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塩むすび

休み明けの月曜日の夜は、1週間の疲れが溜まった金曜日の夜よりもはるかに疲れているのは、人生の七不思議と言っても過言ではない。

僕はいつものように、くたびれた足取りでセブンイレブンに入店した。コンビニで晩御飯を買うことに何も罪悪感を感じなくなった。実家から家を出て、もう6年。神様仏様コンビニ様と言わんばかりに、コンビニに飯を食べさせてもらってる。

お弁当コーナーはだいたいおにぎりコーナーの下にある。入店して他のものに目もくれず僕は真っ直ぐお弁当コーナーを目指した。目指したと言ってもここはコンビニ、ものの2秒で目的地に着く。そしてそこにはいつものように誰かしら先客がいる。

今日の先客は、茶髪のロングヘア、ロングスカートの30代くらいの女性。世はまさに大マスク時代、顔の情報は唯一目だけが残っている。その目は、案の定疲れていたが、その奥はお腹を満たして私はハッピーになるのよ、と輝いている。

そして、彼女はゆっくりと、優しく塩むすびを手にとった。その手はとてもしなやかで綺麗だった。

僕は不覚にも胸がキュンとした。

その綺麗な手から、優しい動作で選ばれたのは、塩むすびだったのだ。

僕は塩むすびを自分に置き換えた。これはこの女性にこの塩むすびのように優しく触れられたいという、変態の妄想では決してないことを皆様に強く伝えておかなければならない。

僕はおにぎりに例えたら塩むすびなのだと、そう思ったのだ。これといって特徴がなくて、中身を開けてみたら何も入っていない。具なしだ。要はつまらない人間なのだ。女性と付き合っても具なしだとバレてすぐに振られる。それでも、米本来のありのままの美味しさを、僕自身のありのままを受け入れられたい。少ししょっぱい塩が、ただの塩だと思われたくない。僕の塩は特別で、僕の中でしかとれない味だと思われたい。

誰かがこんな僕を選んでくれるという事実は、本当に奇跡だということを忘れてはならない。だから恋愛は上手くいかなくて、苦しくて、その分、一緒になれたときの喜びはこの上ないものなのだ。
奇跡のもとで僕たちは愛しあっているのだ。


変態の僕はキュンとしている間にその女性を見失った。彼女が、塩むすびをカゴに入れて、レジまでしっかり運んで、ちゃんと食べたのか定かではない。もしかしたら、途中でチャーシューマヨおにぎりに変えたのかもしれない。

それでも、彼女が「結局これなんだよね」と言いながら食べてるところを妄想して、僕は味の濃いコンビニ弁当を買って家に帰った。

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