車通勤じゃない人は初めてですね。

新しい店長は堤真一みたいな顔でぼそっとそう言った。そう、車を持っていないということ、そして車の運転に恐怖心があるという事実が僕にとって、男として価値を下げているのではないかというコンプレックスだった。
男に望まれるものに車と運転があると思う。いい車に乗っていればそれはお金を持っていることをすぐさま示し、例えいい車に乗っていないとしても、車の運転は求められる。そもそもの話車がないと生活が厳しい。
デートの待ち合わせなどは必ず駅になるし、相手女性が普段から運転してるとなるとすぐにいたたまれなくなって情けなくなる。
貧困だから車を持っていない。それだけのせいにしたいけれど、本当のことを言うと車の運転がこわいのだ。
二十歳で免許を取った。理由は大学生で取る人が多く、免許証があると身分を証明するのに最強だと聞き、その流れに乗った。運転は苦労したが、一発で免許を取ることができた。
それから車を運転したのは今日まで30回もないかもしれない。仕事のクレームでお客さんの家まで運転したことが何回かある。普段運転しないのに、さらに知らないところへ行く。すごくこわくて、何度も事故を起こしそうになった。レンタカーを借りて友達と旅行をしたこともあった。地理的な理由で自分が車を借りて友達を迎えに行くことになったのだが、その道中、住宅街の狭い道でミラーを擦った。楽しい旅行の前に凹んでは友達に迷惑だと思って、気を取り繕って旅行をした。
車幅感覚などは回数を重ねれば慣れるにしろ、あのスピード感で瞬時に安全な判断をできる自信がない。おじいさんもおばあさんも運転しているので慣れたらきっと簡単なのだろうと思う反面で、慣れた人も簡単に事故を起こして、亡くなったり、人身事故を起こしてしまっている。その事実がものすごくこわい。
僕は運転したら駄目なタイプの人種なのだと思ってしまう。

車が欲しい。自由に色んな所に行きたい。好きなキャンプギアを積んでキャンプに行きたい。好きな人とコストコとかIKEAに行きたい。

自分のスマートフォンの中にある歩数計を見て、流石に歩きすぎていると思った。もう休ませてあげたい。

ジェンダー的なコンプレックスはたくさんありますが、自分みたいな人間の感情を優しく包みたいといつも思っています。自分に似たような誰かの為に僕は生きています。最近強くそう思います。

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