見出し画像

カメラと行く建築さんぽ#2 仙龍寺 愛媛県

Date

所在地 愛媛県四国中央市新宮町
竣工年 【本堂】江戸後期 近代改修
    【通夜堂】1880年 近代改修

撮影機材 Fujifilm GFX50R GF30mm F3.5

陰翳礼讃の世界

カメラと行く建築さんぽ、記念すべき第2回は愛媛県にある仙龍寺というお寺へ行ってきました。

仙龍寺は愛媛県新宮村の山奥にひっそりと佇む古刹です。

最寄りの新宮ICからクネクネの山道を慎重に運転しながら進むこと30分。
時折嫌がらせのように強くなる雨風を凌ぎながら、ようやく辿り着いたそこには圧巻の世界が広がっておりました。

結論から言うと自分の感性にドンピシャ、一瞬で大好きになりました。
谷崎潤一郎の名作、陰翳礼讃を地でいく世界。

鬱蒼とした森の中に、ほとんど飲み込まれるように建てられている古寺に差し込む一条の光。
その光が作り出す、濃厚な、湿度を伴った明と暗。

とにかく最高でした。

仙龍寺の簡単な歴史

ここで簡単に仙龍寺の歴史のご紹介を。

815年弘法大師(空海)が訪れ、法道仙人からこの地を譲り受けました。
空海はここで修行し、彫刻した自身の像を本尊としてお祀りしたのが始まりとされています。

実は仙龍寺は四国遍路で有名な88ヶ所に含まれておりません。
場外霊場と言って、88ヶ所を回る参拝者が立ち寄る寺院の一つとされています。

ですが弘法大師像を祀っていることや、当時女人禁制だった高野山の代わりに女性でも参拝可能だった事、毎夜本尊の御開帳と説教が行われていた事などにより非常に参拝者は多かったようです。

外観 

ではでは早速お邪魔してみましょう。
車は道路横の駐車場へ停めます。
道中あれほど降っていた雨は奇跡的に止んでいます。

駐車場より

車を降りてすぐ、眼前に巨大な岩山が迫ってきます。

現在は工事中でしょうか、その岩山に張り付くように目も眩むような高さまで足場が組まれています。
どうやら岩山の表面に丸太を貼り付けている様子。

そのさらに上部、崖のてっぺんに建物が見えているのがお分かりでしょうか?
これが仙龍寺です。

本当にすごい場所に建てたものです。

舞台造りの通夜堂

沢の音を聞きながら急勾配の参道を登ります。

参道の左手は岩山となっており、右手は深い谷となっていて、心地よい沢の音を生み出しています。
その谷の向こうには鬱蒼とした樹木越しに通夜堂の姿が見えています。
崖の上に建っている為、全面舞台造りとなっていてとにかくその姿に圧倒されます。

舞台造りとは懸造りとも呼ばれ、崖などの高低差が大きい土地に、長い柱や貫で床下を固定してその上に建物を建てる建築様式です。

例えば京都の清水寺が有名ですね。
あの清水の舞台から飛び降りる・・・のやつです。
規模は全然違いますけど・・・

お堂の入り口がある高さまで登ってきました。

境内には昭和9年大きなコンクリート橋がかけられ、車が何台も停められるぐらい広い踊り場となっています。
それ以前は木の橋がかかっていたみたいです。

境内の橋の下

その境内の橋の下を沢が流れていて、真っ暗で見えませんが小さな滝があるみたいです。

まるでフランクロイドライトの落水荘を思い浮かべてしまいました。

正面の姿です。
普通のお寺というより古旅館の趣があります。

それもそのはずで、この建物は通夜堂と呼ばれ、参拝者が宿泊できるように作られた建物です。
昔は毎晩本尊の御開帳が行われており、数多くの参拝者が夜を過ごす為の建物が必要でした。
300人ぐらいは収容できるみたいで、当時の盛況ぶりを物語っています。
この山奥で凄いですね。

ちなみに本尊が祀られている本堂は写真左側にポツンと屋根が見える部分です。

ううむ、それにしても良い建築です。
単純にカッコいい。

俯瞰して

お堂の反対側を登れたので撮ってみました。
こちらがより分かりやすいですね。

谷側の側面

右に見える杉の大木は樹齢300年程度と推測され、四国中央市の天然記念物に指定されているみたいです。

いよいよ中へ

さていよいよ中へ入ってみます。
土足厳禁ですのでご注意を。

入り口

真っ赤なカーペットが敷かれた入り口。
本当にお寺っぽくないですよね。

ただそれで緩いというか軽い雰囲気なのかといえば全くそうではありません。
照明は天井に一つ点いているもののその光は弱々しく、他には奥の窓からの僅かな光が差し込んでいる程度でその他大部分を闇が支配しています。

