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風鈴と(エッセイ / シロクマ文芸部)

暑いというよりは、熱いという漢字の方がハマるよね?今年の夏は。
そんなことを考えて、夕暮れの道を歩いていると、目の前に濡れた道が。
暑さが暑さですから、道は濡れているけれど、熱気でちょっとしたサウナのようでした。

ここの付近だけ雨が降ったのか?一瞬、そのように思ったけれど、よく考えてみたら、ここは高齢の女性の方がおひとりで住まわれている家の軒先でした。丁寧に育てられた植木の数々。おそらく、水やりのついでに打ち水をされたのでしょう。

暑すぎるのだからそんなことしても無駄だよねって言われる方もいるかもしれません。ですが、濡れたこの道には、少しでも涼しくっていう気持ちが込められているんだと思いました。

遠い海側から、ゆるやかな涼風が吹いてきました。先ほどまで分厚い灰色の雲があった場所です。どこかであった夕立のおすそわけでしょうか。

とたんにアスファルトの道に打たれた水の匂いがあたりに立ち込めました。
その匂いを包み込むかのように、女性宅の軒先から風鈴の音が。

私は風鈴の音と一緒に、打ち水の道を歩いてゆきました。
女性宅から、陶器の食器が重なる音がしました。
夕食の準備でしょうか。

暑い夏。少しでもみんなと「涼」をわけあいたいですね。

音にできないその人の思いやりを代わりに伝えるかのように
おだやかに、おだやかに、風鈴は鳴り続けていました。
語り合うことのない人と人を結んだ手づくりの夏の涼でした。

さもすれば、自分のことばかりになりそうな日々の熱を、冷ましてくれるかのように、風鈴は鳴り続けてくれました。

軒先を通り過ぎても涼やかに、背中の後ろで鳴り続けてくれました。



#シロクマ文芸部お遊び企画に参加させていただきます。
よろしくお願いいたします。








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