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鶴岡が、私の肩の力を抜いてくれた。

「たーくさん、休んで癒されていってください。山形は美味しいものとお酒と、いい景色がありますから。」

そう話してくれたのは、鶴岡市にある丙申堂の方。私はなんだか心がほぐれてしまって、少しだけ泣きそうになった。

鶴岡の旅行は、特段計画されたものではなかった。決めていたのは、行きの飛行機と帰りの新幹線、泊まるホテル。そして、加茂水族館に行くことだけだった。行き先の決定も適当なもので、BRUTUSの水族館特集を見ながら行きたい水族館をもとに探して、その中でも梅雨の影響を大きく受けなさそうな場所にした。

それが、鶴岡だった。

鶴岡へは飛行機へ行った。飛行機に乗るたびに運悪くジェットコースター気分を味わう私だったが、今回は晴天の中でのフライトで心地が良かった。飛行機から鶴岡へ向かうバスに揺られると、車窓は田園風景だった。庄内平野、教科書でよく見ていた言葉が浮かんだ。

バスの車窓から見た田園風景

鶴岡の風は心地よかった。日本海が近くにありつつ山も近いためか、潮の匂いと土の匂いが混ざり合った匂いがした。湿度は少し低く、過ごしやすかった。この一瞬で、私はこの街を好きになる予感がした。

鶴岡の観光案内所で勧められた丙申堂はとても綺麗だった。案内してくれた女性は少しお年を召した方で、脚を少し悪くされていたが、それでもにこやかに私を案内してくれた。屋根のこと、建物の歴史、素敵な写真が撮れる向き。どんなことを話されていても、きっとこの建物が好きなんだろうなということが伝わってきて、私は丙申堂の方々含めてこの建物がとても好きだなぁと思った。

穏やかな光が差し込んでいた丙申堂

「また、秋でも、春でも、どんな季節でも綺麗ですから。またいらしてくださいね。」
そう優しく笑いながらお見送りをしてくださって、私はとても好きだなぁと思った。心の中でまた必ず帰ってきますねと言いながら、あとにした。

鶴岡は、人が温かい街だった。
丙申堂の方々も、鶴岡の観光案内所の女性も、湯の浜の近くの誠寿司の大将も、みんな優しくてあたたかかった。みんな揃って「また来てね」と「いつ来てもいい場所だよ」と言ってくれた。

目的だった加茂水族館も、勧めてもらった丙申堂も、釈迦堂も、鶴岡公園もそのどこも綺麗で時間を忘れることができて、私にはかけがえのない場所だった。ただ、どんな建物や景色よりも、出会った人たちのあの笑顔が、東京に戻ってきた私を少しずつ支えてくれているような気がしている。

鶴岡に行く前は、どうせもう仕事漬けで恋愛もろくにできずに30歳くらいを迎えるんだから、そうなったらいよいよ猫さんをお迎えして一緒に暮らして、バイクでも乗れるようになろうと思っていた。恋愛も仕事も頑張らなくちゃと思っていた。30歳までにと、どこかで思っていた。焦りがあった。

けど、鶴岡に行って、私はこんなにも一人でも楽しめるんだと知った。なんだ、一人は悲観的に考えることではないじゃないか、そう思った。一人でいることは、悲しいことでも、苦しいことでもない。だから、一人でいることも怖くない。

そう思えたら、なんだか肩の力が抜けた。

今は、5年後のあたりに、楽しそうにしている私がいる。旅行して、猫さんと暮らして、楽しそうにしている私がいる。だから、もう大丈夫だと思う。もしこの5年間で失敗して、大泣きして目を赤く腫らしたとしても、向こうの私は笑っている。笑える私がいる。

ならば、今は存分にやりたいことを、私らしくやっていこう。焦ることなく、好きな人を好きになって、やりたい仕事を存分にやって、私は私を生きていこう、そう思えた。

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