この街のどこかで
進むことで、見えなくなるものがある。
大事にしてきたなにかを置き去りにしてしまうような、私にとってはすこしさみしい。
人生、決められたラインからはみ出ることばかりだった。
学校には思うように行けなかったし、行けないことで勉強の仕方もわからなくなった。苦しい出来事が沢山あり、周りと考えが合わないことも多々あった。社会人になり周りのみんなが必死に仕事を頑張っているとき、私は仕事に行けなかった。結果、すぐに退職した。
今でも苦しくて胸が締め付けられるような感情だけが私の中に残っている。
過去のことを過去だと割り切れたのはつい最近のこと。それは自分が前を向いた瞬間でもあった。
これだけは言える。人の傷は癒えることがあっても、消えることは絶対にない。だから簡単に「前を向いて」なんて、人には言えない。言ってはいけない。
順調に歩んでいるようで、順調に進んでいるようで。
誰かからそう見えたとしても、その人の努力や大変さなんて目には見えない。頑張ってきたことも、大変だったことも、自分にしかわからない。逆に言えば、自分だけが大事にできること。自分だけが認めてあげられること。
なにかが変わったように思えて、もしかしたら、なにも変わっていないのかもしれない。
自分が進むとき、人は、ちょっとさみしくなるんだと思う。
身近な誰かが進んでいるときも、人は、ちょっとさみしくなるんだと思う。
春は、そういうもの。
そういう気持ちを抱きしめながら、一緒に生きていくものなんだ。
この街のどこかで。
CHIHIRO