【読書感想】暗いところで待ち合わせ(著:乙一)


視力をなくし、独り静かに暮らすミチル。職場の人間関係に悩むアキヒロ。駅のホームで起きた殺人事件が、寂しい二人を引き合わせた。犯人として追われるアキヒロは、ミチルの家へ逃げ込み、居間の隅にうずくまる。他人の気配に怯えるミチルは、身を守るため、知らない振りをしようと決める。奇妙な同棲生活が始まった――。書き下ろし小説。

幻冬舎より

表紙が怖い感じだが、読後感が爽やかな純愛小説。
『人は孤独では生きられない』というのが作品のテーマの一つだと思う。
自分のことを理解してくれる人が居るはずがない、と半ば諦めているミチルとアキヒロ。ひょんなことから同居生活が始まった二人。
そこで生まれた心の触れ合い、人の温かさを知ってしまった時の戸惑い。
それがふとした拍子に無くなってしまった時の怖さ。
繊細で柔い心の描写が巧みに描かれていて、ついつい感情移入して読んでしまった。

作中、「一人で生きていけるというのは、嘘だった」というセリフがあるのだが、この先も一人で生きていくのだろうと思っている自分にはグサーっと刺さった。
本当に「一人で生きていけるというのは嘘」なんだろうか。
独身で生きていくつもりの自分は、このさき生きていけるのだろうか。
本を読んで、いまいちど孤独について考えた。
考えて、わからなかった。
私にはまだ母と兄が居るし、気軽に誘える独身の友達も数人居る。
孤独が身近じゃないのかもしれない。
それは、とてもありがたいことだなぁと、自分の環境に感謝。

実は思春期のころ、友達からこの本を薦められていた。
乙一さんは「GOTH」の表紙の暗いイメージがあったので、当時は躊躇して読まなかった。
むかし、世界中の人間はきっとみんな敵だと思っていた。
当時の自分が読んでいたら、ミチルやアキヒロが羨ましくて発狂していたかもしれない。
大人になって孤独じゃないことを自覚した今だからこそ、読んでよかったと思える本だった。


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