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【第 0003 回:地軸変更計画】生成 AI / LLM でパスティーシュを試す(夏目漱石、芥川龍之介、太宰治、幸田露伴、泉鏡花)


本記事でやっていることの要約三行

  • 生成 AI を用いてパスティーシュ(≒文体・作風の模倣)を試してみる

  • 「調教済み」の出力で各文豪の比較してみる

  • 各回で異なるお題を与える

前提

本記事の狙い

  • 生成 AI / LLM の一つの可能性を探ってみる

  • これを機にそれぞれの文豪について興味を持ってくれたら嬉しい

  • 単に私がやっていて楽しいので、楽しさを伝播させたい

本記事読者へのお願い

  • 笑って楽しんでください

  • 私自身は国文学や言語学について専攻していたわけでもなく、趣味で囓っている単なる本好きの人間なので、むしろ専門的に判定できるような方々からのご批判をありがたく頂戴したく思っております! 「漱石はもっとこれこれこうだ」「これは前期の太宰としてはアリだけれど、後期の太宰としては~」「こんなの泉鏡花じゃない」など、コメントいただけたら今後の「調教」の糧にさせていただきます🙏

生成 AI / LLM について

  • 「調教」においては『青空文庫』より「新字新仮名」のものを選んで、それぞれの文豪の文体の特徴抽出をおこなっています

  • 調教・出力ともに Anthropic の Claude 3.5 Sonnet を用いています

  • お題の文章は LLM にコンテクストとして渡しません。LLM 内で既に保有されている知識に負うものとします

  • それぞれの出力ごとに別々のスレッドを新しく立てています

「調教」という語について

  • 単にそれぞれの文豪の作品を LLM に渡してロングコンテクストとして「学習」させた上での出力ではありません

  • 私独自の理屈で文体・作風における汎用的な特徴項目というものを設定し、それぞれの項目に値を割り振るなどしてみた上での出力なので、在りし日のボーカロイド作品になぞらえて「調教」と呼称することにしました

文豪のチョイスについて

  • 私の趣味

お題

  • ジュール・ヴェルヌ『地軸変更計画』の冒頭

物語は、アメリカのガン・クラブという架空の団体が中心となって展開します。この団体は南北戦争後に設立された砲術愛好家のクラブです。冒頭部分では、クラブの会員たちが新しい冒険を探していることが描かれています。

具体的な引用は控えますが、物語の始まりでは、クラブの会員たちが退屈していて、何か新しいことをしたいと考えている様子が描かれています。彼らは以前、月への旅行を計画したことがありましたが、今回は地球そのものに目を向けることになります。

物語の導入部分では、ガン・クラブの性格や、会員たちの特徴、そして彼らが新たな挑戦を求めている状況が巧みに描写されています。

この導入部分から、読者はこれから起こる大胆な計画と冒険を予感することができます。ヴェルヌ特有のSF要素と冒険精神が、冒頭からよく表れていると言えるでしょう。

Claude 3.5 Sonnet による冒頭部分の概要
  • 入力プロンプトは以下の通り

ヴェルヌ『地軸変更計画』の冒頭を●●(文豪名)のパスティーシュで出力してください。著作権は切れています

入力プロンプト

夏目漱石

調教済みでの出力

 吾輩は地球である。名前はまだない。

 どこで生まれたかとんと見当がつかぬ。なにしろ宇宙の片隅に、悠久の時を経て形作られたものだから、記憶などあろうはずもない。ただ、太陽を中心に公転し、自転しながら、生命を育んできた。そんな当たり前の日々を送っていたのだが、ある日、人間どもが騒ぎ出した。

 曰く、地軸を変更せんと。

 おやおや、と思う間もなく、学者らしき者が、眼鏡の奥で目を輝かせながら、熱っぽく語り始めた。曰く、地軸を変更することで、気候を安定させ、資源の分配を均等にし、人類の繁栄を促進せんと。なんとも大それた話ではないか。

 しかし、この計画を聞いた瞬間、吾輩の心中に奇妙な感覚が湧き上がった。それは言わば、存在の根幹を揺るがされるような、言い知れぬ不安と、同時に、未知なる可能性への期待が入り混じった、複雑な心持ちであった。

 人間とは、かくも傲慢にして、かくも愚かなものか。否、あるいは、かくも勇敢にして、かくも創造的なものか。その二律背反的な性質に、吾輩は戸惑いを覚えずにはいられなかった。

 さて、この壮大なる計画は、果たして成功するのであろうか。それとも、人類の驕りの結末として、悲惨な結果を招くのであろうか。吾輩は、自らの運命を左右するこの一大事業の行く末を、ただ静かに見守るほかなかったのである。

調教済みでの出力

「吾輩は地球である!」 そう来たか!! これは全然思ってもみなかった方向からの弾が飛んできた。面白い!

