そんなみちおが姉の家にやってきて、2年。
初めはまるで薄幸の美少女のように病弱だったみちおだが、持ち前の生命力で危ない橋を何度も渡りきり、力強く生きた。
キャットタワーを上へ下へとよく遊び、好物のまぐろとカツオの刺し身を箸で口に運ばないと食べない、一度でも床に落ちたものは絶対に口にしない!というワガママなお殿様になって、私達を幸せにしてくれた。

もっともっと幸せにしてくれてよかったのにな…。
みちおの訃報を聞いた朝、ベランダに立って、今日からこの世界はみちおがいない世界になったんだなぁ、と思った。

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