もの凄く威厳に満ち溢れた空間です。
にっこり一休さんパネルがなければ泣き出してしまいそうです。

まずは本堂でお参りしようと思い、2階へ上がります。
ギシギシと歩く度に床が音を立てます。
階段横の窓をパシャリ。

廊下

2階に上がると廊下の左側に納経所があり、その奥が本堂となっています。
ご住職さんでしょうか、お声がけしてお参りをさせて頂きました。

聞いてみると本堂以外はどこも撮影可能との事だったのでゆっくり見学させていただく事にします。
それにしても雲天の柔らかな光が本当に綺麗。
自分のイメージする仙龍寺を撮るにはベストなタイミングで来れたようです。

先ほど参道から眺めていた舞台造りの部分。
窓から下は覗かないようにしよう。
なんか古い学校の校舎みたいでもありますね。
昔は夜な夜なここに多数の参拝者が訪れ過ごしたのでしょうか。

階段

一旦入り口へ戻ります。
どうやら一階部分の奥にトイレや風呂跡があるらしくそちらへ向かいます。

歴史を重ねた床模様が美しいです。

階段手すり

階段を降りていると奥に障子が見えたのですが、これこそ陰翳礼讃の世界ですね。
障子からの淡く弱い光が黒光する床間を照らしています。

欄間

欄間のすりガラス。
なんか可愛い。

階段を振り返って

一階に降りてきました。
トイレの方へ進むと直ぐに5段ほどの小さな階段があり、下へ降ります。

トイレへ向かう廊下

その先は長い廊下。
窓の外の緑が綺麗。
途中右へ降りる階段がありますが、そちらにトイレがあります。
とりあえず直進して奥のお風呂場跡を見に行きます。

さらに階段が

途中さらに階段があり下へ降ります。
面白い構造です。
地形に合わして苦労して建築したのではないでしょうか。

普通に廊下を歩いているだけなのにとてもワクワクします。
この先はどうなっているのだろう?
ちょっとした冒険気分です。

お風呂場跡

廊下の終点にはお風呂場跡がありました。
タイル張りの浴槽。
現在は宿坊は行われていない為、使われていません。

浴槽の足元部分に石が貼られています。
こちらも可愛いデザイン。

長い廊下を戻り、トイレへ向かいます。
案内標識は ”便所”
なんか今聞くと新鮮です。

光と影

長い廊下から谷側へ降ります。
この時の階段で撮れたこのショット。
大好きな写真です。

階段を降りると通路は2方向に分かれています。
トイレの反対側がこちら。
立ち入り禁止の為見れませんでしたが、おそらく泊り客の為の部屋と思われます。

手洗い場

トイレの前には沢水を引き込んだ手洗い場。

屋根は張り出しているものの壁はなく、大胆な造りです。
もちろん下部は舞台造りとなっており、宙に浮いたような感覚に陥ります。
さらに言えば何か、ワイドスクリーンの巨大モニターが眼前にある様にも感じられます。

窓ガラスが一枚ないですよー。
こんなに大きな開口だと雨の吹きぶりなど心配になります。

最高の秘密基地

今回もじっくり堪能させて頂きました。
見学出来たのはほんの一部分だけですが、本当にワクワクできる建築です。
有機的に複雑に絡み合った迷路みたいな様はまさに秘密基地のようでした。

建築知識がさっぱりの素人なので細かなディティールが果たして凄い事なのか、普通なのかよく分かりませんが、とにかく写真好き、建築好きには見所沢山あります。

1.崖の上に聳える舞台造りのお堂

参道から見上げる通夜堂は大迫力です。

2.古旅館を思わせる内部の造り

通夜堂内部は崖側が一面ガラス窓で非常に眺めが良いです。
さらに木々を通過して優しい光が入るので写真が楽しい楽しい。
どの場所もフォトジェニックです。
ポートレイトなんかにも絶対合うと思います。

3.都市の喧騒から完全に切り離された静寂な空間

またしても前回と同じような感想で申し訳ないですが・・・
ここは本当に静かです。

沢の音と木々の擦れる音だけの世界で当時の姿に思いを馳せ、じっくり建築を堪能する。
なんて贅沢な時間でしょうか。

今回も大満足の建築さんぽ。
次回はどこへ行こうか?
そうやって考えるのもまた楽しいですよね。

ではまた。
最後まで読んで頂きありがとうございました。


【参考文献】
四国八十八箇所霊場詳細調査報告書 第65番礼所三角寺 三角寺奥之院 三角寺奥之院道 愛媛県教育委員会 2022.1



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?