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「ここならやってみたいお菓子作りができる」パティシエが見出す福井の可能性【前編】

福井県の北部、あわら市・坂井市にまたがる坂井北部丘陵地。年間を通してフルーツの生産が盛んで、フルーツラインと呼ばれる道路があるほど。そんな果物の恵みを享受したお菓子作りがしたいと坂井市三国町に移住したのは、島根県出身の細田窓可(まどか)さん。製菓の世界でキャリアを積んだ細田さんが福井にやってきた理由は何だったのでしょうか。

細田窓可さん
島根県出身。高校卒業後、調理・製菓が学べる辻調グループの学校に進学。フランス留学で培った技術をもとに、国内のさまざまなホテル・店舗でパティシエとして勤務し、辻調グループの教員として学生の指導にあたる。2023年2月に福井に拠点を移し、現在はフリーランスのパティシエとして活動している。

「パティシエになりたい」きっかけはひとつのクッキー

パティシエとして長年さまざまなお菓子を作る細田さん、
まずは製菓の世界に入ったきっかけから伺います。

細田窓可さん

細田さん:小さい頃、お菓子といえば母親の手作りしたものでした。もともと母親が趣味でお菓子を作っていて、小学校にあがるまでスナック菓子などを食べたことはなかったですね。

パティシエになりたいと思うようになったのは、中学生の時に参列した叔父の結婚式。結婚相手が栄養士の資格を持っていて、式の最後に手作りのクッキーをくれたんです。そのクッキーがすごく美味しくて作り方を電話で聞いたのですが、同じようにできませんでした。

お菓子ってなんでこんなに難しいんだろう? 材料は同じでも、焼き方や材料の混ぜ方ひとつで変わってしまう。そこがすごく面白いと思ってこの世界に入ってみたいと思うようになりました。

料理の東大「辻調」へ。パティシエとして研鑽を積む

細田さんは調理師の資格が取れる地元の高校に進学。
さらに製菓のことを学びたい気持ちが高まり
高校卒業後は日本で唯一調理・製菓のフランス校を持つ
辻調グループ(以下、辻調)に入学し、上京します。

細田さん:厳しい世界でしたね。厳しかったですけど、それ以上に学ぶことが面白くて。料理界の東大といわれるだけあり、高いレベルで勉強できるし、島根の田舎から出て、東京で見るものは新しいものばかりでした。同じような気持ちを持っている仲間とも出会い、一緒にお菓子の話をしたり、時には本気で議論したり切磋琢磨するのも楽しかったです。

フランスには必ず留学したいと思っていたので、東京ではアルバイト先の寮に住み込み、働きながら学校で学ぶ生活でした。アルバイト先は横浜のホテル。カフェやパティスリー部門で勉強させてもらいながらお金を貯めていました。寝る時間は仕事が終わってからの数時間と通勤の1時間。でも学校の授業では絶対に寝たくないので、いつも昼休みは昼食をとるというより、貴重な睡眠時間でした。


フランスで感じた日本との違い

その後、フランス留学を果たした細田さん。
お菓子の本場ではどんなことを感じたのでしょうか。

細田さん:一番驚いたのは、食材の圧倒的な違いですね。例えば日本のイチゴはジューシーですがフランスのイチゴは食感がしっかりしていて香りや酸味が強い。日本ではハウス栽培が主流ですが、フランスは日が当たる地域なので路地栽培のフルーツが多いんです。

あとはバターや粉も違います。フランスパンを食べたらわかりますが、基本的に皮まで挽いた粉を使っているので、噛めば噛むほど旨味が出てくるんです。

フランス留学時代の細田さん

細田さん:留学期間中は約半年学校で学び、そのあと研修として現地のお菓子屋さんやレストランで働くのですが、いかにフランス人と対等に仕事できるかを考えていました。

フランスではシェフやパティシエだけでなく、お皿を洗う仕事にも専門職があるんです。自分たちの仕事に誇りを持ち、お互いがひとりの人間としてリスペクトし合ってるのがいいなと思いました。

その分、自分の仕事にも責任を持っています。日本はある意味チーム制で、誰かの仕事が終わらなかったらみんなで手伝いますが、フランスでは「だってそれが君の仕事でしょ。終わらなかったら終わるまでがんばりなよ」という感じ(笑)。さまざまなシーンで日本とフランスの違いを感じました。

仕事の厳しさを味わう一方で、フランスならではの
あたたかさも感じたといいます。

細田さん:とあるレストランでの研修で、スタッフの方から「日本に帰りたくない?お父さんやお母さんに会いたくない?」って聞かれたんです。勉強しに来てるわけですから、「特に寂しくないよ」と答えたらすごくドライだねって言われて。

フランスの人たちは家族を大事にしていて、週末は片道3時間かけてお母さんのご飯食べに実家に帰るとかは当たり前。家族と過ごす時間をとるために週末お店を閉めるところも多いんです。今までそんな考えはあまりなかったけど、家族を大事にしなきゃなと思いました。それまで全然寂しくなかったのに、そのやりとりからちょっと日本が恋しくなりましたね(笑)。

偉大なフランスの三つ星シェフ、ポール・ボキューズ氏と

「作る」から「教える」にシフト。教員の道へ

約10ヶ月の留学を終え、帰国した細田さん。
その後、横浜のフランス菓子店で働いていましたが、
ハードな勤務が続き、身体を壊してしまいます。

毎日粉やバターにふれていたいと思うほど
お菓子づくりは大好き。
でも同じ働き方ではまた身体を壊してしまう。
そこで25歳の時に、辻調の教員という
新たなキャリアを歩み始めます。


細田さん
:まずはベテラン教員の助手として、材料の準備や授業のサポートをする仕事からはじまりました。これまで働いていたお店でもシェフの仕事がスムーズに進むように万全の準備を整えていたので、やりがいがありましたね。その時は、「辻調でナンバーワンの助手になる」というモチベーションで頑張っていました(笑)。

その後、直接学生を指導するようになり、学生のできない部分を見つけて導くことや、チームワークの大切さを伝えることなど、少しずつ目線が変わっていきました。今の若い子は怒られ慣れてないので、注意ひとつするのも難しかったですね(笑)。時には厳しく接するけど、「ちゃんとあなたのことは見てるよ」というスタンスを大切にしていました。

その後、辻調の教員として渡仏し、
フランス校の運営にも携わった細田さん。
コロナ禍で社会が大きく変化するなか、
自身の働き方を見つめ直すことになります。

後編へ続く


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