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トピックス(小説・作品)

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素敵なクリエイターさんたちのノート(小説・作品)をまとめています。
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2019年7月の記事一覧

DIC川村記念美術館

  美術展に出向いたり、地方の美術館に行くようになってから約2年。作品を観るとき、その作家の別の作品と比較して鑑賞するようになりました。   DIC川村記念美術館に行ってきました。東京駅から直通バスに乗ると、平日のせいかガラガラ。ゆったりした座席で約70分、快適でストレスなしの小旅行です。   高速道路を降りると、長閑かな風景の中に静かで整備された場所が出現します。到着です。バスを降り庭園に入っていくと、奥に佇むムーミン村を思わせる建物が美術館でした。   マイヨールが

互い咎の処方 13話(エピローグ)

作品情報 https://note.mu/sowano/m/m45bec0c01b32 1話 ◇◇◇  喫茶店の奥の席で、薫は女性と向かいあっていた。女性の前には平凡なブレンドコーヒーが、薫の前には巨大なグラスにソフトクリームやチョコチップ、フルーツなどが満載された豪勢な飲み物が鎮座している。 「彼、困ったちゃんなの」薫はストローの包装紙をいじりながら言う。「私を負かせられたら、なんだって良いんだって」 「……そのためにあなたをおとりにして、危険な目に遭わせた?」話の相

互い咎の処方 12話

作品情報 https://note.mu/sowano/m/m45bec0c01b32 1話 https://note.mu/sowano/n/nf8615209be2f  ◇◇◇  しばらくの間、薫の足は正座した後のようにしびれていた。よろめきながらもベランダを見上げる。執一が、自分を見下ろしていた。  当然彼も自分に続いて降りてくるものだと思っていた。だが――  執一は、背後を振り返り、部屋の中に引き返していった。  そして、そのまま彼はベランダに出てこなかった。

互い咎の処方 11話

作品情報 https://note.mu/sowano/m/m45bec0c01b32 1話 https://note.mu/sowano/n/nf8615209be2f *** 「さてと、みんなそろったね」薫が言う。「見たよね、あれ」 「……」美紀は不安そうな顔でうなずく。 「あの、頬がべろんと――ああ……嫌だ嫌だ」気味悪そうに悦子さんは自分の腕を抱く。 「人間の皮をマスクのように被ってたよね?」 「……ああ」ぼくはうなずく。「剥がれた皮膚の下に、明らかになにか、シ

互い咎の処方 10話

作品情報 https://note.mu/sowano/m/m45bec0c01b32 1話 https://note.mu/sowano/n/nf8615209be2f *** 「……どういうことだ」ぼくは言う。「なぜ、犯人の藤山さんが死んでるんですか」 「犯人?」と聞き返してくるメンバーに対して、ぼくは、藤山老人がホテルに殺人を目的とした罠を張っていたこと、それを日記に記していたこと、娘である江能さんとグルであったことを説明した。 「娘?犬の女性がかね?」 「そう

互い咎の処方 9話

作品情報 https://note.mu/sowano/m/m45bec0c01b32 1話 https://note.mu/sowano/n/nf8615209be2f ***  階段を下りると正面に玄関があり、隣に談話スペースがある。食堂とキッチンは左側に。藤山老人の部屋は、その反対側――右側の廊下の一番奥に位置していた。  まず、ぼくは食堂を覗いてみる。薫と他の宿泊客たちが揃って食事をとっている。藤山老人の姿はない。となると、行き先は二階の客室か、外か、自分の部

互い咎の処方 8話

作品情報 https://note.mu/sowano/m/m45bec0c01b32 1話 https://note.mu/sowano/n/nf8615209be2f *** 「やあどうも」  階段を下りたぼくと薫を出迎えたのは、秀二さんと悦子さんだった。二人は、階段を下りて左手にある、食堂の前に立っていた。 「こいつが眠れないっていうもんだから。仕方なく、早く降りてきたんだよ」秀二さんが言う。 「なにを恩着せがましく。あなただって、緊張でげーげー吐いてた

