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付随的な作用の検討【Part 5/6 ばね座金の功罪】

 ばね座金の付随的な作用について検討する。付随的、というのは①ゆるみ止め効果に関係するが、あえてばね座金である必要が無い機能 ②ゆるみ止めに関係ないがばね座金特有である機能 この2つ。

5-1.面圧を下げ締結を安定させる作用

 座面を拡大し面厚を安定させる作用がある。言うまでもないかと思うが一応書いておく。ただ、平座金のほうが直径が大きく従って座面も広く面圧も低い。

5-2.スペーサ効果によるScr向上

 ここでは限界相対すべり量(Scr)を使ってばね座金の厚みがゆるみづらさに与える影響を定量的に検討する。限界相対すべり量の式は様々提案されているが、ここでは山本,賀勢らが提案する[1]の提案する式を使う。kw: ボルト頭部の傾き係数 は中村ら[2]の提案する式を使う。

ボルト・ナット脱落防止のためのねじ締結の 回転ゆるみ挙動評価[3]より 図だけ引用

 板金など薄い締結物はゆるみやすいということが経験的に知られている。[4]  また、基板・端子・板金筐体など薄い締結物が多い電機・電子業界は他業界と比べてばね座金がよく使われており、ゆるみ止め効果に対する印象も良いことがWebアンケートから判明している。[5]
 したがって、締結物が薄い場合にはばね座金がゆるみづらさに何かしらの影響を与えていると仮定し、限界相対すべり量を使って検討する。
 薄い締結物を使用するケーススタディとして、一般的なDINレールを板金筐体に取り付ける場合を考える。締付けトルクはT系列と0.5T系列の2通り考える。[6]

限界相対すべり量Scrの試算結果

 座金を含めた被締結物が厚くなるにつれScrは改善し、無い場合と比較して2~3倍まで改善する。
 板金など薄い締結物にばね座金が使われている場合、安易にばね座金を抜いて締め付けるとゆるみに繋がる可能性がある。

5-3.不完全ねじ部の回避

 ボルトのねじの根本にはねじ山が加工できない、あるいは加工できてもねじ山が浅い「不完全ねじ部」と呼ばれる部位がある。加工工具が届きにくいのでどうしても発生する。この部位はナット側のねじと噛み合わない。
 この「不完全ねじ部」は一般的にねじピッチの2~3山程度の長さ存在し、薄い部品(板、圧着端子etc…)を締結する際に問題となる。[7]

 不完全ねじ部を回避するために、座金が使用されることは一般的であり、またバネ座金は平座金より厚いのでより都合がよい。

並目全ねじボルトの不完全ねじ長さ・座金厚さ一覧表

もしばね座金の使用を中止した場合、不完全ねじ部によりゆるみを発生させる可能性がある。

5-4.仮止め、目視点検、自動締め付け機での利用

 これは生産現場での実践的な使い方であり、ゆるみ止め目的以外でのばね座金の使い方でもある。
1.仮止め
 位置決めのため、ばね座金をある程度つぶした状態で保持し、ばね反力をもって部品を軽く固定することがある。
2.目視点検
ばね座金はその特異な形状により、締め付け前後で形状が大きく変化する。よって締め付け忘れや、あるいはゆるみを目視で発見しやすい。
3.自動締め付け機
 自動ねじ締め付け機は締め付けトルクをリアルタイムに計測し、規定のトルクに達したとき工具の回転を止める制御をする場合がある。そして生産性向上のために工具回転数(締め付け速度)を上げていくにつれ制御が難しくなる
 そのため目標トルクの手前で回転数を落としたいのだが、ねじが着座してからのトルク立ち上がりが急激であるためセッティングが難しい。もし、ばね座金があればねじ着座の前からばね反力分の抵抗があるため回転数を落とすトリガーとして使いやすい。

ばね座金を使用したときのトルク波形イメージ [8]

まとめ

ばね座金は以下のような場合に有効である
・目視点検を行いたい場合
・自動締め付け機を使用する場合

以下は平座金やスペーサでも同じ効果が得られる。比較検討すること。
・薄物を締結する時

Part 5/6 参考文献

  1. ねじ締結の原理と設計 (養賢堂)

  2. 軸直角方向の往復荷重が作用するボルトの回転ゆるみ限界評価
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/kikaic1979/67/661/67_661_2976/_article/-char/ja/

  3. 設計知識データベース
    http://www.sydrose.com/creativedesignengine/HTML/aa3-00457/aa3-00457.html

  4. 200件のアンケートから見る”ばね座金” Part 2/3
    https://note.com/hexcapbolt/n/n8dde5eeecfaa

  5. ボルト・ナット脱落防止のためのねじ締結の 回転ゆるみ挙動評価
    http://www.hibizaidan.jp/asset/pdf/report/report_h23_nishimura.pdf

  6. 東日トルクハンドブック vol.8
    https://www.tohnichi.co.jp/products/download/service_file/12

  7. やまりん新聞 不完全ねじ部とは?
    https://neji-trivia.jp/2020/08/01/trivia134/

  8. 座金の存在意義を考える。
    https://www.haruyama-ce.com/2020/06/01/%E5%BA%A7%E9%87%91%E3%81%AE%E5%AD%98%E5%9C%A8%E6%84%8F%E7%BE%A9%E3%82%92%E8%80%83%E3%81%88%E3%82%8B/

⇚前:Part 4/6 食い込み作用の検証
次⇒:
Part 6/6 使用指針

ばね座金の功罪 目次

Part 1/6 この記事の目的
Part 2/6 ゆるみ試験結果の収集分析
Part 3/6 ばね作用の検証
Part 4/6 食い込み作用の検証
=Part 5/6 付随的な作用の検討=
Part 6/6 ばね座金の使用指針

コラム① ゆるみ現象の分類
コラム② 世界のばね座金(準備中)
FAQのコーナー

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