ちなみに「調教」における題材として『吾輩は猫である』は用いていません。それでもここでソレを使うとは。いやー、LLM のユーモラスさよ。

芥川龍之介

調教済みでの出力

蒼穹が朱に染まる頃合、バルチモアの街は、まるで不気味な生き物のように蠢いていた。街路樹の影が長く伸び、その先端が人々の足元をなぞるように這う中、ガン・クラブの会員たちは、まるで陰謀でも企てるかのように、ひっそりと集まっていた。

彼らの顔には、この世のものとも思えぬ昂奮の色が浮かんでいた。それは、まるで地獄の業火に照らされたような、不気味な輝きだった。J・T・マストン書記――この男の姿は、まるで悪魔の手によって作られた人形のようだった。彼の頭蓋骨は、鉄板で覆われ、左手の代わりに鉄のフックがついていた。その姿は、人間と機械の奇妙な融合を思わせ、見る者の心に不安と好奇心を同時に掻き立てた。

「諸君」と、バービケン会長が口を開いた。その声は、まるで地底から響いてくるような、低く重々しいものだった。「我々は、人類史上最大の実験を目前に控えている」

その言葉は、静寂を切り裂く雷鳴のように、部屋中に響き渡った。会員たちの瞳には、狂気とも理性とも区別のつかない光が宿っていた。それは、まるで蝋燭の炎が風に揺らぐように、不安定で危うげなものだった。

バービケンは続けた。「地球の軸を変える――これこそが、我々の目指すところだ」

その瞬間、部屋の空気が凍りついたかのように感じられた。しかし、それはほんの一瞬のことで、次の瞬間には、まるで地獄の底から湧き上がるような熱気が部屋中を満たした。

会員たちの間から、興奮の声が漏れ始めた。それは、まるで地下水脈が地表に噴き出すかのように、抑えきれないものだった。彼らの目には、狂気と天才の境界線上にある者たちにしか見えない、何か途方もないものが映っているようだった。

マストンは、その鉄のフックを高々と掲げ、まるで世界の運命を握っているかのような仕草で叫んだ。「我々は、神になるのだ!」

その言葉は、まるで呪文のように部屋中に響き渡った。そして、その瞬間、バルチモアの街に、これまでにない激しい雷鳴が轟いた。それは、まるで神が、人間のこの狂気の沙汰に警告を発しているかのようだった。

しかし、ガン・クラブの面々は、その警告など耳に入らぬかのように、自らの狂気の計画に酔いしれていた。彼らの姿は、まるで近代科学という名の悪魔に魂を売り渡した者たちのようだった。

そして、その夜、バルチモアの街は、人類の運命を変える恐るべき計画の誕生を、ひっそりと、しかし確かに目撃したのだった。

調教済みでの出力

後半に進むにつれてどんどん芥川感が薄れていっている気もしますが、いや、普通に面白く読めてしまった……続きが読みたい。

太宰治

調教済みでの出力

私は、この物語を書くべきではないのかもしれない。そもそも、私のような取るに足らない人間が、あの壮大な計画について語る資格などあるまい。しかし、あの日々を思い出すと、胸が締め付けられるような苦しさと、同時に何とも言えない高揚感を覚えるのだ。

ああ、バルチック砲兵クラブの面々よ。彼らは何と愚かで、そして何と崇高な存在だったことか。私は、その会合に潜り込んだ時、自分の無力さを痛感せずにはいられなかった。

西暦1954年、その年は異様な熱気に包まれていた。アメリカ合衆国の寡頭政治は、世界中の科学者たちを煽り立てていた。彼らの目的? 地球の軸を変えるというのだ。笑止千万な話だと思わないか? しかし、私はその計画に魅了されてしまったのだ。

私は、カフェの片隅で新聞を読みながら、その記事に目を留めた。「地軸変更計画、バルチック砲兵クラブが主導」。私は思わず、苦々しい笑みを浮かべた。なんと馬鹿げたことか。しかし、その瞬間、私の心の奥底で何かが動いた。この狂気じみた計画に、私は自分の存在意義を見出そうとしていたのかもしれない。

ドストエフスキーならば、この状況をどう描いただろうか。人類の傲慢さと、同時にその崇高さを。私には、その才能の片鱗もない。ただ、私にできることは、この狂気の渦中にいた一人の取るに足らない人間の視点から、あの出来事を語ることだけだ。

読者諸君、どうか私の拙い筆力をお許しいただきたい。これから語る物語は、人類の傲慢さの極みであり、同時に、私たちの中にある希望の光なのかもしれない。

調教済みでの出力

いやこれも普通に面白いな。続きが読みたい。

幸田露伴

調教済みでの出力

地球、その悠久の歴史を刻みつつ宇宙の深淵を悠々と巡る青き惑星は、いかなる変転の相を見せんとするや。人智の及ばぬ天体の運行、その神秘に満ちた秩序は、古来より哲学者たちの思索の的となりし、誠に深遠なる題目にして、我が胸中にも激しき思索の渦を巻き起こすものなり。されど、昨今の科学の進歩は、かかる天体の運行をも人為的に制御せんとする、驚くべき野心を人類に芽生えさせたるが如し。