互い咎の処方 7話

作品情報 https://note.mu/sowano/m/m45bec0c01b32 1話 https://note.mu/sowano/n/nf8615209be2f ***  武広さんを拘束しバリケードを築いたぼくたちは、それぞれの部屋に戻った。犯人らしい人物を捕らえても、やはり完全には安心できないということだろう。  ぼくと薫は外に出て、絵美さんと武広さんの部屋の真下を調べることにした。スマートフォンのライトで地面を照らしてみる。上から見たとおり、ベランダ

互い咎の処方 6話

作品情報 https://note.mu/sowano/m/m45bec0c01b32 1話 https://note.mu/sowano/n/nf8615209be2f ***  美紀とマスオさん、そして西村夫妻は、部屋の外に出た。  部屋の中にいるのは、ぼくと薫。腰を抜かして動けなくなってしまった藤山老人。そして、死亡した絵美さんの恋人、武広さんだった。  武広さんは、どうやら絵美さんの首がなくなる瞬間を見てしまったようだった。先ほど聞いた悲鳴は、武広さんのもので

思木町6‐17‐4(2)

    南向き、日当たり良好な世界  「ミナ!」チッチが出したパスを受け、ディフェンスをかわして両手でレイアップシュートを決めた。試合終了――梅ノ山中学校との練習試合は、52対33でわたしたちが勝った。わたしはこの試合、32点を挙げる活躍をした。  試合の帰り、梅ノ山駅の時計を見ると四時五十分になっていた。ジャージを着ている女子バスケットボール部の皆とわいわいがやがや、プラットホームで列車が来るのを待っていた。一年生のかどちょんがわたしに話しかけた。 「三奈先輩、かっこよか

思木町6‐17‐4(1)

  (無題)  防音で空調完備の「部屋」があるとする。「部屋」は閉ざされていて、窓が無い。そして温度、湿度を一定に保った状態とする。温度23℃、湿度55%というところかしら。周りの音も聞こえず、景色も見えず、振動も伝わらない。降っても晴れても、雷が落ちても「部屋」の中からは分からない。つまり「部屋」は外界の影響を離れ完全に独立し、逆に言うと「部屋」の中から外界の変化を知る術は無い。  あなたがこの「部屋」で生活を始めたとする。「部屋」から一歩も出ず、「部屋」の中のこと以外は

【小説】僕のファルマス滞在記:第三章

第三章:はじめてのおつかい 一、セメトリーに入ると、「彼ら」の姿は僕の目により鮮明に映ってきた。塀の外からは青白い影が無数にうごめいているようにしか見えなかったため、恐ろしいと感じるよりほかなかった。しかし、近くでまじまじと観察してみると、輪郭が透けているという点を除けば、各人が人間と違いない容貌をしていることが分かった。目の周りが黒いとか髪がやたらに長いとか、流血しているとかいった、ホラー映画で描写される姿とはかけ離れたものだった。服だってちゃんと着ていた。そう、彼らはれ

「コーヒー」と書けなかった時代

変な話になるけれど、カタカナで「コーヒー」と書くことができなかった時代があった。多分、高校時代くらいから始まって、収まってきたのがつい最近のことなので、十五年くらいはそんな症状に悩まされていたようだ。 学生の頃に発症というと、当時は英語の授業で「coffee」を和訳する機会も多々あったはずだが、それはあまり問題なかった。困ったのは、日記や創作物などで自分の文章を書くときだった。そういうときに「コーヒー」、つまり大人の飲み物の代名詞の名称を、ほとんど子供の分際で書いてみせると

【牧水の恋の歌①】「樹蔭」

海見ても雲あふぎてもあはれわがおもひはかへる同じ樹蔭(こかげ)に  若山牧水  作者は旅の途中なのだが、海を見ても、雲をあおいでも、思いは「同じ樹陰」へ帰っていくという。そんなにも特別な樹陰とは、きっと愛しいひとと語らい、時を過ごした場所に違いない。  海の遥かさ、雲の高さが、一首をスケールの大きなものにしている。心に翼が生えて、悠々と飛んでいく感じだ。しかも、その移動は、道のりだけでなく、時間をもさかのぼる。あの日あの時あの場所へと心が向かう。  どこにいても何をして