シングルファーザーの恋愛

惚れっぽい、の対義語はなんだろうか。昔から恋愛的な意味で人を好きになることがあまりない。正確に言うと、みんなそれぞれに魅力的なので好きだという気持ちはある。けれども特定の誰かに対してアクションを起こすほどの感情が芽生えることは少ないように思う。そういうわけで、このトピックに関してはとくに書くことはなく、期待せずに読んでもらえれば。

オンラインのひとり親コミュニティのいくつかに参加している。そこでは一部のシングルファーザーたちが、なんと言うか、たいへん野性味にあふれている。シングルマザーが新規参加の挨拶をするたびに、悩み相談をするたびに、文脈を無視して攻めていくシングルファーザーたちが存在する。それは本当に一部の人たちなのだけど、彼らが目立ってしまうせいでシングルファーザー全員がそんな感じだととらえられると困りものだ。僕はというと年齢的には草食系男子の先駆けで、女性からは「男性的ではない」「下心がない」などと言われている。どうやら既婚の女性からは好意を持たれる傾向にあるようで、それは安全が保証されているからなのだろう。

それでも気になる人をデートに誘うこともある。ところが、独身に戻って最初のデートでその後の恋愛観がすっかり決定づけられてしまった気がする。僕に限らずシングルファーザーは、まずはふたりの関係があって、その次に相手とわが子との関係があると考えるのではないだろうか。少なくとも僕はそう考えていたのだけれど、その相手は真っ先に子どもとの関係について考え出したのだ。いまになってみれば彼女はとても真面目な人だったのだと思う。けれども当時の僕はそのことに驚いてしまい、それ以上は踏み込めなくなってしまった。それ以来、誰に対しても自分からは踏み込んだアクションをとれなくなってしまった。

そういえばテレビでひとり親の特集をやっていいて、シングルマザーとシングルファーザーの悩みをランキングにしていたのを見たことがある。シングルマザーの悩みの第1位は経済面だったと記憶している。一方、シングルファーザーの一番の悩みは、恋人がいないことだった。シングルファーザーのほうが収入が多い傾向にあること、相談相手がおらず孤立しやすいことが理由として思い浮かぶ。しかし決定的な理由は別にあるような気がしている。僕の知っているシングルマザーには恋人がいる割合がとても高く、一時期はほぼ100パーセントと言ってもいいほどだった。思うに、男性は相手に子どもがいるかどうかの優先度が低いのではないだろうか。反対に女性はまず相手の子どもについて考える。ある意味、責任感に差があるとも言える。そういうわけで、シングルファーザーはシングルマザーに比べて恋人ができにくいんじゃないかと考えている。

この業界にいるからだろうか、同世代の女性と出会うことが少ない。自分より若い人との出会いは多少あって、なかには年の差があるけれど魅力的な人というのもいる。自分に子どもがいることに加えて、相手が若くて未婚だとさらにハードルが上がってしまう。最近だとこんなことを言うと怒られてしまうかもしれないが、結婚して、ふたりで暮らして、やがて子どもが生まれ、という絵に描いたようなしあわせなイメージを持っている女性はまだ多いと思う。それがシングルファーザーを相手にすると決めた時点で、そのイメージを塗るかえる覚悟が必要となってしまう。

僕は自尊感情の低いほうではあるけれど、まったく自信がないわけではない。家事育児はひとりでもできるし、人並みの収入はある。性格は温厚で攻撃的なところがない。昔ながらの嫌われどころである酒、タバコ、ギャンブルの類はやらないし、男尊女卑を嫌悪している。パートナーがいる間は1ミリたりとも浮ついた気持ちになったことがなく、浮気や不倫とはまったく無縁だ。だから男としてダメなのだという意見はともかく、相手を不幸にすることはないように思う。そのかわりに、とびきりしあわせということもなく、淡々と平穏な日々が続いていくのだろう。つまり僕が提供できるしあわせは、元本保証の年利2パーセントといったところだろうか。そうなると若い未婚の相手には、いまのうちにハイリスクハイリターン商品をおすすめしたくなる。こうして、気になる人がいてもアクションを起こさず、友人からはもっと攻め気でいけと叱咤激励されるのだ。

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