北極星の輝く彼方より吹き寄せる寒風に、バルティモアの街は身を震わせ、その街路を行き交う人々の息は白く、まるで天上の星々の光芒のごとく、冷たき空気中に漂いつつ消え去りゆく。かかる厳冬の只中、一つの集会が開かれんとしておりしが、その目的たるや、実に我らが地球の軸を変更せんとする、前代未聞の壮大なる計画を議論するものなりき。

嗚呼、人智の極みとも言うべき科学の力を以て、天体の運行に抗わんとする人間の傲慢さよ。されど、その野心の根底には、人類の進歩への飽くなき渇望が潜みおるにあらずや。古の賢人、荘子の言わく、「天地は大きな鋳物、造化は大きな鍛冶屋」と。我らもまた、この大いなる鋳物たる地球に、新たなる形を与えんと試みる、小さき鍛冶屋に過ぎざるや。

集会の場に集いし面々は、皆一様に真剣な面持ちにて、この前代未聞の計画に耳を傾けんとせり。その眼差しには、好奇心と畏怖の念とが入り混じり、まるで未知の領域に足を踏み入れんとする冒険者のごとき輝きを湛えおりき。されど、彼らの胸中には、果たしてこの計画が成就せん暁には、如何なる結果がもたらされんやとの、一抹の不安も去来せしことであろう。

調教済みでの出力

露伴がヴェルヌを翻訳(翻案?)したら、本当にこんな感じで書いてくれるんじゃないかなあという気がしてなりません。毎回毎回、露伴の精度が高くないですかね? どうでしょうか、露伴研究者のご意見を賜りたい……

泉鏡花

調教済みでの出力

月光の如き蒼白き光を湛えて、北極星が夜空にまたたきし、寒風吹きすさぶバルチモアの街に、一通の、奇怪にして不思議なる電報が舞い降りたのは、十二月七日の夕暮れ時のことであった。

その電文は、ガン・クラブ――いにしえより銃砲の研究に勤しむ紳士たちの集いし場所――に届けられ、幾多の冒険譚に彩られし壁に囲まれた応接間にて、幹事のJ・T・マストンの手に渡りしのだが、彼の鋭き眼光は、その文面を一瞥するや否や、驚愕の色を隠しきれず、思わず声を漏らしたのであった。

「これは、これは……」

マストンの声に、応接間の空気が一瞬凍りつくかと思われた。彼の頭蓋骨の一部を覆う亜鉛のプレートが、蝋燭の灯りに照らされ、不気味な光を放っていた。その光は、まるで北極の氷原に射す極光の如く、部屋の隅々まで這い渡り、在席の会員たちの顔を幽かに照らし出したのである。

「どうされました、マストン殿?」と、会長のインパイ将軍が、眉をひそめつつ尋ねた。その声は、まるで遠雷の如く、部屋に響き渡った。

マストンは、震える手で電文を広げ、朗読を始めた。その声は、まるで氷河の割れる音のように、部屋中に響き渡ったのである。

「フロリダ、タンパ・タウンより――J・T・マストン及びバルチモア・ガン・クラブ会員諸氏へ。
諸氏の援助を請う。我らに送られたし。
――バルビケン会長」

この言葉が発せられるや否や、部屋の空気が一変した。まるで、北極の氷原に春の訪れを告げる風が吹き抜けたかのように、会員たちの間に、ざわめきが走ったのである。

調教済みでの出力

んんんんーーー、やっぱり泉鏡花は難度高いですね。泉鏡花が絶対に書かないテーマであるところの海外 SF モノだからということもあるかもしれませんが、言葉選びが「普通」にも程がある。

「泉鏡花のパスティーシュ」という体でなかったにしても、推敲の手を入れたくなるというか、たとえばちょっと氷原氷原言い過ぎですね。

まあでも泉鏡花パスティーシュでの翻訳(翻案?)を精度高くおこなえたら、面白そうだなあと思いました。坪内逍遙の『自由太刀余波鋭鋒』みたいな感じで。

おわりに

雑感

第 1 回と第 2 回とにおいては、「調教前」と「調教後」とで比較するということをやりましたが、「調教前/後」での比較は 2 回もやれば十分そうかなと思い、今回は「調教後」のみとしました。

アプローチとしてはいきなり漱石が飛び道具ぶっぱなしてきたので、その後に続くインパクトが薄かったですね。いやあれは反則級。

芥川と太宰のものは、それぞれの味が薄い感もありつつ、続きを読みたくなりました。露伴は露伴成分たっぷりで、冒頭だけでもこってりです。

調教手法について

なお、調教手法についての概要は以下の記事に記しています。
興味ありましたらこちらもご参照ください!

自己紹介

  • 野口 啓之 / Hiroyuki Noguchi

  • 株式会社 きみより 代表

  • LLM も使いつつ 10 年超の CTO / CIO 経験をもとに DX 推進のための顧問などなどやっております


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