見出し画像

初市の宝船 解体作業見学 (1/2)

 2021年9月18日(土)、松本市立博物館本館1Fで展示されていた「初市の宝船」の解体作業を見学しました。

 この解体作業は、宝船及びそれに乗る七福神人形の修復と、令和5年度(2023年度)に移転オープンする新博物館への移設に向けて行われたもので、当初は一般市民を対象とした見学会が企画されていましたが、コロナ禍のため、博物館の関係者と本町五丁目の皆さんのみが参加するかたちとなりました。

 記事が長くなってしまったので前編と後編に分けています。
 前編の今回は初市の宝船に関するの記事です。

宝船について

 この宝船は本町五丁目が初市での練り物として作ったもので、今回解体修復されるものは明治22年(1889)頃に製作され、その後平成5年(1993)6月に博物館に寄贈されました。

画像1

2020年10月撮影 初市の宝船

 長さ5m、幅2m、高さ4mで、船には七福神人形が乗っており、平成7年(1995)に市の重要有形民俗文化財になっています。

 宝船には様々な装飾や彫刻があしらわれています。
 船体は漆塗りで、舳先には堂々とした龍頭※の彫刻がされています。

※龍頭「りゅうとう」と読んで欲しいです。「りゅうず」だと時計になっちゃうので(汗)

 船側面にも丁寧に彫刻が施され、船全体は力強い波が彫刻された台座に乗っています。

画像2

2021年9月撮影 解体作業で外された帆と旗

 船には「本五」(本町五丁目の意味)、「寶」(宝)の字が染められた大きな帆と赤い旗が立てられており、帆には吉祥文様である、宝珠、七宝、打出の小槌、宝鑰(ほうやく、富の象徴)、丁子(ちょうじ、香辛料のクローブ。貴重な薬)、隠れ笠、隠れ蓑、サンゴが刺繍されています。

 船は主にほぞ接ぎ等、釘なしで組立てられていますが、一部釘が使用されている場所もありました。後世の補修の跡なのかもしれません。

 初市での本町五丁目の宝船は、天保6年(1835)の『市神祭之図』に描かれていますが、『市神祭之図』の宝船と、この宝船は同じものではありません。
 元治2年(1865)に起こった博労町の大火によって絵図の宝船は失われてしまい、冒頭に書いたとおり、この宝船は明治22年(1889)頃に製作されたものです。
 後編で書きますが、宝船を再建するにもタダではできません。本町五丁目の心意気と町の賑わいを伺わせますね。

蓑亀(みのがめ)

 船の左右脇には、長寿の象徴である1対の亀の彫刻が置かれています。

画像3

 この亀の甲羅には長い毛が生えています。この毛は甲羅についた藻が生長したものとされ、藻が毛のように長く、蓑(みの)のようになる程の年月を生きている亀とされ、蓑亀(みのがめ)と呼ばれています。

 蓑亀は長寿を表す縁起物なのですが、この亀、よく見ると、首や手足に龍のようなウロコがあり、牙や爪まであります。単なる亀ではなく龍も合体した縁起物x2倍の蓑亀、龍亀(ロングイ)になっています。龍亀は風水で財をもたらすとされています。

七福神人形

 最近はしないと思いますが、正月に七福神の乗った宝船の絵を枕の下に敷いて寝ると縁起の良い初夢を見られるという話がありますよね。そのため、宝船といえば七福神というイメージがありますが、この七福神人形は宝船とは時間をおいて別に作られました。

名称未設定

2020年10月撮影 宝船に乗る七福神人形

 実際、先述の天保6年(1835)の『市神祭之図』には人形が描かれていません。人形の収納箱には「弘化四未年正月」(1847)の墨書銘がある[1]そうなので、その頃に作られたのでしょう。

 七福神人形は、宝船を焼いてしまった元治2年(1865)の大火を逃れたものの、博物館に寄贈された際には七福神の1体、布袋が失われていたそうで、実質六福神の状態で保管、公開されていました。

初市について

 初市は、現在あめ市(飴市)と呼ばれる新春イベントで、毎年1月10日頃の土日に開催されています。
 松本市では真夏に行われる「松本ぼんぼん」と並ぶ大変賑やかなお祭りですが、昨年は新型コロナウィルス感染症の影響を受けて中止となりました。

 初市は正月の初売りの色合いが濃いお祭りで、商人の町である本町、中町、伊勢町が中心で行われます。
 本町は、北は女鳥羽川の千歳橋(江戸時代には大手門枡形)南詰の一丁目から、南は緑橋までの五丁目まであり、松本城下の町役人の責任者(大名主、おおなぬし)も置かれるなど、親町と呼ばれる賑やかな町の一つでした。

 また、初市では神事も行われ、神輿渡御(みこしとぎょ)といって、本町五丁目の皆さんが七福神人形を乗せた宝船を引張って練り歩きました。関係者によると、この宝船は昭和10年(1935)頃まで初市に用いられてきたようです[1]。

 松本の初市については、市民学芸員講座のテーマであったので自分なりに色々調べましたので、改めて記事にまとめたいと思います。


 つづく後編では、実際の解体作業を中心に書きたいと思います。

参考文献

[1] "初市の宝船・七福神人形". 松本市. (cited 2021.9.20)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?